「まだ結婚できない男」前作「結婚できない男」は、どちらかというと「結婚できない男」をダシにした「結婚できないアラフォー女」の物語でした――桑野信介はあまり主体的には喋らず、周りの女子に弄られる存在だったのです。
今回も、その役回りは踏襲されているようですが、桑野はもっと喋るようになり、役柄もより深く掘り下げられました。憎まれ口を欠かさず利き、相手の心情など理解しない、根本的に欠陥のある男として、ハッキリと“立つ”ようになっています。
現実に桑野タイプの男性はよく居ます。例えば、雑学を駆使してマウントを取りたがるようなヲタク指向の人物なども、この類型でしょう。桑野の性格で救いがあるのは、真っ正直で堂々としているところです。媚びたり、顔色を覗ったりするような態度は微塵もありません。
現実の人物だと、桑野タイプの性格に加えて、おべっか使いやら、大言壮語の傾向などが付随して、ますます醜いタイプになるものです。フィクションの桑野にはそういう部分はなく、実に「さっぱりした嫌みなヤツ」として纏まっています。
ドラマでは、嫌みなヤツである桑野が、なぜだか女子の居る場の中央に登場します。世界は桑野の周囲で回っていて、「また嫌なことを言って」と抗言しつつ、女子たちは桑野に遭遇しては彼を気にかけてしまうのです。
アラフィフのおっさんにとっては、ハーレム並みに羨ましい構図です。デリカシーの欠けた一言を放っても、相手は「仕方がない」と認めてくれるのですから。
うだつの上がらない男性の晩婚化、未婚化はもう随分前から当たり前になりました。婚活という言葉すらまだなかった13年前の前作タイトルは、目の付け所が良かったと言えるでしょう。
前作では結婚適齢期を気にしている女性の視点が大きく巾を利かせていて、桑野をターゲットにしつつも一人脱落(譲り合い)し、また一人脱落し、最後に女医:早坂夏美が告白したものの、桑野には「結婚の気はない」というオチでした。
前作で、桑野の母は息子の嫁探しをしていましたが、今作では達観モードに入り、嫁候補の女性に「結婚はしないでいいから、親友で居てあげて」と言うに留まります。世間的な風潮の変化をも感じさせますね。
高級マンション隣人の若い娘を主役とした視点も、ドラマではかなりの重要度を占めています。基本的にトレンディドラマの亜種ですから、若いコの客観でみる50代のおっさん「あるある」も取り入れられているわけです。
若い女性の立場からすると、不条理や非常識に変なことを言われた、泣かされた、というのが今回の目玉でしょう。俺もこういった場面を見るにつけ、思い当たるフシがあったりしますわ……
前作では、若いコらしいやんちゃぶりが他の女性登場人物によってたしなめられる、引かれる、という場面もありました。ドラマとしてはかなり公平中立に世代の違いを表していたようです。
また、桑野視点の「あるある」は前作譲りです。行きつけのコンビニで必ず買う品物とその品物の掴み方、復活したお菓子を知っている世代らしい反応、などなど。
13年の経過でガラケーがスマホになり、レンタルビデオ店が無くなり、かかりつけの医者がかかりつけの弁護士に変わりました。高級マンションは玄関扉の外観が、今風に模様替えされました。相変わらずの、週末の妹夫婦の自宅で会食に加え、妹の旦那といきつけの高級バーで飲む機会まで増えました。
桑野の母は老人ホームには入らず、自宅をリフォームして住んでいます。妹夫婦の娘(姪)は成長して、桑野を時に厳しい目で見つめるティーンになりました。
桑野は悠々自適に独身貴族を謳歌し、隣人の売れない女優のパグ犬のことを気にかけながら、今日も大音量でクラシックを聴いたりしています。結婚しない男の「お一人ぶり」を自信満々に見せつけるTVに、世の独身男性どもは「リア充め」どころの話ではなく、一層うらやましさを募らせてしまうのです。これはもう、実写なのに、ラノベの世界。ウラヤマシス。
- 関連記事
-
スポンサーサイト