コミックマーケットの会場、国際展示場。りんかい線の国際展示場駅から降りて会場へ向かう途中、いろんなものが目に映る。
吉備団子の屋台。果たして屋台と呼ぶべきか迷うが、ガードレールの手前に卓が置かれ、きな粉をまぶした手作り感のある串団子を売っている。なぜ、この冬場に吉備団子なのかは不明だ。
駅前コンビニの販売員。アニメに関連したグッズを売り込もうと、いつも声高な宣伝活動に余念がない。
駅前ロータリーに停車している『痛車』。四角四面の一人乗りの車(電気自動車だろうか?)で、外見が珍しいだけでなく、ミルキーホームズのキャラが描かれた3台ほどが、数珠繋がりに停車していた。宣伝広報の一環なのかもしれないし、ファンメイドなのかもしれない。ケータイで撮影している人も多かった。
屋根付きのアーケードを通っていくと右手の空いた広場に人だかりがしている。スピーカーから増幅された声が聞こえてくる。いわゆる『大道芸』を披露しているパフォーマーだ。ご存じの方は多いだろうが、夏も冬もこの場所で必ず見かける光景である。
小柄でがっしりした体格の人物が、時に危険と隣り合わせの芸を、こちらも巧みなマイクパフォーマンスで一人実況実演している。今も何かの真上でバランスを取っているところだ。人垣から突き出て見えるくらいだから、地面からだいぶ高い。彼のスネの下には、板越しにコロコロ転がりそうな太いパイプが積み重ねてある。パイプの長さは肩の幅くらい。直径は遠目から見た感じでは20cmほどだろうか。人が乗ってもたわまない剛性に優れた中空のパイプが横向きに一本ずつ、板でサンドイッチにされて階層を作り、真上から見ると、十字になるように角度を90度ずつ変えて、段重ねしてある。ローラーバランスという技だそうだ。なんと5本(5段)重ね。世界でもこれをできる人はいないらしい。
何のくびきも無いパイプたち(本当は筒というそうだ)は、観客の目の前でコロコロと数センチずつ、回転可能な方向へ、前後と左右に微動している。この不安定な足場の上では、姿勢を完璧に制御できないと、すぐにも倒れてしまうだろう。平衡を維持しているだけでも見事だというのに、観客の手拍子の中、この足場の上でしゃきっと立ち上がるという。夕方の外気温はたぶん7度前後だ。陽が暮れかかるとすぐに寒くなる。決してパフォーマンス向きのベストな環境ではない。にもかかわらず、皆が固唾をのむ中、パフォーマーは見事にすっくと立ち上がり、その姿勢をしばらく維持した後、さっそうと地面に着地した。話芸も気持ち良く、皆が惜しみない拍手をして、おひねりをはずむ。
芸を終えて帰り支度を始めたパフォーマーに、私は話を聞いてみた。素人の短いインタビューにも、気さくに快く応じてくれた
TOMIさんは、この道15年、筋金入りのパフォーマーである。
芸を見ていて自分もやってみたいと思ったのがきっかけだという。ほとんど独学で、他人の演技を見たりして覚えていったそうだ。もちろん最初は今ほど上手くなくて、仲間と一緒に三人で、はじめて人前でパフォーマンスをして、一人あたり100円玉一枚、三人合わせて300円もらったときのことが忘れられない、と熱く語ってくれた。今は、芸一筋で暮らしていけるほどに、順風満帆になってきたそうだ。
先ほどの、お客さんとのコミュニケーションも素晴らしかった。
「投げ銭て言いますけどね、あれは当たると危ないんですよ。ほら、見て下さい、あの大人。投げようとしています。(観客爆笑) 私はね、ちゃんとお客さんの顔をみて頂きたいですから」
あたたかい気持ちにさせる、見事な話芸だ。魅せる技と聞かせる喋りには、TOMIさんの人柄とパフォーマーという職業に対する気持ちが表れている。
芸へのひたむきさが、話しているTOMIさんの顔を見ているとわかる。いたって飾らない人柄で、「パフォーマーらしく格好良いポーズを」と写真を撮るときにお願いしてみたが、「ふつうの時は素(す)なんで」と、ご覧の写真になった。
当然、この道では苦労されているはずだ。練習の上に維持される芸である。努力も相当なものだろう。間近で見た掌が印象的だった。大きくて、しっかりとした太い指。そのホールドがジャグリングで発揮される。さすがに今の時期は寒さにやられるのだろう。ケアするためのハンド・クリームを塗りこんでおられた。
失礼ながら、お歳を伺うと、私よりひと回り近く若い。別の本職があって、そのかたわら、やり続けておられるのかと思えば、そうではない。パフォーマンスは副業ではなくて、もう15年もやり続けている大ベテランなのだ。数々の大会に出場して優勝もしている。お仲間とのネットワークを利用して、大道芸の派遣業務の会社も立ち上げている。TOMIさんがプロデュースする
東京義賊のホームページはこちら。夏冬のコミケの時期以外は、本拠地の静岡で主に演じているそうだ。
夢を追い求めて実現している人のすごさというものを肌で感じた瞬間だった。
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