第8話(第1シーズン最終話)
フリンも視聴者もこれまで知らなかったであろう世界の秘密を明かして、そればかりか、すぐに使ってしまう。種明かしと実行が同時。
殺し屋ボビーに対して(フリンを殺さないとボビーの娘が殺される)
フリン母「もう一つの可能性に思いつかなかったのね。自分が死ぬのよ」
――が伏線。
キリスト教だと自己犠牲が最高位の気高い行いらしいんだよね――キアヌ・リーブス主演の映画コンスタンチンが皮肉に描いているやつ。地獄行きの男でも自己犠牲で天国行きになれる。そういえば、映画バタフライエフェクトのオチもこれでした。
(コナーへ)フリン「何を頼んでいるか分かる?」
ごめん、わかんない!
(原語)“This thing that I'm talking about... ...it'd have to look like Lowbeer sent somebody as a favor to Cherise, solving her problem for her.”
(吹き替え)お願いしたいのはね。警部補がシェリスのために誰かを雇ったように見えないとだめなの。
(字幕)だからお願い。警部補がシェリスのために人を雇ったように見せて。
(素直に翻訳)頼みたいことは……シェリス自身の問題を解決してやる為に、警部補が誰かを派遣したように欺く必要がある。
邦訳の「シェリスのため」というのが、シェリスに味方することなのか、あるいはシェリスを抑えるためなのか、どちらにも受け取れてしまう。一方で、原語はそこをしっかり表現している。
前話でシェリスは警部補にフリン(とその周辺)殺しを依頼している。今話で警部補はフリンに接触して、共同戦線を張ろうと申し出ている。
したがって、このオプション、どちらもあり得るから。翻訳者、先を知っているからって、手抜きしないで、もっと頑張ってほしい。
フリンは、シェリスが警部補を通じて自分を殺そうと画策していることを、なぜか察知している。勘の鋭い娘と考えてもいいが、そこは主人公補正(ご都合主義フラグ)に見える。RPGなら、プレイヤーの判断で分岐してもいいところじゃなかろうか。
What about this world? We done with it?
(吹き替え)こっちの世界では、もういいのか?
(字幕)この世界とはお別れか?
(素直に翻訳)もう、こっちの世界には戻れないのか?
No, we'll be back.
(吹き替え)戻るよ。
(字幕)戻ってくるわ。
(素直に翻訳)また帰ってくることになるわ。
Why?
(吹き替え)なんで?
(字幕)何しに?
(素直に翻訳)どうして?
'Cause I'm gonna kill that bitch.
(吹き替え)あの女を殺してやらなきゃ。
(字幕)クソ女を殺しに。
(素直に翻訳)もちろん、あのビッチを殺すつもりだから。
「こっちの世界では、もういいのか?」は、曖昧すぎて言いたいことがはっきりしない。字幕の方が意味が取れる。何がもういいの? 誰が?
コナーは健常者として歩き回れるこの世界に未練があるはずだから、暗に「もっと居たい」という心情があるはずだ。We done with it? はそういうニュアンスだろう。「もう用はないのか?」→ここへはもう来ないのか?
その応えも、「また、帰ってくることになる」の方が自然。全員でまた帰ってくることになるだろうって言ってるのだから。「戻るよ」って誰が? せめて「みんなで戻れるよ」くらいにして欲しい。
'Cause はフリンの意志が固いことの表現で、主語は私。全員が殺意を持つわけじゃない。フリンが殺る気でいるだけ。
I know it's a lot, Conner. But if it helps any, I've made peace with it. I'll just take a walk out past Hawthorne Creek. And I'll count back from ten in my head.
(吹き替え)たいへんな頼みだよね。でも私はもう納得してるから。散歩をする。ホーソーン川の向こうへ。頭の中でカウントダウンする。
(字幕)つらいと思う。でも私は納得してる。散歩をするわ。川の向こうにね。頭の中でカウントダウンする。
(素直に翻訳)無理は承知よ、コナー。気休めになるなら。私はこれで満足なの。ホーソーン川の向こうで散歩する。頭の中で10からカウントダウンする。
ここまで見て、視聴者とコナーにフリンの作戦が分かる。
危機回避と区切りを上手く図って締め。続編が作れなくても、とりあえず完結している(現在では、第2シーズンが既に決まってるけれど)。
宙ぶらりんな状態であらすじを進展させて、最後まで切り札を残して、それはまだ有効。クリフハンガーでもあるし、小休止でもある。
さらに進展させる余地が残っていて、実に優等生な作り。
フリンの立場を整理してみる。
フリンは:
・あの2100年には存在しない(ジャックポット分岐前には居た)。
――タイムパラドックスは心配しないでいいようだが、レヴ・ズボフの件もあって、因果の関係がよくわからない。平行宇宙に分岐するため、祖父殺しのパラドックスは発生しないようだ。
・ペリフェラルを操らせば無類の強さ。
・正義感がある。
・仲間や2032年への絆や想いが強い。
……こんなところか。そして、切り札のニューラル・アジャストメント・メカニズムを含む機密情報を脳みそに格納している。歩く信管のような存在か。
クリプト、ネオプリム、アリータの組織は三つ巴で今後も闘争を続けるのだろう。警部補(政府?)もいるか。
序盤の最重要キャラと思われていたウィルフの立ち位置がかなり下がってしまった?
今後、恋人として機能するかも知れないが。2100年とフリンを繋ぐ水先案内人の役目はまだまだ続くだろうし、キーパーソンでは居続けるだろうが、フリンにとっては補佐役(ゲームでの脳の中の声)に留まってしまいそうだ。
兄バートンの存在も弱くなってしまって、リセットと手足のあるアバターに関心のあるコナーだけが“現地での”協力者になる。
冒険はまだ始まった(リセットした)ばかりで、この路線(タイムライン?)は意外とつまらないかもしれない。想像の上を行く展開が今後期待される。
得てして、第2シーズンがガクッとつまらなくなる可能性もある。同じアマプラの「アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~」は、第2シーズンが信じられないほどパワーダウンしてしまった。私が思うに、惰性で動いているだけで、以前のウィットや創意工夫がまるで無く、視聴して途端にがっかりしたものだ。
そうならないことを祈ろう。ご健闘を、フリン&スタッフ!
全話視聴後の感想
存分に愉しませてくれた。……んだけれども、ちょっと物足りない。話数が進むにつれて異世界(2100年ロンドン)での冒険がどんどん減っていたから。
アクション活劇であったはずが、駆け引きと田舎町の人間模様になってしまい、あげく全部描ききれずに残して幕を引いたような。
政治思想の対立をもっと詳しく描写した上で、ただの黒幕ではない表現のシェリス・ニューランド博士も見たかった。
レヴ・ズボフも悪人めいた部分があって、そこももっと知りたかった。アリータが結局どんな革命をしたかったのかも。アリータとウィルフを軸にした本筋が始まるものだと思っていたから、アリータ失踪で拍子抜けでもあった。
結局、2032年ではどの辺りからリセットがかかったのか(分岐したのか)、よく分からずじまい。シェリスをぶち殺す画もなかったわけで、そういう種類の爽快感はない。話の締め方を急ぎすぎて事後の顛末もない。終盤にかけて早足で雑になっている感じがする。
作品世界で遊び回ったテーマパークのよう。その世界の実については浅いまま。惜しい。
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