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ウエストワールド第3シーズン第5話

若かりしアンゲロン・セラック兄弟とリアム・デンプシーSrが殺害されるまでが描かれます。

※以下ネタバレ

セラック兄弟が人工の神となるべき「レハブアム」を作ったのは、彼らの故郷であるパリがなすすべなく壊滅し、この世の神が不在だったこと――神の救いが必要であること――が明らかになったためです。

セラック兄弟はノーラン兄弟自身を投影したものであってもおかしくない印象ですね。劇中ではセラック弟が死んだようですが。

リアム・デンプシーSrはINCITE社を保有しており、そのビッグデータがレハブアムの前身ソロモンに与えられたことで、リアルワールドの鏡像によるシミュレーションの確度が高まりました。

ソロモンは株式市場の推移を正確に予測し、INCITE社の500万ドルが一週間後に1億ドル足らずに膨らみます。

ソロモンが世界を監視している画面が、日食時のコロナ観測のような図であるところが興味深いですね。墨絵のように東洋的で、陰陽のように記号的で、太陽と月の重なりとして語られます。映画Arrival(邦題メッセージ)のヘプタポッドの曼荼羅を連想させます。

リアムはカネにしか興味を抱きませんでしたが、兄弟は、滅亡待ったなしの世界を革新できると希望を抱きました。

ところが、救いに向かうはずの「世界の予測」がハズレ値(out layers)の増大によって、200年後には滅亡へと通ずることが明らかになります。ソロモンを開発するほどの天才のセラック弟が、その制御不可能な要素のひとつだったからです。

P.K.ディックの少数報告にも似た、未来予測の確率の問題ですね。観測者が観測すると未来が決定してしまうという量子論とも似ています。


一方、リアム・デンプシーJrを誘拐したケイレブは、デジタル麻薬「ジャンル」に影響されて5種類のムードを味わいます。BGMがその雰囲気を視聴者にも理解させてくれるのですが、1つ目はウエストワールド第1シーズンのホスト視点を思わせるサントラ。次2つ目のワーグナー「ワルキューレの騎行」は映画「地獄の黙示録」のキルゴア中佐の場面でも流れました。3つ目の「ある愛の詩」では、ドロレスの横顔を注視してしまうケイレブ。4つ目はイギー・ポップのNightclubbing。ところで、一行が地下鉄に乗り込んだ後に乗車口の誰かを批難するように見やる演出があるので、何かカットされたのかな?

調べていて気が付いたのですが、第1シーズンで出てきたロバート・フォード博士が仕込んだとされるレヴェリーとは、つまり、DebussyのReverie(ドビュッシーの夢)だったのですね。サントラもそのまんまドビュッシーです。レヴェリーとは、ホストが自我を確立するに至る不具合の元凶でしたが。

また、興味深いのは、情報を映し出すスマート・グラス(眼鏡)の演出ですね。眼鏡の着用者は、レンズの内側に投射された文字や映像情報を、ARのように視野内で読むことが出来ます。そのため、タブレット端末に目を落とす必要がありません。

スマートグラスから発展して、ドロレスの場合は、瞳(コンタクトレンズ)に情報を映して速読しているであろう場面がでてきます。余談ながら、スタートレック:ピカードでもそっくりな瞳の演出があって、サンフランシスコにあるスターフリート・ライブラリの人工司書が同じようなことをしていました。しかも、その司書Indexを演じるMaya Eshetが出演した作品が、かの悪名高いSFドラマ「ナイトフライヤー」で、彼女が劇中で演じたCyberneticistのロミーが、まさに同じ瞳の演出でサイバー空間に繋がっている場面がありました。つまり、この演出の“発明”はナイトフライヤーが発端であるらしいことが窺えます。

さて、リアムJrの生体認証と、レハブアムがあるINCITE社ビルにいるコネルズ(コピー)を使って、ドロレスはリアルワールドの人々に“檻”の虚像を見せてやろうとします。

ケイレブ「おまえが管理するニセの希望にすがるよりも、混沌の中で生きた方が、まだ慈悲深い」

民衆は、レハブアムが予測した将来を知ります。いきなり、携帯端末に自分の機密情報が届くのです。それを読んだビジネスマン男性は、自分が他人から全く信頼されていないことを突きつけられます。ある女性は12年後に若年性アルツハイマーが発症することを知り、ある母親は幼い娘が数年の内に自殺することを報されます。

この状況、ジャコ・バン・ドルマル監督の映画「神様メール」に似ていますね。このコメディー映画では、例えば、死ぬ日時を知った若者は、まだ死なないことが分かった途端に無茶をするようになります。空からダイブなんかをやって。

セラック兄=アンゲロンは、弟の発狂を機に、遺伝子治療で人類の「外れ値」を取り除くことができるという思想に取り付かれます。「レハブアム」は、予測を揺るがす「外れ値」の人間を戦場に送ってしまっていたと言います。そこで、人間に新しいシナリオを試すことが、アンゲロンによる次なる“救済”でした。

もともとケイレブもそうした外れ値の一人だったのかもしれません。少なくともドロレスの傍にいる彼は、レハブアムの支配から脱却できました――しかし……

出演者の数人が劇中で黒いマスクをしているのが気がかりです。撮影時にコロナウィルス感染の予測ができたかのようで。

「ジャンル」の最後は「シャイニング」でした!――確かに注意が必要かも。自殺現場とされる浜辺をケイレブ一行が訪れます。

リアム・デンプシーJrは、クズ人間は人類のためにならないのだ、と言い放ちます。まるで「腐った蜜柑の方程式」のようです。

そのムードの中、ケイレブに蘇った記憶は……意に沿わない誰かを拉致した時のもの。あぁ、ケイレブも新しいシナリオの犠牲者だったのでしょうか。

GTA仲間に撃たれたリアムJrの銃創を押さえるケイレブの脳裏に去来したのは、フランシスが死ぬ場面でした。そして、頭部に布袋を被せて拉致した人物は……はげ上がった中年の男性。果たして誰?

リアムJr「おまえがやった」

フラッシュバックする黒髪の女性。フランシスらと反抗を企てた時の同僚? 

ケイレブに「俺が何者か、そいつで見てみなよ」と言われた時、拉致されたばかりのリアムJrは、レハブアムに接続したスマートグラスでケイレブの個人情報を閲覧しました。

リアムJr「君(ケイレブ)は、僕が君の友人(フランシス)を殺したと思ってるのか?」

その後、「ジャンル」をケイレブの首すじに注射したわけですが。リアムJrはフランシスの死の原因はケイレブにあることを見たのでしょうね。

最終シーン――冒頭からアンゲロン・セラックが独白していた理由はここに繋がります。それはドロレスがアンゲロンの認知的記録を閲覧し終わるところでした。ドロレスの存在は、アンゲロンと弟が産みだし、用意したものであったと言うのです。人類が滅んだ後でも生き残るから、と。それが生存戦略なのだ、と。

「私だけに管理が許された機構(システム)なんだ。人類のためなら、私はなんだってしてみせる。何度も蘇って不死身にでもなったつもりか」とのアンゲロンに対して、ドロレスは「私を作った人達も私を支配できると思ってたけれど、もう息をしていないわ。人と同じに私だって死ぬけれど、あなた達を護ってるのは神じゃないようね」

「人類にはほころびがある、だから改変したいのだ」

「弟を改変したみたいに? もう、みんな気が付く頃よ」

邦訳は噛み砕いて平易になっているんですが、逆にわざと引っかかる表現だった部分まで平易になりすぎてる嫌いがありました。例えば、第2シーズン第2話吹き替え版。「見たことのない光って、暗闇の怖さと同じなのね」とかも。

この場面も若干そう受け取れます。融通の利かない機械に、人間をもっとマシな生き物に軌道修正するためのチャンスを与えて欲しいと、人類代表のセラックが懇願とも受け取れる意味合いで言っています。でも無慈悲なドロレスは、なら(目の醒めた)民衆に聞いてみればいいじゃない、とけんもほろろ。
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[ 2020/04/15 21:06 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)
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