ス ク ラ ッ チ す る D

blenderでモデリング、海外ドラマ感想、洋ゲーRPG、のことを綴ります

スタートレック:ピカード第9話「理想郷(前編)」

書き手が何をやりたいのか二転三転するドラマ。主張(これまでに張った筋)を間違っていないと(登場人物に喋らせることで)軌道修正してきます。

※以下ネタバレ

①ヌニエン・スン博士のダブルと思しき「アルタン・イニゴ・スン」(ブレント・スパイナー)が登場します。俺の予想もほぼ的中と言ってもいいんじゃないですか(笑)

アルタン「(職業は)マッド・サイエンティスト。データを作った父親の呪縛から逃れられないでいるよ」

これ以上に詳しい説明セリフはありませんが、“そういうこと”でデータとの関わりを説明しているつもりのようです。

アルタン「水を持ってきてくれ。我々年寄りは喉が渇く、機械のようにはいかない」

ブルース・マドックスと協業していたと語り、このセリフからするとアンドロイドではないようです。ちなみにTNGで登場したヌニエン・スン博士の奥方は、自分を人間と思っているアンドロイド(精神転送され、本人の死後に成り代わった)でした。スン博士に“人間の”息子がいるという設定は初耳です。

要は、スパイナー氏が黒幕で登場するというただの外連味です。やると思いましたね。

②アグネス・ジュラティ博士によるマドックス殺害を正当化する為のやり取りが見受けられました。この脚本家のお得意な筋の正当化です。

スートラ「ジュラティ博士、それ(警告)のせいで、貴女はブルース・マドックスの命を奪った。そうするべきだと考えた訳ね。今はどう?」

アグネス「改めて思い出すと、ブルースの命を奪った日は……なんていうか――」

ラフィー「暴走しちゃったんだよね」

スートラ「――そうかもしれない。あの哀れなロミュラン達だって何世紀も的外れな暴走をしてるのかもしれない。彼らはずっと、有機体の心では対処できないものに立ち向かってきたのだから」

凄まじいこじつけと後付け説明です。善人と見えた人物アグネスに、外連味溢れる悪行を行わせて、視聴者をあっと言わせましたが、それはアグネスの性格付けとは相反することですから、正当化の為の処理――セリフによる補足説明が挿入されたのです。

アルタン「(アグネスに)君は恥じるべきだ。広大な闇の中でささやかとは言え、明るく輝く蝋燭の火を消したんだ。大きな罪を背負った」

それくらいの批難は当然、と視聴者が考えると脚本家は思っているのでしょう。アグネスに対しては、この後、生命の誕生(スポット二世)を担わせることで、殺人の贖罪としています。この処置を拵えている脚本家の感覚に、それで済むのか?という気分が抜けませんが……

③「警告の輪」によるメッセージは有機生命体向けではなく、シンス(機械生命体)のためのものでした。シンギュラリティ後の人工生命体(超存在)が発展途上の同胞に宛てたものだったそうです。アンドロイドのスートラ(ジャナの双子)が独学で学んだヴァルカンの精神融合で解読されました。アンドロイドにはヴァルカン並みのスピリチュアリズムをも備わっていると主張したいようです――後述するように失笑モノなのですが。

④クリスとアグネスの仲ですが、視聴者が思う以上に進展しているようです。クリストバル・リオス船長は、精神融合をされそうなアグネスを庇って、待ったをかけてきます。

クリス「ちょい待ち。(精神融合をしようとするスートラに)止めるんだ」

アグネス「いいのクリス」

クリス「(アグネスに)それを乗り越えたばかりだ」

アグネス「大丈夫よ。それに彼女には知る権利がある」

また、別の場面では:

アグネス「ここを出る時、わたしの存在を忘れないで」

クリス「君にはいろんな面があるけどな、影が薄い、ってことはない」

アグネス「やっぱり? わたしを忘れるはずない?」

クリス「絶対に忘れない」

少ない見せ場を繕おうと躍起ですね。クリスとアグネスの関係がそれほど進展しているのならば、もっと積極的な描写があっても良かったでしょうに。無駄な場面ばかり描いているから唐突です。さらに、このセリフによってアグネスには死亡フラグが立ちました。クリスはアグネスの今後の行動を織り込み済みなのか、とても鈍感に映ります。

⑤アルタンはアグネスに、有機系の人造人間に精神転送を行う計画を明かします。今日(こんにち)、精神転送(トランス・ヒューマニズム)はシンギュラリティが起こる手段の一つと目されている技術です。

アグネス「精神転写を解明したの?」

アルタン「それはまだだ。体は作ったがね。そっちはブルースの担当だった。だが、私は最近、精神転写への関心を取り戻したんだ」

“AIの反乱”以外に焦点を当てたいテクノロジーが遅まきの第9話にして、脚本家の怠惰により、またひとつ増えてしまいました。

アルタン「言うなれば一種の焦りみたいなものを抱えているんだよ」

スタートレックの各スピンオフでは整合性があったのに、スタートレック:ピカードではごちゃ混ぜです――アンドロイドの陽電子頭脳(TNG)、ホロデッキによるシミュレーション(TNG)、EMH=ホロデッキを発展させた仮想人格のシミュレーション(VOY)。

さらに、今回出てきた“精神転写”は既に行われており、TNG「コンピュータになった男」や「アンドロイドの母親」に出てきます。

ピカードの脚本家は、こういったテクノロジーによる系統の垣根を取っ払い、21世紀的な“AI”という語でちゃんぽんにしてしまいました。あるいは、「人工知能禁止令」とは言いつつも、その実、陽電子頭脳しか禁止対象にしていませんでした。破壊者はどんな些細な人工知能からでも出現するとジャット・ヴァッシュは宣伝して恐れているのに、意味が分かりません。

その上で、精神融合ができるアンドロイドを考案したのであれば、その「カトラ」の扱いもきちんと考えておかねばならないでしょう。

この脚本家は、はっきり言えば間抜け同然です。表面だけ、まるでパズルのように既出の道具をさも便利に使い回しますが、整合性が全く取れていないからです。

ところで、これまで見えてこなかったテーマを、脚本家は“シンギュラリティを迎えるとき、人類は?”というものにしたいようです、見栄っ張りに。遅きに失するとはこのことですね。

ちなみにHBOの「ウエストワールド」では、精神転送を果たしても自己崩壊するという仕掛けが人類には備わっていると説明し、それをCognitive plateau(認知の谷)という造語で表現しています。心が実在性を拒否するからと、臓器移植の拒否反応を想起させて…… つまり、不死性は人類には与えられない(神の領域である)という結論なのです。ウエストワールドが哲学的に雄弁に語るのとは実に対照的ですよね、スタートレック:ピカードの三流っぽさは。

⑥アグネスの殺人問題が、答えのない倫理的合理性にすり替えられるようすを見てみましょう。一見、興味深い視点ですが、この場面を見ただけで、その洞察ができる下地を用意してはおらず、その上、展開は単にAI側がアジるための方便に殺人(殺アンドロイド)が許容されただけでした。

ソージ「アグネスがマドックスにしたことを聞いた時、理解できなかった。そういうことをする自分を想像することも出来ない」

ピカード「そういうこととは?」

ソージ「命を救う為に殺すこと。誰かを救う為に傷つけること。これって、もしかしたら、理解しようとしてるんじゃないかな、犠牲の論理を」

ピカード「犠牲を論理で語るわけか。それは私の好みじゃない」

ソージ「論理じゃ語れないわけ? じゃあ、生死も計算で語れない」

ピカード「私が思うに、それはナイフを持っている者がどういう人間かによるんじゃないかな?」

ソージやスートラは標準的なアンドロイドの見本として、計量的でコンピューターらしいロジック思考をする、ということを印象づけたいようです。彼女らがロミュランを躱して、自分たちの生存率を高める計算を導き出そうとしているやり取りもありました。

ナイフの使い方は使い手次第、ということをピカードは言いたいようですが。

脚本家は、アグネスがAI反乱の元凶のひとつであるマドックスを殺す行為を、ソージのロジック思考を経由して“トロッコ問題”にすり替えているように見えます。そこをそんなことのために使いますか?という部分ですが。

シンス側には、一切の倫理観が抜け落ちているということを視聴者に分からせたいがためでしょう。データを受け継ぐソージが特別な存在になれるのか、見守ってください、というわけです。果たして、そんなシンスのスートラにヴァルカンのカトラが宿ることがあるでしょうか? ヴァルカンには感情を捨て去ったという歴史がありますが……シンスには共感する力――レプリカントには欠けているとされているもの――が見当たりません。倫理観がないのはそういうことに繋がるわけですから。

ただし、熱心なトレッキーはこう反論できるかもしれません。映画「スタートレックVI 未知の世界」でのヴァレリス大尉の裏切り行為と、犠牲の論理は似ている、と。こう考えることができた人はピカードの脚本家を超えています。それは言えるでしょう。

なお、Wikiによると、トロッコ問題は、AIの自動運転で直面する問題でもあるようです。

自動運転車(公共交通の自動運転車両も含む)のAIは衝突が避けられない状況にも遭遇するであろうし、そうなれば何らかの判断もしなければなくなるわけだが、このトロッコ問題は、そうした自動運転車のAIを設計する際に、どのような判断基準を持つように我々は設計すべきなのか、ということの(かなり現実的、実際的な)議論も提起している、と公共政策の研究者は言う[1]。

「トロッコ問題」というのは思考実験で「5人を助けるために1人を犠牲にするのは正しいか?」という倫理の判断です。5人が犠牲になることを運命として傍観するべきか、それとも運命に介入して一人を犠牲にするべきか。介入の仕方についても、線路を切り替えるだけか、他人を突き落とす(巻き添えにする)のか、などなど。どの例なら介入が許されて、どの例なら許されないのか。そこに命の量1:5で計るべき合理性はあるのか否かを問うてきます。

スポックは「多数の要求は少数に勝る」と言って我が身を犠牲にしてエンタープライズを守りました。ケルヴィン・タイムラインでならカークですが。トロッコ問題と異なるのは、犠牲にするのは他の誰でもなく自分という点です。英雄的な自己犠牲――それは報われる、が演出されました。

それでも、スタートレックにおけるトロッコ問題は「コバヤシ丸」テストであるとは言えるでしょう。テストの教訓もしくは採点は、指揮官の覚悟の問題であると劇中ではされています。

ともかく、ピカードは未成熟のソージに「どうして人を殺してはいけないのか」を教育するべきではないでしょうか。彼ならば、国家的な大義による戦争や、宗教観・価値観の違いによる内紛を、24世紀までにどうやって解決してきたのかも示すことが出来たはずです。しかし、“この24世紀末”の老人ピカードには、そんなアイデアはまるで閃かなかったようですね。

⑦アンドロイドのスートラは策略家で、ナレク(ロミュランの追跡者)逃亡を助けて、同胞を団結させる理由(サーガの殺害)を作ります。

ソージ「アグネスは正しいことをしていると思っていた。でも今はその行いに震えている」

ピカード「正しいと思っていたのかな。あるいは、他に選択肢がなかっただけかもしれない」

ソージ「そこに論理なんてないのかも。結局どんなときも怖いから殺すのかもしれない。それは論理とは言えない。だけど、生き残るために殺すしかないとしたら?」

ピカード「ソージ、一体何の話をしている?」

二人とは別の場所に居るスートラ「(ナレクに)本当は殺したいところだけど、あなたには今すぐやって欲しいことがある。〔笑顔〕よかったわね。殺すのはちょっと待ってあげる。ここから出たいんじゃない?」

場面戻ってピカード「(ソージに)君は何を考えているんだ?」

ソージ「……」

〔悲鳴〕

ソージ「今の聞こえた?」

スートラが同胞の一人を犠牲にすることで、有機体への蜂起を扇動する計画であることを、ソージがピカードに話すべきか迷っているという場面でした。

またもや死の美学で、左目を刺されているだけで機能停止しているサーガ(アンドロイド)。アルタンが遺体を抱きしめて涙を流すのではなく、お気に入りの車を壊してくれたのは誰だ! と言うみたいに大げさに嘆きます。

ソージ「(ナレクを)殺すべきだった。殺したいと思ってたのに。なぜ、わたしは……」

ピカードに影響を受けた結果、あと少しで人間らしい“許し”の感情に目覚めそうなソージでした。脚本家が見せたいのは、あくまでソージの変化だけなんですよね。テーマが矮小化していて甚だ物足りない。

⑧老人ピカードの演説はもう必ず空振りするというのがパトリックのデザインなのでしょう。実現される見込みのない政治家の公約のようです。

ピカード「(シンス全員に向き直り)聞いてくれ! 禁止令や、それにイブン・マージドの悲劇の後では、惑星連邦を信じられないのも理解できる。私のことを信用できないのも無理はない。だが、船がある。君たち全員を充分収容できる! もちろん、安全も保障しよう。その後、私は人工生命の命と権利を守るために、必ずや君たちの声を連邦に届ける。そしてあの禁止令の撤回を要求するつもりだ。絶対に連邦は声を聞くはずだ!」

〔スートラが鼻で笑う音〕

アルタン「聞くはずがない。彼らを見たまえ。君のような人間を見たことがない。そのいかめしい顔、高潔な人柄が刻まれた皺。そして、雄弁で信念がある。だが、伝わっていない! (シンスに、ピカードの口ぶりを茶化して)聞いてくれ、子供達! 今の地球で彼の話を聞く者はいない。誰も彼を信じない!」

ピカードはロミュラン移住の時と同じような演説を行いますが、アルタンに一蹴されます。ジーン・ロッデンベリーの理想社会は現実に存在し得ないと、脚本家やスチュワート氏は狭い括りの21世紀風ドラマの中で見せているのです。

⑨体裁は整いましたが極めて遅い。これまでの経緯はなんだったのか、という展開。足踏みしか作れなかった脚本家の実力には閉口します。

シンスを滅ぼそうと迫るロミュラン艦隊という最大の危機を前に:

・惑星連邦に至急の応援を要請したいピカード――しかし、理解を得られず拘束
・協力を約束してアルタンに取り入ったアグネス
・その渦中に宙ぶらりんの存在でいるソージ

といった三者の動向が注目となるように仕向けてきます。

蛇足で:

・ピカードの脳疾患が末期(しかし、目立った症状は出ていない)
・エルノアはボーグ達を保護する役に就任(ピカードとお別れ)
・アニカ(セブン・オブ・ナイン)と生存者ボーグ達がキューブを修復中
・ラフィーがシンスのツールでラ・シレーナ号(ピカード達の船)を修復中
・クリストバル・リオス船長は(たぶん自船を修理中)も、何をしているのか不明
・感情を表さないとされた、頑固なピカードに劇中でわざわざ「愛してる」と言わせる

などがポイントとして指摘できます。

⑩整合しないところ(解釈が必用な箇所):

アルタン「彼女はスートラだ。ジャナの姉妹だよ」

・ジャナはスートラの双子でしかない
(ダージ&ソージと同じ顔である理由が謎)

ジャット・ヴァッシュのスパイであるオウ准将が、姿形(すがたかたち)で極秘暗殺指令を出した理由がまぐれ当たりでしかなかったことになります。

アンドロイドが全員同じ顔をしているという思い込ませの原因でしたが、同じ顔の個体は4体しかいません。双子という説明ではなくて、“姉妹”と言っていることから、ジャナ以前に顔が知られた理由がまだ隠されているのでしょうか。もっとも、“姉妹”は同胞団の呼称である“シスター”から来ている節がありますが。

アルカナ「唯一の船はジャナ達と供に失ってしまった」

異世界からのアンドロイド二体の顔があらかじめ指名手配されていなくては、アロンゾ・バンダミア艦長がジャナともう一人を虐殺できません。それとも、虐殺の理由は人相ではなかったのでしょうか。ならば、どうやってオウ准将は彼らが「破壊者」の一味だと知ったのでしょう? ジャナの肌が作り物っぽい白色で、目がデータのように金色だったから?

知られている事実は“アロンゾ・バンダミア艦長が苦渋の決断の末に二人を虐殺した。その命令は極秘で、彼らを殺害しないとバンダミア艦長は自船と乗員らを惑星連邦の保安局に破壊されてしまうからだった。虐殺された内の一人の人相がソージと同一であった。”

演出は、ミスリードっぽく、人相のことが命令の根拠であるかのように強く前面に出てしまうものでした。

アルタン「禁止令の為にブルース・マドックスが考えた偽装だ。正しかったとはとても思えない」

ダージ&ソージが出自を知らずに人間だと思っていた理由の正当化です。ジャナと瓜二つに造った理由も、実は説明したつもり(=ジャット・ヴァッシュの気を引く為)なのでしょう。

ジャット・ヴァッシュの一員であったラムダを同化することで、その記憶を読んだボーグは、彼女の乗るキューブを集合体から切断しました。進化したテクノロジーを同化することを是とするボーグが、なぜ進化した人工知能に連絡できる周波数を解読できず、あるいは、(解読できても)使わなかったのでしょう? データを誘惑したボーグクイーンが過去に存在したというのに。

どうやら、ここのボーグはシンスらの陽電子頭脳にはとりわけ疎かったようですね。それとも……シンスを見守っているという「どこかに存在する高度な人工生命」とは、結局ボーグと因縁の存在? いやボーグのプロトタイプなのかも?? やっぱり、ローアかな(笑)
関連記事
スポンサーサイト



[ 2020/03/21 04:21 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する
カレンダー
08 | 2020/09 | 10
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 - - -
月別アーカイブ
全記事表示リンク