Cobweb of にーしか

モデリング、海外ドラマ感想、洋ゲーRPG

小説「巨獣めざめる」

上巻がもう少しで読み終える。

ドラマ版とは異なって OPA対火星=地球 の図式のようだ。地球は中立で火星と連合関係を結んでいる。火星は共和国連邦だが大統領制で一星三十条の連邦旗をかかげていることから、USA的な意味合いが強いのかもしれない。さもなければ、中国も併合しているか。

火星を脅したい地球国連本部(タカ派)の図は今のところ出てこない。ドラマ版は話数稼ぎに問題を複雑化させた表現であるようだ。

小説版の、ケレス政府がいきなり崩壊するという感覚は、火星地球間の緊張状態よりもはるかに面白い。ケレスの住人は地球が手を引くことになった火星からの圧力をどうとも回避できない。この視点はキューバ危機よりも現代的だ。よりウクライナの問題に近いだろう。サイゴン陥落(解放)のようでもあるが。ただし、その背景で行動する登場人物の描写は残念なことにろくになかった。

フレッドがジム達に協力を要請する事情はドラマ版より理に適っている。ドネジャー沈没にOPAが無関係なことを証言しろ、だけではない。

ドラマ版よりもエロスに到着するのが早いんだが、残念なことに求心力が乏しい。正義感の強いジムが放った通信でOPA・火星間の緊張状態が高まる、までは、なかなか悪くない出だしだった。

ところが、ジュリー・マオの追跡に関する動機が弱い。ミラーはそれなりに影響を受けているが、他の4人は(TPRG並の)ただの請負ミッションだ。読者も、このジュリーがどれほど重要なのか、推し量る術を持たない。彼女は何か変なモノを見てはいる、それは何か? そこが重要だ、とするフックが弱い。ドネジャー沈没の首謀者の船に関してもまるでヒントがなく、引きがぷっつり途切れてしまう。退屈な作劇が続く。

ミラーの事情は、かなり説明されているので分かりやすい。ドラマ版では描写がなかったと思うが、別れた妻の面影を未だに脳裏に浮かび上がらせる男だ――それがジュリーに取って代わる。

ジムは正義感の強いリーダー肌以外に、人となりが伝わってこない。都合の良い主役でしかなく、作家が見せたい方角に向く風見鶏だ。ナオミも掘り下げが浅く、主役の添え物。アレックスとエイモスもただの脇役。その点で言えば、ドラマ版は彼らの人格をもう少し深く知ることが出来る。しかし、物語における役どころは相変わらず小さい。ミラーは探偵小説の主人公を地で行ってる以外に、この小説ならでは、という部分を持たない。ベルターなのに。それはナオミも同じ。フレッドは、ドラマ版の方がハッタリが利く大物になっている。小説では小物に見える。

今のところ、あまり面白い冒険小説ではないな、という印象。冒険の筋書きがつまらない。
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[ 2023/07/26 05:45 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

小説「巨獣めざめる」

六分の一くらい読んだ。

ドラマよりも、原作小説を読んだ方が筋書きがダイレクトでインパクトもあるなぁ(邦訳は第一部しかないんだけど)。ミラーがエロスでジュリー・マオの亡霊を見たのは、単に惚れてるから、だけじゃなかった。そのことは(小説なら)台詞でも明らかにされる。

ところが、ドラマじゃジュリーのイメージだけなので、ナオミが「貴方のガイドなのね」と言うにとどまっていて、真意が全く不明。プロト分子の未知の性質がドラマではずいぶん先送りされてしまうらしいが、小説では早い段階でほんやり分かってくる――地球を目指していて、何らかの平和的な意図があることに! これってスタートレックの得意なやつ(TMP)でしょう、どうみても。で、その先はエピソードの概略を読んじゃったら、スターゲイトSG-1じゃないの。船名アヌビスって、元ネタじゃん!

宇宙のキューバ危機なんて、隠し味だったのを大々的にエピソードに投入しちまっただけじゃないスか? なにやってんの。道理でグダグダつまらんわけよ。

ナオミはベルターだった。ドラマの配役は絶対に考え直すべきだろうなぁ。ベルターは低重力育ちなので長身――2メートルもある。指輪物語並にCGでごまかすくらいの調整が必要だったろう(現に第1話で地球政府の捕虜はそういう描写だった)。そうでなければ、本当に長身の役者を探すべきだった。

ちなみにHALOのドラマ版は196cmのパブロ・シュレイバーを主役のマスターチーフにしている。海外では(特にゲーマーからの)評判がイマイチらしいんだが、ドラマ版HALOはなかなかどうして面白かった。ゲームのHALOはドラマ仕立てにするには単純過ぎるし、前身の「動かないアニメ」版にしても、かなり野心的でありすぎた。中道を行くとはいかないまでも、双方を上手くミックスした上で、必要なドラマを足してて小気味よく、とても見所が多い上手な脚本と演出だった。

さて、小説版の登場人物は皆、ドラマ版と性格が違うようだ。ジェームズ・ホールデンは副長になりたてではないし、束ね役を嫌がっていない。最初からナオミといいコンビだ。アレックスには西部訛りがある。エイモスは……ドラマ版が物静かすぎて不気味。ミラーは上着が嫌いで、探偵役よりもっと刑事役に勤しんでいる。

とくにハブロックは全然違う。ドラマ版は出来の悪い弟分のようだった。

なお、宇宙船のデフレクターが登場できるような場面はごっそりない。核ミサイルで破壊されたカンタベリー号の破片を躱した経緯は微塵も描写されなかった。

ジムが青二才で弱々しいのがドラマ版のまずいところだろう。ドラマ版のナオミがジムに従う(ましてや恋人の関係になる)のは、てんで説得力がなかった。エイモスの後ろ盾でクーを起こしそうなぐらいだったから。

ナオミはただの日系じゃないのか。アフリカ系と南米系の交わりと日本人の先祖も居る、んだそうだ。
[ 2023/07/24 00:11 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

エクスパンス第2シーズン

エピソード3の途中まで視聴

冷戦下のキューバ危機を思わせる背景……古臭い、とても。今は、タイムリーにウクライナ侵攻が起きてしまう世の中だ。地球国連内部のタカ派との権謀術数、加えて戦端を開かないように努力する火星の大将(ボビーの上司)……だけ、ではお話にならない。プーチンのせいで現実味が薄くなってしまったのだから。一体全体どうしてそんな暴挙が可能になるのか。誰も止められないなんてことがあるのか――それが現実。まさに小説より奇なり。

脳筋のボビー・ドレーパー……この浅い人物造形、あまりに単刀“実直”すぎて、もう少しなんとかならなかったのか。逆に言えば、どうしてこんな人物が火星軍にいられるのか、をもっと説得力あるように描くべきなのだろう。その所属から含めた狂い具合(または洗脳)を。

――序盤がトロい「閃光のハサウェイ」でも、エクスパンスよりナンボか新鮮だった。そういう意味でも原作をものした富野御大はすげぇ~ってのがまたまた分かる。植民地時代を過ぎてからの国際情勢と原理主義的なテロ行為の頻発に、エクスパンスにはない同時代感があったわけですよ。

もろもろの事情は「プロト分子」頼りの展開になるんだろう。誰が画策し、何を企図してのエロス実験なのか。当然国連内部と通じている者達の陰謀がある。がしかし、タカ派はこの実験とどの程度つるんでいるのか。結局プロト分子を開戦の理由(漁夫の利的な)にもってくるのか、それとも邪魔な連中をぶち殺す道具にしたいのか。どちらにせよ、その企みであるならば、それは非常に経済的で、戦争の先物取引のようなものだ。利己的で不合理な、主義・思想のよく見えてこない独裁者による開戦の方がよほど現実味があるかもしれない。そうしたメカニズムになら興味が湧きもするが、古臭い陰謀とキューバ危機回避では、いかにもドラマの体裁に沿う上っ面でしかなく、現実にも響いてくるメタなテーマに欠けている。

小説版「巨獣めざめる(下)」の訳者あとがきを読んでみたら、TRPGセッションのリプレイそのものに見えた理由が判明した。主体性の根拠がなく、そこにいる理由や動機の欠けた登場人物たち。まさにTRPGのルールで背景を設定したので出来上がったような人々。パートタイムの、かりそめの冒険者。状況(用意されたアドベンチャー)に流されるままに、主義は主張するも、世界に受動的に対処することにしか役割のないプレイヤーキャラクターたち。とりわけ、探偵という職業はいかにもTRPG的ではないか。プレイヤーであったなら、さぞかし面白いセッション体験だったことだろう。でも、それを視聴者目線で俯瞰すると、いろいろとナラティブに足りない要素を感じてしまう。

第2シーズンエピソード2の最後の方でようやく全体像が知れる。プロト分子はそもそも地球を狙った太陽圏外からの侵略であったらしい。鹵獲したところ、将来的に人類に益をもたらすと研究者達は考えた。ただし、純粋に研究ではなくて、兵器利用を企む地球側の組織(ジュリー・マオの父親)があるようだ。――このプロットはALIENですかね。エヴァっぽくなりそうな気がしなくもないけど。

データ送信先の遺棄されたステーションで研究者達を発見した一行。ミラーは事もあろうに、フレッド・ジョンソンですら合意しかけた唯一の研究者を撃ち殺してしまう。ジュリーの仇討ちと、さもなければ、ナウシカ(自由原理主義者)の立場なんだろう。※ナウシカが出てくるという意味じゃないよ。

ちなみにナオミの苗字は、原作ではナガタだからヘブライ語のネイオウミィではなく、れっきとした日系だ。作家がどれだけ日本通であるかが知れよう。でもドラマの俳優は英国人だった。脇役にアジア系の演者は起用されているにもかかわらず。なぜだろうね?

ロシナンテ号にはデフレクターの類いがやっぱりない。レールガンで穴だらけになる。ガンダムのビットみたいなスラスター制御の浮遊装甲板とか、2010年(2010: The Year We Make Contact)のバリュートとか、一面だけシールド板で装甲がブ厚い(装甲板を敵に向ける)とか、ラムスクープとか、そういうものは全く開発されないのかねぇ? 宇宙時代なのに? それに突撃戦法なら衝角が付いていてもよかったのにね。

ロケット工学はろくに進歩していない(しかし、核融合エンジン)のに、人工透析っぽい装置で被爆した人体を再生したり、四肢のクローン(第1シーズン第1話)ができたり、対G薬があったりと、医療技術だけはかなり進んでるのよね。そのくせ、ハンチントン病にはまだ特効薬がないようだ(クローン義肢が作れる遺伝子操作技術があるのに遺伝病にはダメ?)。がん細胞に関しては抑制してくれる薬があるらしい。かなりチグハグ。

このパオロ・コルタサルという研究者の母がハンチントン病だったと劇中では云っているのだが、だとすると常染色体優性遺伝なので、この人物も50%の確率で同じ病に冒される可能性がある。その辺の話があってしかるべきなのだが、ない。デザイナーズ・チルドレンで遺伝病は除去できるとか、法律がそれを許さないとか、そういう話すらでてこないのは妙だ(2012年クリスパー・キャス9の先の時代だから)。一方、主人公ジェームス・ホールデンには8人の親がいると云っていた。調べると、この意味するところは税金逃れ(税制上の優遇措置を8人分貰えて1人の食い扶持だけで済む)だという。これ、劇中で説明されていたっけ?……こんな生々しいところを材としているのにもかかわらず、片親からの遺伝病の確率には触れないのは単なるミスなのか? 遺伝疾患なら発症してからの治療法云々よりも、発症以前の遺伝子改変の方が理に適っているだろうに。もしかすると、ハンチントン病ではなく、パーキンソン病の間違いではなかろうか。そんなわけで、全般的に科学考証が素人っぽいんだよね(宇宙船の“リアル”な挙動を持ち味としている節があるクセに)。この程度なら、集合知のネットを使えばこたつ記事並に誰でも書けちゃう。出版からの12年くらいの差で、ハード系のSF小説は書きづらくなってるね。専門家以外は。

ボビー・ドレーパーはチーム内では、なぜか頼れるリーダー。リチャード・トラビスが地球生まれで周囲と軋轢を起こすのをなだめる役目。それよりも、ボビーがなんであんなに地球を攻撃したがるのか、周囲はそれに仕方なく同調しているのかどうかを描いて欲しいものだ。

どうにも情報を聞き逃してる気がしたので、日本語吹き替えで見てみたが、ガンシップを武装ヘリと吹き替えていたり、かなり雑だった。英語字幕で日本語吹き替えがベストかも。字幕はマシみたいだけど、量が収まらなくて情報が落ちてる時があるし、直訳になりすぎると全体の意図を把握しにくい場合がある。一方、吹き替えだと台詞の意図はすんなり伝わってくる反面、それでも、翻訳が長すぎる場合には、台詞に収まらずに、やはり情報の欠落が起きる。

この場合、補語が落とされる。例えば、「捕まえたテロリストが○○と言っていた」の、○○が台詞に残され、「捕まえた」がなくなっていたり。まぁ、ドラマの翻訳は適切な脚色も必要だから、むずかしいやね。特にSFモノは、苦手とする訳者ばかりでしょう、きっと。日本でSFが流行らない理由のひとつだと思うね。SFドラマが邦訳配信されていないから。
[ 2023/07/23 08:49 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

アニアーラ(アマプラで視聴)

全般的には古典的SF「さまよえる都市宇宙船」の一形態。中学生の頃に読んだハインライン「宇宙の孤児」を思い出すなぁ――ちなみにアニメだと「メガゾーン23」らしい。アニアーラの乗員も同じ経過を辿れるはずなのだけれど、劇中ではひどく大雑把に省略されてしまったので、子孫は早い段階で滅んだ公算が高そうだ。

アニアーラの内容を吟味すると、我々の棲む宇宙船地球号がもしも劇中のように小さな存在であるとしたら、これまで気にも留めなかった、とある力関係が現れてきて、人々はそれを無視することができなくなる、という辺りだろう。

小さな国家的集合体では政治が人々に与える影響力は格段に強くなり、社会的な管理機構から逸脱することはほぼ不可能となる。外が宇宙空間ならなおさらだ。どこにも逃げ場は無い。被支配の束縛や、先行き不明からくる閉塞感の恐怖がいずれ強く表れてくるに違いない。良くも悪くも一心同体で、何かが起きればそれはもろともだ。

遭難したアニアーラ号では船長が全ての権力を保持し、望むと望まざるとに拘わらず独裁主義の専制君主となってしまう。幸いなことに有能な乗務員連中のおかげで何とか社会は自己完結して回り続け、幸か不幸か全乗客も不自由を感じながらも生存することができている(いた)。

つまり、社会情勢の不安感を分かりやすくしてくれる縮図がアニアーラ号だ。あるいは、政情不安な一国では、常にこうした考えを人々が持っている、という事実を暗示するのかもしれない。

余談ながら、劇中にテンソル第5理論というのが出てくる。これは、修正重力理論――スカラー・テンソル・ベクトル重力の第5の力の場(ファイオン場)のことだろう。重力理論の主流とは外れた別の見方――ダークマターの存在を必要としない――でもあるので、文系物理学オタにはちょっと面白い部分である。一方、現実では「ダークマター星発見か」との記事も踊る。

AIと思われる劇中のMIMAが人間の記憶に触れすぎて自殺するという、いわゆる“創発”を逆手に取ったアイデアも(今だからこそ逆に)興味深い。(1956年の原作から引いていると思われるので)昔のAIは人類を滅ぼそうと考えるより、自死を選ぶらしいってわけだ。究極の進化は死である、というような結論を人工知能に芽生えさせ、人類の手に負えなくなった彼らに自滅を促すオチのSF作品もあったよなぁ(TOSのエピソードだっけ?)。いずれも当時モノ(※)らしい考え方だ――高尚なる者は支配ではなくアセンションを選ぶ。それが昔は死であったが、昨今だと「her/世界でひとつの彼女」のようなオチだ。
 ※といっても、原作から10年くらい下ってしまうけど。この頃は時代感覚が比較的緩やかなので、十分通じそうに思う。

MIMA死亡後の船内の暮らしぶりは、70年代のヒッピー文化を呼び起こすもので、東西冷戦・泥沼のベトナム戦争時に見られた北米の文化的な発露を繰り返して見ているような気にさせる。カルトのセックス儀式のくだりは特に。あんな感じのサイケな雰囲気に懐かしみを覚えた。ちん○が映ってるああいう映像――ブルーフィルム、おじさんが子供の頃には世間にたくさんあったらしいよ。

劇中のMIMAも幻覚剤も、実は同じ役目を帯びた道具。トリップから受ける啓示やインスピレーション――あるときは心に平安をもたらし、あるときは破壊や創造をもたらす――で、何か拠り所を求める人間心理に欠かせない物としての描かれようだった。ジャック・ケルアックとかバロウズとかのビートニクを思わせるよね。

ハリー・マーティンソンの原作――読んでみたくとも古書の取り扱いがどこにもない――には、もっとたくさんの神話や宗教の引用らしきものがあるそうだが、この映画ではろくに出てこない。それらがないことによる、意味の喪失は大きいみたいだ。

派手なハリウッド映画に慣れていると、アニアーラの視点は庶民レベルなので、まぁまぁ面白いところもある。チープさは否めないが、むしろ、駅前のモールと住宅街が渾然一体の都市宇宙船になっているのだから、全編をどこかの百貨店でロケしていたとしても全然不思議ではない。見た目はそれくらいのチープさということで許容できていないと、この映像作品の視聴は辛かろう。

とはいえ……オタクの教養で言えば、もろ「マクロス」という単語に落ち着く(アニアーラに歌は出てこないけどね)。歌謡曲とアイドルを関連付けさせた老舗アニメだって、そもそもオタクカルチャーを町内国家を中心とした銀河戦争を揺るがすセカイ系で表したわけなので、相関のさせ方は似ていると言える。エヴァンゲリオンの第3新東京市といった舞台やラノベ系の学園ものを挙げれば、オタク的な視野は意外にも社会(狭い生活圏)の成り立ちの基礎から組み立てているわけで、その手法はアニアーラと大差ないことに気が付かされる。意外に馴染みの作りであったってことだ。で、オタクはとっくにそういうシロモノを見たり作ったりしており、そこに無かったものを挙げるとすれば、それは「政治的な観点」と言えるんじゃなかろうか。ムラ社会を代弁するハーレムなどは、描いている方だと言えそうだし。資本主義的な政治形態は敢えて外して描くのがオタク。オタクと同じ手法で成り立っている「アニアーラ」に敢えて視るべきところがあるとすれば、それは「政治と人」という部分かと。

ところで、ネジ(デブリ)に衝突して起きた火災事故はちょっと説得力が乏しい。人工重力を発生できるほどであるなら、大なり小なりデフレクターは当然装備されているはずで、障害物との偶発的な事故を全く抑制できていないのはおかしいからだ。そうしたものは宇宙旅行には必須の装備であるはずだ。

「槍」を経て中盤~オチは残念ながら拡がらない。宇宙は広大無辺で人類の存在は矮小という以外に、この部分に思弁的な要素を感じとるのは極めて難しい。人類に「槍」の意味は解明できなかった――最近スラングとしてよく使われる「虚無」。それは分かるけどね、文字と違って、映画にするとつまらなくなる箇所なんだろうね。

ジェリー・アンダーソン製作「スペース1999(SPACE:1999)」の第1シーズンもまた、当時モノのニューウェーブっぽいスピリチュアル系の「さまよえる都市宇宙船」形態であるので、未見の方はアニアーラの対比として視て頂くと面白いかと思う。第2シーズンはちょっとばかりウルトラファイトになってしまってアレだが。Year IIのテーマ音楽は私は好きですよ。
[ 2023/07/22 11:33 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ラザロ・プロジェクト 時を戻せ、世界を救え!

第7話。実は今までで最も興味深いエピソード。

その前に。

シヴがジョージに射殺される場面がプレビューとして何度もリピートされるのであるが……演技が大根に見えて仕方がない。突き出した右手を、撃たれると同時にすぐ左腹に当てる――私は撃たれたことがあるわけではないから、どういった演技が現実的であるかを述べることはできないが、(口径にもよるが)たぶん銃撃による弾の衝撃とショックをまず肉体は受けるだろう。痛みはすぐに感じられたりはしないかもしれない。だから、銃傷へすぐ手が行くよりもまず、やるべき演技が何かあるだろうとは思う。シヴはジョージが完璧に裏切れずに音を上げると踏んで行動していたはずだ。だから、撃たれたことは相当に意外であったはず。他の道を探ろうとか、今ならまだ戻れるとか、俺のようにはなるなとか、ありきたりでも説得すればいいようなものを、フツーにアクション映画風の演技しか出てこず幻滅なのだ。

さて、本題はここから。

生き返らせたシヴに、ジャネットへの咎を感じるから送金しているんだろ、と言うジョージ。大事なドラマを後で付け足してくる脚本。まぁ、アクションやらのスピード感や物語の展開を優先した結果と受け取ってもいいが、本来は殺し合う前にあるべきセリフだよなぁ。

新米エージェントとしては間抜けで浅はかにしか見えなかったジョージが事もあろうに、先輩株のシヴを説得してしまう。ものすごい力業。シヴをスケープゴートにするから自らの悪事はバレないという、ご都合主義で天才級のアイデア。一介のアプリ開発者に過ぎないという周囲の捉え方すらも利用した、さすが天才級のアプリを作り上げただけのことはある、有能な人物の仕業――と見せたい脚本なのであるが。そんな男だから、短期間で銃の扱いにも長けたのだ――と読んで欲しいわけであるが。

――どうだろうか、出来すぎた展開だよなぁ。そんなに人心の扱いに熟知するものか、ただのアプリ屋のようなギークごときが。体験した恋愛沙汰から相手の気持ちが読めるのはアリだが、ジョージはシヴの過去を知らないし、現在のシヴは頑なに偏屈でドライな人物を晒していたわけで。ジャネットへの送金からそこまで見透かせるとしたら、超人級のマインドだ。視聴者はジャネットの出産を何度も見たから、そうした考えが向くように出来ているが、主人公が視聴者と同じような理解をできることとは視点が違う。

ジョージは自ら殺した一般人全員には開き直って弁明しないつもりなのだ(彼らには改変前の記憶が残らず、その必要性が無いから)。非常に打算的な人殺しのクセに、(シヴの)心の痛みは分かると言う。それをもって温情と引き換えに、裏切りの罪を赤の他人に着せても良心の呵責を感じない。なんという男だろうか、ジョージは。物語的に成り立つ主人公のひととなりは、誠実さは微塵の欠片もないくせに感情を手玉に取れるという恐ろしい化け物だった――ある意味、功利的で現代的な若者像に加えて、相容れないはずの人情の酌量を計算する理性が伴っている。

だから、「巻き込まれ型の平凡な善人が起こす悲喜劇」というスタイルを成り立たせるにはあまりにもアウトな脚本だと思うのだ(性善説ではなくなるから)。パーパ・エッシードゥには向いた役柄ではあるが。見れば見るほど自己中な主人公でしかなくなる。要するに、恋人を救わんが為に、「人(または魂)を売った詐欺師」の話になっていく。主人公のため息で済む話にしては、相当に重い中身が転がっていたわけなのだ。もはや、「こんなことになるとは思わなかった」という間抜けな輩ではなくて、「全てを分かっていて、やった」というエリート確信犯になってしまったのである。これは相当なギア・チェンジに映る。もちろん、脚本家はそのつもりで書いたのだろうが。

ジャネットの娘に起きたことが、シヴが原因だったとジョージは推論している。シヴの罪の意識が送金なのだ、と。視聴者が知りうる範囲では、レブロフとジャネットの最初の息子は娘になった(それも何度も)ということだけだ。私は各話一度視聴したきりなので、見返せば見逃した発見があったのかもしれないが。

逆に言えば、シヴが組織を裏切る動機は何であるのか、ジョージが語るほどにはピンとこないことになる。シヴがジャネットと通じたゆえの隠し子ということだろうか。字幕だとセリフをおおまかにしか表しておらず、この細部が聞き取れなかった。シヴは“子供”の因縁でジャネット側へと寝返ったというジョージの筋書きなのか。この線はシヴにとってかなり図星か、都合の悪い事実でなければならず、でないとシヴは反証すればいいはずだ。

私の見立てが間違っていなければ、このドラマ、想像以上に奥深いところへ追求していきそうな気配がある。ただし、混沌と混乱を前提とした作りなので、その複雑さと奥行きが単なるはったりへと変化してしまう恐れも多分にありそうなのだが。

第8話へ続く為の結末を見ると……ダメだろうな。代償という描き方では納得いくが、ドラマとしては矮小でつまらない。登場人物の相関も第2シーズンありきだろう。ラザロというタイムリープを操る組織の面白さは微塵もない。


第8話――第1シーズン最終回でようやっと面白くなりそうな展開に。これまでの長すぎるサイドストーリー&過去話は何だったのか。しかも、ジャネットがいつの間にか超天才になってしまっている。核弾頭の起爆装置を作れるだけでも相当イカれているのに、タイムマシンに詳しいと来た。……なんだそりゃあ! 

構成が上手くはない。もしくは、編集で切り詰めることをせずにダラダラと1シーズン消費することにする体たらく。

サラを生き返らせるというジョージの代償は、改変されてきた過去の記憶の共有で穴埋めできそうなところまでは行き着いた。ここで、ひとつ疑問がある。ジョージと出会ったパーティでの記憶が何十とやり直された結果であることに、サラは疑問を抱かないのか? そもそも気のなかった男から都合の良いモーションを何度となく受けたゆえの付き合いだったわけなのに……

シヴとジャネットとの関係も明確には分からないままだ。シヴはジャネットの出産に関する不遇に同情していた……あるいは片思いであった、とかか? そのシヴの善意を裏切りの証拠に使うジョージは冷血漢で悪辣でしかない。

アーチーは第8話でジョージの裏の顔にとうとう気が付くが、情状酌量してやるというご都合主義だ。

向かいの隣人がパラメディックだった、なんてのは端から読めた。元カノはジョージがスリリングなスパイだと分かるや、ヨリを戻すようなどうしようもない女教師だった(そこに幻滅を覚えないジョージもジョージだ)。

事態は登場人物の罪のなすりつけ合いや派閥の対立では済まないことから、丸く収まる理由になっていく。再び、脚本の力業だ。呉越同舟で、敵味方双方がジャネットの捜索/救出によって3週間毎のループを脱せるに違いないと考え出す。視聴者はそれに乗せられて、これまでの因縁をリセットした気分で第2シーズンを待ち望む……ものすごいトリッキーなクリフハンガー。面白いというよりは騙されてるような案配ではなかろうか。この有様だから、もっとコミカル寄りな作風が似合っていたと思うワケなんだよな。

そもそも、英国人が、どうしてアメリカの銃社会を真似たドラマを作ろうとするんだろうか? 英国は日本と同様に法的に銃の携帯が許されておらず、一般人が銃とは無縁の社会だ。それほどアクションで引っ張らないと視て貰えないのか――北米への輸出を考えている、ということか。
[ 2023/07/21 02:32 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ザ・エクスパンス(ザじゃなくジだろう)

今頃、第1シーズンを視聴中。言うべきは、とにかく構成が優れていない点。第8話で登場人物達が合流し、第1話冒頭から引っ張っていたジュリー・マオの顛末が判明する。

何が悪いって、第9話でジュリーの行動を振り返って見せてくれてしまう。第8話で追い詰めたものの、視聴者はおろか、登場人物も何が起きたか分からないだろうという有様。だから、第9話でまとめて見せる必要があった。でないと、意味不明のまま。

作家がスタートレック――TOSの世界観を借用してエピソードを練ったが、採用されなかったので、自分なりに拡張した物語として発表した……かのような雰囲気だ。ステルス船てのが、いかにも。TOSでいえばクローキングで、おなじみ過ぎる。

火星、地球、小惑星帯という三つ巴の勢力図はまぁまぁ。見せ所はあるけれども、メインストーリーと焦点が合わない。どちらかというと、スペースノイド・地球連邦軍・第三勢力のガンダム世界の縮図に近い。

火星と地球を争わせて漁夫の利を得るという陰謀が分かったようでいて、問題のガンシップのリアクターに巣くった謎の物質を巡る物語が進行中で延々引っ張られる。フェーベの研究所で作られたものとは何か? 

スタートレックで喩えるなら、ジェネシス研究所と難破船ペガサスを合わせたような感じ。そして、トリブルじゃないけどある種のパンデミックかな? それだけで10話作ってしまう……冗長過ぎるだろ!

作家はハードボイルドの探偵モノがお好きらしい。コーヒーとモルモン教徒という突出した芸風も。

ハードSF物理オタクが喜びそうな反転して逆推進、推進力による重力発生、無重力空間を利用した反作用、などなど、細部にはそれっぽい演出がチラホラある。ただし、マグネット・ブーツだけはあまり捻りがないし、デブリを遮るデフレクターすらも存在しない世界。ビーム転送装置なんかもちろんない。そのくせ、ステルス船って? 現代のステルス戦闘機の伝?

ガンダムだと無重力を利用しての船内移動ガジェットもあったけれど、ここにはない。なにげに富野ガンダム(初代)すげぇーってのが分かる。

ガンダムのノーマルスーツや、隔壁損傷の際の応急処置を連想させる場面があり、まさにアニメからインスピレーションを得ているのでは? と勘ぐれるくらいの演出も見られた。

ドラマはグダグダ系。ゲーム・オブ・スローンズは登場人物が語り合うところ(とくに吹き替え脚色)が素晴らしく、進展の乏しいスタイルがたまに生じても、魅せる場面が明快に分かったものだ。ところが、このエクスパンスにはそういったものがない。視聴していてかなり辛い。何のために用意された場面なのか、はなはだ見当が付かず、無用に長い。人物掘り下げの妙が乏しい。

セットは低予算を感じさせてややチープ。CGはハードSFを優先するあまりか、質実剛健が顕著でデザインセンスにこれといったものを感じさせない。

生活感やガジェットは、さほど未来的ではない。今の延長上で容易に理解できるものばかり。価値観の違いは全く生じない。

ちょっと面白かったのは、軍船が隠密行動をする場合の符号を利用して、敵対者の臨検を防いだくだり。

物語の大筋は何も始まっていないし、意外とつまらない。
[ 2023/07/10 22:08 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)
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