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スタートレック:ディスカバリー

評価が割れているという前情報だけで視聴を始めた。某男性アイドルユニットを扱った番組のせいで無料体験がなくなってしまったと噂されるNetflixで視聴。

……想像以上に面白かったので、俺は支持派に回る。

これまでのシリーズとは打って変わって何もかもが違う。ところが、エッセンスは上手く取り込まれていて、いろいろな思惑が伝わってきた。

造形の異なるクリンゴンは、カノン(聖典)の書き手が変わったのだと喩えることができる。誰でも自分の筆のクセ――描写をする際の感性の違い――というものがあるものだ。だから、見かけの違いは、文章で言うなら「翻案が違う」という解釈で受け取れる。

TNGのあたりから、クリンゴンは主要な臓器が二つある、死ににくい構造という設定になった。外見的に感じさせようとするのなら、あの改変も理屈に見合う。大柄な体躯はもとより、二重の鼻の穴、特徴的な額が自然に融合して落ちくぼんだ目など。怪物的に見える必要性もデザイン変更の理由なのだろう。

メカデザイン上の差異は、おそらく、商業主義的にリブート版映画と違和感のない範囲に収まるように調整されたのだろう。画として出てきたことのないアキラクラスみたいなシンジョウは、ブリッジが下方にあって個性的だ。ENTに出てきたエンタープライズをも連想させる。

主役船のディスカバリーは、純粋に記号としてのデザインから作られたのだろう。オープニングで如実に表されるシルエットが象徴的で、胞子ドライブ起動時に回転する船体は外連味溢れる演出上の理由から出来ているとしか思えない。

肝心の内容は、明らかにトレッキーが作ったに違いない設定がてんこ盛り。テクノロジーの設定が23世紀、24世紀ごちゃ混ぜにも思えてしまうが、ビジュアルとして既視感のある(通底する)ものを利用しないのはもったいない、という作為が優先されているのだと思われる。

筋書きは、映画「カーンの逆襲」で見られたような活劇スタイル。スタートレックには実に様々なスタイルがあり、例えば、TNGの一話完結タイプがオーヴィルに受け継がれている。TOS時代に遡ると、カークが女と見れば口説くことに目をつぶれば、当時としてはかなり斬新な(とはいえ、決して画面映えしない)舞台劇のエッセンスがあった。そうした趣向を、現代的な作風で強く遺そうと画策しているのが窺える。

理想社会における「調査任務」や「未知の発見」は、「挫折を乗り越える個人」と「共生する世界」のテーマで進化されていく。

かつてENTが担おうとしていた新しいドラマはご存じのように成功しなかった。脚本が悪く全体の構成が付け焼き刃だったからだ。「スタートレック:ディスカバリー」はその点、違う。構成ありきで練られていて、長大なパズルのピースとして作用するようにエピソードが丹念に積み上げられていく。

カノンで描かれていなかった「クリンゴンとの戦争勃発」「クリンゴンの遮蔽技術」などが、ファンなら一度は言及したであろう特記事項として、巧みな語り口の中で材料となる。

なにより「物語として」主役が強く際立っている。ご時世に合わせて女性主人公だが、男性視聴者なら、(マーベルヒーローのように)男性バージョンで見たくなるような熱いものだ。

ご多分に漏れず、類型は「一回失敗した英雄」もの。そして、奇特な船長の「寄せ集め」部隊。

さらに、現代を感じさせる「量子力学のエンタングルメント」がSFテイストとして活用される。広大な銀河は宇宙菌類のネットワークによって繋がっているのだ! 「砂の惑星DUNE」の思想にも近いものだろう。

TOSでは息抜きのように盛んに出てきたミラーワールドすら、「多元並行宇宙と胞子ドライブ」の理屈から導き出されていく。

テラン帝国の軍人をイミテートするうちに、主人公は、自分の良心が屈してしまわないか不安になっていく。この心情はまさにHBO作「ウエストワールド」の出発点だ。人間が何をしても許されるテーマパーク、それがウエストワールド(ホストにとっての悪夢=ディストピア)であるのだから。

かように、視るにつれてトレッキー魂が炸裂していくし、近来稀に見る豪奢なSFとしても仕上がっている。発想としては、やや古い70年代ニューエイジを匂わせるものだが、「量子もつれ」や「地球環境悪化」によって、むしろ現代に相応しい「ガイア仮説」に落ち着くものとなっている。視聴者にある種の覚醒を促し、オーヴィルとはまた一味異なった啓蒙で気持ちよくなれる。
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[ 2019/12/23 23:57 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)
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