第7話。実は今までで最も興味深いエピソード。
その前に。
シヴがジョージに射殺される場面がプレビューとして何度もリピートされるのであるが……演技が大根に見えて仕方がない。突き出した右手を、撃たれると同時にすぐ左腹に当てる――私は撃たれたことがあるわけではないから、どういった演技が現実的であるかを述べることはできないが、(口径にもよるが)たぶん銃撃による弾の衝撃とショックをまず肉体は受けるだろう。痛みはすぐに感じられたりはしないかもしれない。だから、銃傷へすぐ手が行くよりもまず、やるべき演技が何かあるだろうとは思う。シヴはジョージが完璧に裏切れずに音を上げると踏んで行動していたはずだ。だから、撃たれたことは相当に意外であったはず。他の道を探ろうとか、今ならまだ戻れるとか、俺のようにはなるなとか、ありきたりでも説得すればいいようなものを、フツーにアクション映画風の演技しか出てこず幻滅なのだ。
さて、本題はここから。
生き返らせたシヴに、ジャネットへの咎を感じるから送金しているんだろ、と言うジョージ。大事なドラマを後で付け足してくる脚本。まぁ、アクションやらのスピード感や物語の展開を優先した結果と受け取ってもいいが、本来は殺し合う前にあるべきセリフだよなぁ。
新米エージェントとしては間抜けで浅はかにしか見えなかったジョージが事もあろうに、先輩株のシヴを説得してしまう。ものすごい力業。シヴをスケープゴートにするから自らの悪事はバレないという、ご都合主義で天才級のアイデア。一介のアプリ開発者に過ぎないという周囲の捉え方すらも利用した、さすが天才級のアプリを作り上げただけのことはある、有能な人物の仕業――と見せたい脚本なのであるが。そんな男だから、短期間で銃の扱いにも長けたのだ――と読んで欲しいわけであるが。
――どうだろうか、出来すぎた展開だよなぁ。そんなに人心の扱いに熟知するものか、ただのアプリ屋のようなギークごときが。体験した恋愛沙汰から相手の気持ちが読めるのはアリだが、ジョージはシヴの過去を知らないし、現在のシヴは頑なに偏屈でドライな人物を晒していたわけで。ジャネットへの送金からそこまで見透かせるとしたら、超人級のマインドだ。視聴者はジャネットの出産を何度も見たから、そうした考えが向くように出来ているが、主人公が視聴者と同じような理解をできることとは視点が違う。
ジョージは自ら殺した一般人全員には開き直って弁明しないつもりなのだ(彼らには改変前の記憶が残らず、その必要性が無いから)。非常に打算的な人殺しのクセに、(シヴの)心の痛みは分かると言う。それをもって温情と引き換えに、裏切りの罪を赤の他人に着せても良心の呵責を感じない。なんという男だろうか、ジョージは。物語的に成り立つ主人公のひととなりは、誠実さは微塵の欠片もないくせに感情を手玉に取れるという恐ろしい化け物だった――ある意味、功利的で現代的な若者像に加えて、相容れないはずの人情の酌量を計算する理性が伴っている。
だから、「巻き込まれ型の平凡な善人が起こす悲喜劇」というスタイルを成り立たせるにはあまりにもアウトな脚本だと思うのだ(性善説ではなくなるから)。パーパ・エッシードゥには向いた役柄ではあるが。見れば見るほど自己中な主人公でしかなくなる。要するに、恋人を救わんが為に、「人(または魂)を売った詐欺師」の話になっていく。主人公のため息で済む話にしては、相当に重い中身が転がっていたわけなのだ。もはや、「こんなことになるとは思わなかった」という間抜けな輩ではなくて、「全てを分かっていて、やった」というエリート確信犯になってしまったのである。これは相当なギア・チェンジに映る。もちろん、脚本家はそのつもりで書いたのだろうが。
ジャネットの娘に起きたことが、シヴが原因だったとジョージは推論している。シヴの罪の意識が送金なのだ、と。視聴者が知りうる範囲では、レブロフとジャネットの最初の息子は娘になった(それも何度も)ということだけだ。私は各話一度視聴したきりなので、見返せば見逃した発見があったのかもしれないが。
逆に言えば、シヴが組織を裏切る動機は何であるのか、ジョージが語るほどにはピンとこないことになる。シヴがジャネットと通じたゆえの隠し子ということだろうか。字幕だとセリフをおおまかにしか表しておらず、この細部が聞き取れなかった。シヴは“子供”の因縁でジャネット側へと寝返ったというジョージの筋書きなのか。この線はシヴにとってかなり図星か、都合の悪い事実でなければならず、でないとシヴは反証すればいいはずだ。
私の見立てが間違っていなければ、このドラマ、想像以上に奥深いところへ追求していきそうな気配がある。ただし、混沌と混乱を前提とした作りなので、その複雑さと奥行きが単なるはったりへと変化してしまう恐れも多分にありそうなのだが。
第8話へ続く為の結末を見ると……ダメだろうな。代償という描き方では納得いくが、ドラマとしては矮小でつまらない。登場人物の相関も第2シーズンありきだろう。ラザロというタイムリープを操る組織の面白さは微塵もない。
第8話――第1シーズン最終回でようやっと面白くなりそうな展開に。これまでの長すぎるサイドストーリー&過去話は何だったのか。しかも、ジャネットがいつの間にか超天才になってしまっている。核弾頭の起爆装置を作れるだけでも相当イカれているのに、タイムマシンに詳しいと来た。……なんだそりゃあ!
構成が上手くはない。もしくは、編集で切り詰めることをせずにダラダラと1シーズン消費することにする体たらく。
サラを生き返らせるというジョージの代償は、改変されてきた過去の記憶の共有で穴埋めできそうなところまでは行き着いた。ここで、ひとつ疑問がある。ジョージと出会ったパーティでの記憶が何十とやり直された結果であることに、サラは疑問を抱かないのか? そもそも気のなかった男から都合の良いモーションを何度となく受けたゆえの付き合いだったわけなのに……
シヴとジャネットとの関係も明確には分からないままだ。シヴはジャネットの出産に関する不遇に同情していた……あるいは片思いであった、とかか? そのシヴの善意を裏切りの証拠に使うジョージは冷血漢で悪辣でしかない。
アーチーは第8話でジョージの裏の顔にとうとう気が付くが、情状酌量してやるというご都合主義だ。
向かいの隣人がパラメディックだった、なんてのは端から読めた。元カノはジョージがスリリングなスパイだと分かるや、ヨリを戻すようなどうしようもない女教師だった(そこに幻滅を覚えないジョージもジョージだ)。
事態は登場人物の罪のなすりつけ合いや派閥の対立では済まないことから、丸く収まる理由になっていく。再び、脚本の力業だ。呉越同舟で、敵味方双方がジャネットの捜索/救出によって3週間毎のループを脱せるに違いないと考え出す。視聴者はそれに乗せられて、これまでの因縁をリセットした気分で第2シーズンを待ち望む……ものすごいトリッキーなクリフハンガー。面白いというよりは騙されてるような案配ではなかろうか。この有様だから、もっとコミカル寄りな作風が似合っていたと思うワケなんだよな。
そもそも、英国人が、どうしてアメリカの銃社会を真似たドラマを作ろうとするんだろうか? 英国は日本と同様に法的に銃の携帯が許されておらず、一般人が銃とは無縁の社会だ。それほどアクションで引っ張らないと視て貰えないのか――北米への輸出を考えている、ということか。
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