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シド・ミード展

行って参りました。会場は学校の跡地利用でほのぼの。

原画の魅力ってのは大きいですね! 原画を見ると画集からは得られない情報がいろいろ分かる気がします。

例えば、グワッシュのいくつかには右下隅に画鋲の穴が空いています。これはトレーシングペーパーか何かの位置合わせの跡じゃないかと思います。また、球形タイヤの中央部にもやはり画鋲の穴が空いています(中には厚塗りで埋めてあるものも)。これは円を描くときに使った定規の軸穴かな、と思えました。

ミード画の特徴は、不透明水彩の筆塗りで丹念に描き起こされた輪郭やディテールでしょう。ディテールにおいては、緻密で繊細な幾何学的ラインが何本も何本も重ねられることで、独特の存在感に一役買っています。このラインをどのように描いているのか、とても興味が湧くところです。クロノログ(バンダイのLD付き画集)の紹介か何かで、フリーハンドで描く秘訣がどうとかあったように思います。クロノログ欲しくなりますね……ヤフオクで5万円超えですけど。

とっても有名なやつの原画もけっこうな数ありました。とりわけ映画『ブレードランナー』はスピナーを含め一連の、デッカードのバスルーム、タクシー、ダウンタウンなど9枚が網羅されていて、画集が高価で手が出ずに立ち読みした昔を思い出しました。リドリー・スコット監督が採用を決めた理由である、INTERFACEというカタログも(たぶん全部ではなくて一部)出展されてました。

(ブレラン絡みで)ショルダー・オブ・オリオンは、ミード氏の意向で図録にも含まれない会場展示だけのもの。なんと、劇中のロイ・バッティの台詞(たぶん「アタックシップ・オブ・オーロラ~」とか「シービーム~」のくだり)にインスパイアされて描いたものだというからオドロキ。画は3枚から製作過程が理解できるものの、残念ながら、それほどガッっとくるものではなかったです。

ブレードランナー2049からはグランドホテルの全景画が展示されてました。

CMになったシティ・オン・ザ・メガビーム(斜めに突き出ているヤツ)や、センチネル1と2の表紙、オブラゴンの表紙――あの荒牧監督が大学生の頃、画で不足していたところをCM用に起こしていたという逸話があるらしい(※)――の原画も見ることができます。ちなみに、“斜め”はタヒチでも出てきます。
※未来会議Vol.1での植田益朗氏が話したところによる

トロンの、あの有名なライトサイクルの画稿はありませんでしたが、シルバー・コーチやミード氏お得意のArrivalシチュエーションのバリエーションやら、運転手がどんな姿勢で乗ってるのかが非常に気になる流線型の未来カーがいくつも見られます。50年も前に描かれた、未来のロールスロイスなんかも(形態が捉えにくい角度で分からないままに)カッコイイですよ。

変わったところでは、ゴルフコース、パーティ、宇宙開拓系(?)、映画史。開拓された月ムーン2000なんかも珍しかろうと思います。あんまりパッとしないものも含まれますが、これがわざわざ選ばれたわけですから、それなりに本人評価が高い作品なんじゃないのかな?

RUNNING OF THE SIX DRGXXは、オレのお気に入りです。音声案内によると、たしか、12人が操縦する巨大なロボット犬6頭が全長10キロのコースを回るダービーを、何十万という観客が見ている図です。観客は棒状の携帯デバイスを片手に持っていて、レースの進行状況がそれでわかるのだとか。ミード氏はこの手のモチーフを良く思いつくようで宇宙版競艇?(レース・ボールやハイドロ・フォイル)まであります。

音声案内は貸出料500円。声は朴 璐美さんですが、ロラン・セアックっぽいということもなく、至って普通の解説調でした。全150の展示物の内、音声案内が付くのはたったの28。内容もやや短く平凡な印象で、(上のショルダー・オブ・オリオンやDRGXXみたいに)背景説明が「へぇーっ」というのはそれほどなかったような気もします。また、それとは別に、スマホ・アプリで見られるARも少数ながらも設置されていて、オレは試していませんでしたが、面白そうでした。

珍しいところでは、研究家個人蔵のジャングル・ウォーカーというのがありました。小さいコンセプト画から線画(トレス用)、使用されないと分かってお蔵入りだったものを個人からの要望で完成させた画までの4枚が展示されており、製作の経過が垣間見える珍しいコレクションだと言えます。コンセプト・スケッチがあんなに小さいなんて! ザ・ストーンエイジもミード氏の別の画風がわかって面白い。そういえば、出口にエコノミーサイズ・マグロ?!ってのがありますw

WOWOW関連番組絡みの依頼であるWOWフューチャー・シティ2042なんてのもありました。東日本大震災のこともあってミード氏の愛も込められていると音声解説。

エイリアン2のスラコ号と2010のレオーノフ号(プロダクションアート)はけっこう枚数がありましたね。よく見かけるやつばかりでしたが。JM(ジョニー・ニモニック)のイルカは知らなかった! スタートレックTMPのビジャーは忠実に映像化されていたことが分かりました。

一番新しいアートはおそらく、2017年のアイズ・オン・デザインでしょう。クルマ博覧会へのオマージュで、クルマ好きのミード氏が(たぶん所有カーに加えて)未来カーを混ぜたというヤツだったと思います。塗りを間近で確認してきましたが、いつもと同じで全く衰え知らずでした。

図録は(公式サイトのお知らせに既にあるように)完売で、延長した会期(6月2日まで)終了後に改めて新装版の通販を受け付けるそうです。

画材の説明
water color……透明水彩のこと
gouache(グワッシュ)……ポスターカラーのような厚塗りできる不透明水彩のこと
Flowmaster……(帰って検索してみたところ)日本でいえばコピックのようなマーカーの商品名らしい?


注目したところ

ミード氏への依頼のうち、3割は日本からのもので、およそ25000のアーカイブの中からより抜かれた原画(もしくは複製原画)がTYO SPECIALのコーナーに陳列されているとのこと。

オレが感じた中では、YAMATO2520のCAD図面が圧巻でした! CADコピーをつなぎ合わせた図面が拡大されたものが壁一面に貼ってありまして、全長400メートルのYAMATOが低層の建築物かのように身近に感じられます。400mにしては、ハンドワークで描き加えられた人間が大きすぎる? ホントは400mもないつもりだったのかな?(まさか、フィートのメートル換算を誤った?)

ミード氏のYAMATOはこのCADのプロポーションをベースに描き起こされているそうで、つまり非常に理路整然と出来ていたわけなんです。氏自身がライフワークだと語っているそうで。

また、テーブルには、ウエストケープコーポレーションの西崎義展氏宛(FAX?)のデザイン画があり、英文タイプのメッセージが付されていました。読んでみると、ミード氏によるYAMATOを前方パースした輪郭画の解説です。Aが正断面のみ、Bが正断面に幅の断面を加えたもの、Cが立体にしたもの、Dが細部まで画入れした完成図、EがDと同じ画だが着水時(下半分が水面に隠れる)。

どうやら、宮武一貴氏のインチキパースが素晴らしかったオリジナルヤマトに似せて、正しいパースペクティブでありながらも、ヤマトが感じられるフォルムに腐心したとアピールしたい模様。未来派のYAMATOはところどころ工業デザイン的なセンスが感じられますが、絵面的にはしっかとヤマト然しているんだよ!と言いたいのだろうなと思いました。とくにBow(船首)下部両脇にはロケットアンカーとしてのノズルが黒い穴となって設置されています。

ターンエー(ヒゲのガンダム)もそうでしたが、ミード氏は機能的な理屈から構造を描いていて、そこがアニメ屋の感性とは180度違うことからくる異化効果がとても面白いのです。

一番最初のスモウっぽいミードガンダムに対してトミノ御大が宣ったであろう「なんだこれは?」という字幕がつく約4分のビデオグラムもタイヘン楽しい。「ミード氏はこちらからの課題を全てクリアした上で、さらに味付けを行ったのだ」

ミード氏のクリエイティビティに圧倒されたせいで、後に有名になるヒゲのデザインに対して、現場の誰からも異論がなかったと(富野監督ではない別の方による)証言がやはり字幕で登場します。

肝心のターンエーの画稿は、スケッチのコピー7枚と複製原画が2枚とグワッシュの1枚だけ。あとの10枚は別のモビルスーツの前後面図(よく見かけるやつ)でした。ビデオにちらっと出てきたデザイン変遷が分かるスケッチは一枚もなくて残念です。

一年戦争時の、ザクがサイド7に進入した時のミード版のワンカット(一輪バイクにまたがったアムロ?が後ろを振り返っているもの)と、ガンダムとガンキャノンがザクの居る拠点(小惑星?)を襲撃しているワンカットも展示されていました。これは当時も見て思いましたが、あまりミードっぽくないです。デッサンが上手くないし、小惑星にくっついている円盤部分の楕円のパースも狂っていて、流線型の得意なミード氏らしくない。

――ま、とにかく面白かったです。150点は多いようでいて観ていると少ない。「もっと」って気持ちになります。
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[ 2019/05/16 02:35 ] 名車 | TB(-) | CM(0)
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