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スタートレック:ピカード第5話「スターダスト・シティ・ラグ」

ピカードの右頬に横向きで6cmくらいあるミミズ腫れが気になりましたよね。切り傷が治りかけという感じで。後半のブルース・マドックスと話すシーンでは無いことから、この後の撮影のどこかで怪我したんだと思われます――嘘です。海賊くずれの演出なんでしょう(アイパッチのシーンでのみ目立ちます)。

※以下ネタバレ。

13年前、連邦士官になったイチェブがさらわれ、強制的なボーグ・インプラント除去手術に耐えられなかった彼は、救出に来たセブン・オブ・ナインに命を絶ってくれるように懇願します。

単に目玉を抜かれただけではなく、他にも致命的な部位を奪われてしまったのだと思われますが、セブンに連れ帰ってもらえれば、例のボーグ製ナノテクノロジーによって再生もできそうなんですが。

復讐に燃えるセブンは、イチェブを実の息子のように可愛がっていた、と。ドラマチックな尾ひれを付ける為に無理矢理、過去の登場人物を使い捨てているようにも見えます。

ブルースが、データの双子の娘をそれぞれ潜入させた理由は、AI禁止令の背後に暗躍する影を暴く為でした。そして、アグネス・ジュラティ博士はブルースの恋人でもあり、どうやら、この件に一枚噛んでいるようです。

このブルースの思惑が曝露された場面ですが、「その程度だったの?」というガッカリ感が湧きそうです。宇宙初の生体を持つアンドロイド――それもデータの倫理観を内蔵――を二体も使って(一体は無駄になり)、大きなエサをぶら下げて、ロミュランの秘密組織ジャット・ヴァッシュを罠に掛けようというわけなのでしょうが。

ラフィーには息子がおり、やはり火星のAI反乱事件をきっかけに親子関係が崩れてしまったのでした。事件の裏を執拗に追う母の姿を目の当たりにした息子と旦那は、いたたまれなかったようです。

と、まぁ、だんだんと粗が目立ってきた筋立てと構成に、「これはちょっとやばいぞ」と俺のイエローアラートが響き始めました。

今回のドラマは、物語の組み立て方が未熟な「設定厨」の手によって出来てしまったように思えます。構成と話の流れが、見ていられないほど稚拙です。プロデューサーによれば、「これまでとは一味違う大人向けのドラマである」という触れ込みなのだから、恐れ入ります。

そして、理想の24世紀を描いたTNGに挑むように、堕ちたスターフリート、Fワードを言う代表者、スラムのある25世紀間近の地球と、光あるところに影がある――現実らしさを強調してきます。

この主張はセブンのセリフにも現れていて、「ピカードは銀河に慈悲が存在すると思っている。その夢を壊したくない。誰かが希望を持っていないと」とまで言わせます。

俺の不満点:

①ピカードが迷走している。
スターフリートが実現させてきた理念を取り戻させたいと考えているようだが、彼自身がかつて持っていたはずの皮膚感覚がどこかへ行ってしまい、このドラマの世界ではもともと存在しえない空虚な理想論を誰彼かまわず主張しようとして、自らを死の危険に追い込むほど老いさらばえてしまっている。第4話のロミュラン専用カフェの出来事がいい例だ。

②命の価値が軽い。
イチェブがあんなにあっさりと安楽死を選ぶのは解せない。ボーグインプラントを除去されても、代替になる技術が連邦にはあるだろうし、セブンがいればボーグ製ナノテクノロジーを使うことだってできるはずだ。セブンによる派手な復讐劇を見せたかっただけでは?

③サスペンスタッチ。
アグネス・ジュラティ博士は味方のように思われていたが、実は……。彼女がどうしてあんな行為に及んだかは今後に譲るとしても、展開が安っぽい。推理小説の掟破り、実は探偵が犯人ですよ、に近いものを感じる。

④マドックスの考えが大したことではなかった。
5話まで引っ張ったあげくが、既に視聴者に見せてしまっている事実よりも、驚くものではなかった。改めて問う。マドックスはどうしてデータの娘を拵えたのか? ピカードと視聴者にとって、データの遺志が生きている意味は尊いのだが。安っぽい潜入工作をさせるために、史上最大の(再)発明を手放してしまうほど、愚かなのか?

簡単に言えば、かつて理想社会に貢献してきた登場人物達に、とても意地悪なディストピアを舞台としてあてがい、同じ活躍ができっこないことを視聴者に分からせる……そうした意地悪な作り。さらに、外連味優先で場面が出来ているらしいことが窺えて、見ている方は二度ガッカリ。

全ての発端である、ピカードがスターフリートの非人道主義を批難する為に自らの辞職をチラつかせるという行為、我々が知るTNGのピカードはこんなことしないのではないか? ケルヴィン・タイムラインの間に合わなかったスポック大使と同じく。我々の知るスポックは決して遅刻などしないだろう。そういうことだ。


現代ドラマとしてのピカードが納得いかないのは、彼の個性の描き方がどっちつかずなところだろう。かつての古き良きアメリカ人みたいなままなのか、それとも、普通の人間らしく傲慢で自信過剰になることもある老人としてなのか。

細かい性格描写が無いままで、サスペンスタッチで物語が展開していくために、視聴者のイメージするピカード像がブレまくってしまう。

劇中はとにかく背景説明に終始していて、とても人間ドラマとは呼べない。14年前の回想が出てこないエピソードは皆無といってよく、そこで語られるのはピカードの後悔でしかない。どういうフィーリングのピカードがその決断に至ったかが、少しも想像できないのだ。主人公の人となりは、過去のドラマからの借り物以外で正々堂々と描かれてはおらず、主人公の人物描写をこれほど放棄したドラマは珍しいだろう。

スターフリートを退くことが、ピカードの唯一の抗議であったなら、それは傲慢に見える。引退したピカードは、ワイン農園に引きこもって14年もの間、何もしてこなかったという。これはTNGのピカードなら、まずありえない。外交ルートで大使を買ってでて、スターフリートからは一線を引いてでも、人道支援やらを続けただろう。

こうした性格からくるであろう活動――生き様の違いを、スタートレック:ピカードはろくに描いていない。元タル・シアー(!)のロミュラン難民に慕われていて、農園の運営を手伝って貰っている、そんな妙ちきりんな場面ばかりをご丁寧に描く。このぶっ飛んだ設定や、ラフィーのような有能な副官がいた過去と、今回の人間くさい老人ピカードとが全くリンクしてこない。

ここが既にきちんと描かれているのであれば、ロミュラン専用カフェでの一件に、ピカードの思惑を視聴者が想像することができただろう。あの場面は何度見返しても、ピカードが何を示したくて、あんな態度を取ったのか、いまだにわからない。

ピカードは理想主義者なのか、それともただの呆けた老人なのか。今のままでは誰にも分からない。
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[ 2020/02/23 00:03 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)
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