アーノルド・シュワルツネッガー主演作のリメイク。
旧作やブレード・ランナーを知っている観客がリコール(Rekall)体験をしているみたいな映画。もしも貴方がゲーマーで、Sleeping Dogをプレイした経験があるなら、既視感や二重性のようなリコール感覚がより増したはず。なぜなら劇中で“コロニー”のオーストラリアは、香港のクーロン島にしか見えなかった。ブリテッィシュ・エンパイアが全てを牛耳っているという背景には、香港を巡る世相や現実の英国でのテロを連想させる興味深い皮肉を感じたが。
全般的な感想としては、良くも悪くもリメイクで、期待していたサプライズが不足がちだった。旧作以上にアクションがベタ続きである点にも少々失望、というか食傷気味。
マイケル・アイアンサイド(リクター)とシャロン・ストーン(ローリ)の役どころが、新しいローリにまとめられていた。主役達を映画の最後まで殺さずに出演させる折衷はお見事(監督の奥さんだしね)。
マサイアスの役どころが弱い。主人公に「過去がどうであったかは関係ない。今を生きていることが重要なのだ」とテーマを伝える役どころは旧作と共通であるものの、双子(胎児)のテレパスに相当する仕掛けもなく、X-Menの対立する二人の巨頭のような描かれ方であり、それにしては存在感が乏しい。コーヘイゲンは欲の塊でよしとしても、マサイアスの立場やリーダーシップの理由に厚みが欲しかった。
化学戦後の立ち入り禁止区域に立ち入った際の表現に説得力がない。旧作で絵空事っぽい設定を排除ないしは補強した苦心が見られる本作にしては。つまり、ガスマスクをしていれば済む話ではないだろう。衣服に付着したものを吸い込んでしまわないのか? 呼吸不可能だから生存できなかった火星の方がマシに感じられる。フォールという乗り物の物理学的な疑問はこの際問わないことにしておこう(車が宙に浮く時代だ)。化学戦後の地表を通過したくないとなれば、「トンネルだ!」という閃きは馬鹿げていてとても面白いから。
シンセティックは「アイ、ロボット」、カーチェイスも同作や「マイノリティ・リポート」他で非常に似通った未来像が既に描かれている。驚きにさほどパンチが無い理由のひとつだ。特に白いシンセティックは、スターウォーズ世界の出来事であるクローンウォーのトルーパーと被りすぎている。トルーパーを一斉に寝返らせることが出来た“コード”の仕掛けまで同じでは、見ている方までバツが悪い。たてよこお構いナシに往来するエレベーターは、トレッキーにはターボリフトとしか映らなかったことだろう。
ファンタジックすぎた火星人と火星の蒼い空が、フォールとブリテン連邦の放逐にすり替わった。大きな仕掛けで異なるのはそこくらいだ。醒めない夢を見続けることにしたのかもしれない男の顛末は、夢かもしれなかった暗示が最後まで強めに提示されている。
旧作を知っている観客へのご褒美はいくつか見受けられた。三つのおっぱいとか、恰幅の良い派手なご婦人の“2週間”。エレベータで切断されちゃうシンセティックの腕。嘘を見抜いた理由が汗から涙へ。
「ペイチェック 消された記憶」原作にみられたような七つ道具的なガジェットは旧作よりも品数が削られて残念。ピアノの鍵盤は斬新だったけれども。
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