グレゴリー・ペック主演、エリア・カザン監督のモノクロ映画『Gentleman's Agreement』を鑑賞。この頃の演技は舞台っぽいとでもいいますか、わざとらしいものがあるように感じます。場面転換は全てディゾルブ。女優はソフトフォーカス。それはともかく、古典も悪くないな、と。
テーマは「偏見(この映画ではユダヤ教徒への)に対するアメリカの理想や正義はどこへ行った」という社会批判と「それに屈さない一歩が大事なのだ」と説く教科書的なアプローチ。
上流階級の保守派であるとか、ムラ社会といった問題はどこでもあるんだなぁというわけですが、私が着目するのはその部分ではなくて、筋運びと恋愛の成就で見せている手法がものすごく巧みだと。47年当時の暮らしぶりが垣間見える丁寧な描き方も面白かったです。どう転んでも作りは恋愛映画なんですよね、それも子持ちの男性が再婚する話、そこに見所があるし面白い。アメリカの恥部を描くとか、そんな強烈なものではないんですわ。
依頼記事の「反ユダヤ主義」を重く受け止めるあまり、再婚相手にも容赦なく偏見と立ち向かうことを突きつけてしまうフィル。女性の立場を想像して、こんな旦那ではたまらないだろうなぁと感じつつも、出会ってすぐにこうも発展するのはフィル(ペック)がハンサムだからだよなぁと、冴えない男性の一人として思ったりするわけでございます。フィルの熱血漢ぶりは、どうしても作りごとのドラマっぽく見えますが…。秘書に代表される周囲の反応「だってそれが普通でしょ、悪気はないもの」が非常に現実味があり、空恐ろしいものを感じさせます。
デイヴの言葉を受けてキャシーが最終的に気が付くシーンがあることが救いで、責められる(一歩を踏みだせない)立場の意見もきちんと取り上げているんだと思ったのも束の間、あっさりと感化されてしまうのは少々出来すぎですし、かなりの理想論ですよね。現代劇なら、問題提起に留めておき、反対意見だけは汲んで解決をみないままのほうがよほど自然でしょう。ただし、この映画の場合はあくまで恋愛モノなので、解決して頂かないと困りますが。扉越しに抱擁するラストは穏やかで綺麗です。
ファッション担当のアンの役回りが哀れ。彼女の「同性で若くて美人で恋仇、価値観はサイテー」への痛烈な批判が格好良く、半分プロポーズのような告白が涙を誘います。「どうしてか、いい男はああいう女が好きなのよね」てなわけで。お局さんは皆同情することでしょう。デイヴが「(所帯持ちのイケメンを好きになるのは)本能が正常な証だ」とか洒落たことを劇中で言ってますが。そう、出会うタイミングが遅いだけですよ。そのタイミングが一生を左右するんですがね。
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