ウエストワールド(自律する人造人間)を見終わって退屈している俺が久しぶりに興味を持ったのは「意識のデジタル化」を扱う作品でした。
※以下ネタバレ
2033年の世界では、瀕死の重傷に陥った者は「アップロード」サービスを依頼することで(肉体と供に死亡する代わりに)意識のデジタル化が出来ます。もちろん有料ですが。
デジタル化された意識は、ホライズン社のレイクビューというヴァーチャル観光地でホテル暮らしをしながら、いつかまた(肉体への)ダウンロードが叶うまでの時間を過ごします。
死んでいるはずの違和感に飲まれると精神に異常をきたすらしく、レイクビューの住人らは、仮想の肉体を意味するアバターはあれども意識だけの存在となっていることを敢えて無視するよう、仕向けられています。生きていた時と似たようなことをして過ごすことは、正気でいるために大事なことなのです。
この辺りは、まるでウエストワールド第2シーズンの受け売りのようです。劇中では、決して終了(Quit)の利かない、死者たちのVRChatの如くに描かれます。
追加コンテンツはソシャゲーのゲーム内課金の要領で入手します。もし、生前のような暮らしぶりを追求すれば、課金地獄となることでしょう。もっとも、アップロードサービスを利用するのは専ら裕福な連中ばかりなので、彼らにとっては造作もないことです。
貧乏人のアップロード空間もあるにはあり、そこではスマホの従量制プランを使い切ってしまったような惨状で人々が暮らしています。娯楽は無料提供の範囲だけ。食事は開発中の試食品。支払いが滞るとアバターはフリーズしたまま……などなど。
毎回、レイクビューの日常が描かれるのですが、それだけでは制作側は心許なかったのか、陰謀とサスペンスタッチの伏線が加えられています。
「別世界からのメッセージ」もそうでしたが、「都会の孤独」が登場人物らの暮らしぶりとして頻出します。核家族化が当たり前になって久しく、SNSを発展させたアメリカですら、劇中の大都会LAですら、孤独を感じる人々が一定数居るという証拠で、日本の少子高齢化やヲタクの未婚状態にも共通する、普遍的な題材ということが分かります。
そして経済的な格差のイメージ。主人公は中流階級らしい27歳のIT青年ですが、恋人は明らかに富豪の娘。そして、レイクビューのエンジェル(顧客サポート要員)として雇用されている女性は同居人とアパート暮らしする、ブルックリン在住の独身女性。経済的に恵まれているとは言えない身分です。格差のある3人を並べて描くことで、人生や価値観の違いがそれとなく触れられる秀逸な構成となっています。
富豪の娘は、わがままで他人からの視線を意識し、男性を操ることを好みます。主人公はアップロードサービスでの経済格差を是正する発明をプログラムして売り込もうとしたところで何やら陰謀めいた事故に遭遇して、レイクビューでの死人暮らしに。生前はおつむの弱いインスタ映えしそうな彼女(富豪の娘)とのセックスに夢中――要するにイケメンのプレイボーイ――でしたが、死んでからは性欲に突き動かされることがなくなり、自らの存在意義に、より気が回るようになっていきます。
エンジェルの女性は主人公のサポート担当となったことをきっかけに、飾り気のない主人公の言動に心惹かれていきます。彼女は出会い系サービス「ナイトリー」でセフレの男性とも懇意になりつつあるのですが。
日常系のノリはやや単調ですが、雰囲気は悪くない。主人公ネイサンとエンジェル:ノラをめぐる恋愛模様がほんわかと進行します。
ネイサンの従姉妹に、中学校教諭のフランという女性が出てきます――典型的にモテないタイプ(女性版ヲタクの一種)として。ところが素人探偵としての腕前は相当で、ネイサンの事故の真相に迫ります。美醜だけではない有能さが描かれている辺り、外観による差別といった格差にも制作側は敏感であることが窺えます。
なんてことない恋愛ドラマですが、SF設定と、今日のSNS/スマホ/アプリ界隈を暗喩したイジり具合が秀逸で、ほどよい湯加減。一本30分弱という長さもチョイ見に最適。重くてギトギトしたドラマは敬遠したいけれど、軽すぎるが故にのめり込めないドラマも味気ない、そんな気分の時に向いてます。
現在6話まで視聴済み。1シーズン分は既に公開されているので、先も楽しみです。見たいときに視聴できるオンデマンドは便利ですね。
アマゾンが制作というのも、ドラマが揶揄するようなGAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)であるわけで、実は非常にメタです。
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