ス ク ラ ッ チ す る D

blenderでモデリング、海外ドラマ感想、洋ゲーRPG、のことを綴ります

ロバート・ゼメキス映画②

マーウェン

初めて鑑賞しました。基本的に、俺はこの手のに弱い。ディックの短篇「パーキーパットの日々」を連想させますし、心に傷を負った人々がThe Simsで遊ぶことで自分の(虐待の)体験を表現したといった記事を読んだことを思い出します。もっとも、パーキーパットの意味するところは少し異なるのですが。

漫画家や小説家が自身の創作を利用して、厳しい現実を、よりよい方向へ作り替える、といった趣向は決して風変わりなことではありませんよね。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」によって、シャロン・テートを救うのもそうした企てのひとつだと言えるでしょう。

エロマンガ描きや少女漫画家も、読者の思い描く理想に合致させて、同様の意図をもって、ご都合主義な世界を描いた作品を発表することがあるはずです。

マーウェンは大人向けの「トイ・ストーリー」と言い換えてもいいかもしれませんね。空想が現実を癒やします。そして、克服しなければならない問題を暗示します。

TNGでなら、バークレー中尉の「倒錯のホログラムデッキ」が一番近そうです。

「ある者は孤独のままに生きることを余儀なくされる」というセリフは何も倒錯趣味を持った人(表現が難しいのですが、主人公マークのような人物像はなんと言えばいいのでしょう?)に限られた話ではないことは身をもって知っています。昨今、結婚できない男女は多いわけですから。

人形たちのドラマが暴力に終始するのは、虐待の再現と復讐または抵抗なのでしょう。危ういバランスの中で成り立っているわけです。それほど、現実ではマークを目の敵にする人物が多い、と。

劇中では、queer(オカマ)と言われたとマークは述懐しています。

マークをニュートラルな人間とは捉えられない部分があるので、Rideするのは徐々に困難に感じますよね。視聴者が似たような疎外感を味わったことがあったとしても、その原因はマークのように倒錯趣味だったこと(ヘイトクライムを受けたこと)では無いから、と。つまり、自分が村八分されたのは、倒錯趣味のせいではない! みたいな自己弁護で、マークと自分とをイコールと認めない人は多いのでは?――「女性物の靴に興味なんて無いし」

この場合、マークが自分の傍に住んでいる人物だと仮定して、それを許容できるかどうか、といった見方もできます。社会的に害をなすわけではないので、倒錯趣味とはいえ、何ら問題はないわけですが。例えば、オタクを馬鹿にする風潮と、まぁ、根は同じですよね。

北米ではマッチョ思想が根強いということなんでしょう。だから、(マークのように)女性を連想させるシンボルを、男性が利用していると、マッチョ達が「気に入らねぇ」とばかりに、ちょっかい出してくるわけで。

倒錯趣味というか、アングラな趣味が、リアルの地域社会やコミュニティで認められるかどうかは、かなり微妙な問題に思えます。ひとえに、対象者の人となりによるでしょう。同じオタクでも、コミュ障でキモいオタクなら、嫌われるわけです。

惚れっぽいマークは女性に親切にされると、それを好意と受け取ってしまいます。この心理状態、実は、けっこう普通です(ナイチンゲール効果)。異性の看護師に世話されて、好意を持たれていると勘違いしたり(男性患者が、とある看護婦さんを好きになったり)、担当の歯科医と結婚するアイドルもいましたね。

夢中で恋している様子は、傍から見ると、とても痛々しいですが。

マークの恋愛遍歴でわかるのは、ウェンディの頃は向精神薬によって破綻した(告白できなかった?)らしいこと。だから、薬物が象徴する色である緑色のデジャ・ソリスによって消されました。

模型店のロバータはマークに好意を寄せてくれますが、当のマークは劇中の終盤になるまでそれを認識できません。

マークは引っ越してきた隣人ニコルに好意を抱き、マーウェンにもニコルが登場します。ホーギー大尉もニコルを愛し、相思相愛になります。ところが、現実のマークの告白はニコルから受け入れてもらえませんでした。いつもなら、デジャ・ソリスがマーウェンのニコルを消して終わりなんでしょうが、今回は違いましたね。

マークは、ホーギー大尉とニコルの関係をリアルの自分とは切り離して考えることができるようになり、意中の人から愛されない自分を受け入れました。この成長が見所でした。

ただし、この変遷は先述したように、ニュートラルからかけ離れており、素直に受け入れにくい(Rideしにくい)要素でもあります。マークは純粋すぎますから。園児が保母さんに向かって「結婚して」というような感じに似ています。

大の大人、特にアメリカ人のように恋愛という行為がとても進化している国では、あまり一般的では無かったのだろうと思います(興行収入が振るわなかった理由では?)。日本の恋愛はまだ、純愛やら静かな部分を保っていますから、受け入れる下地なら多分に残されていたんだろうな、と。

この単純に描かれすぎていない部分(行間)を、控えめを美徳とする日本人は読めるけれども、アメリカ人はモヤモヤして納得できなかったんじゃないですかね。

未来に送られた(消えた)人物にタイムマシンで会いに行こうと仕向けるとか。こうした状況で出てくるタイムマシンは、本来、失敗した過去を変える道具立てだと思うんですが、現実から去って夢(死?)の世界に浸ったままになるという(重症化の)暗喩みたいでしたね。

マークを取り巻く現実世界の女性(影が薄いですが男性も)が、マークにやけに親しげだと感じませんでしたか? マークがよく理解されていることにもうらやましさを覚えました。これはきっと、マークの純粋さに触れて、心のガードが降りた状態なんだろうな、と実感しました。例えば、8歳くらいの子供の相手をすると、我知らず童心に返るというか、純真無垢を取り戻したような気になることがあります。マークも周囲の人々にそういう影響を与えているのでしょうね。
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[ 2020/07/20 19:00 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ロバート・ゼメキス映画

コロナ禍の閉塞感で最近の映画を鑑賞しても、なぜだか心に響かない。一昔前の映画の方が、違う視点に気が付かせてくれる……気がする。

昔見たけれど忘れていた映画と、見ないでスルーしてしまった映画を今更視聴。以前と違う何か、あるいは今っぽい何かを自分の中に感じるかどうか。

フライト

「リコシェ」で精悍だった、あのデンゼル・ワシントンも、中年のぶよぶよが滲み出てきた、そういう辛さ。ハゲじゃなかった人が、遺伝子の通りに(つまり父親そっくりに)ハゲていくのを見るような。

初めて見たときは、序盤の、旅客機の神業的な着陸劇に目を釘付けにされるも、先へ進むと、これは一体何の映画なんだ?という疑問が渦巻く。

視聴者は、主人公による自力の更正を願いながら半ば見守るが、当然、そうはいかない。アル中はアル中だ。

画面横から出てきた手が、アルコールの小瓶をスパッと掴んでいくショットに「止めろ!」と誰もが言ったことだろう。

ここでは偶然、主人公は男性でアル中であるが、駄目な人間の典型としてはアレで正しい。だから、多かれ少なかれ、誰でも客観視すると思い当たる節があるに違いない。

クライマックスは、もともと善良な犯人が「捕まえてくれて良かった」と吐露するような刑事ドラマと一緒。

「あぁ神よ、私に力を」とマイクに向かって言ってしまうほどの葛藤が、とても正直に伝わる――主人公はさほど信心深そうではなかったから。

吹き替えの小山力也さんの声だと、ジャック・バウアーならともかく、この場面は、冷めたヒーローボイスではあり得なくて不釣り合いに聞こえてしまう。

「もし、アル中が英雄になったら、どうするか?」という見せ方は映画的で面白い。でも、「所詮、アル中の話だ」となると見せ方が歪であったと感じてしまう。そこにちょっとモヤモヤが残る。

トリーナを演じた女優さんのプロポーションが抜群。冒頭のベッドシーンで彼女のシルエットがフレームイン/アウトを繰り返すと、もっと見たいと思ってしまう。男は元来そういう生き物で申し訳ないんだけど、俺の場合は職業病もある――二次嫁にあのシルエットを移植できないか、みたいに考えるから。

キャスト・アウェイ

トム・ハンクスが若い。(劇中で)95年(+5年)の話なのか。ベルリンの壁は崩れたが、世界がグローバル化の波とテロの波で変容し始めたのをまだ感じなくて良かった頃だ。

実在のFedExが登場するのが面白い。10年違うけれども、フライトの航空会社はさすがに架空だったから。

時間から放り出された人の話だ。無人島に漂着するコトなんて、自分の人生には無いよなァ、みたいな無関心には繋がらない。だって、これは辛い時期を耐え忍ぶ話だよな、と分かってくるから。

「オデッセイ(原題 The Martian)」での、マット・デイモンによる火星島流しジャガイモ生活も感銘を受けたもんだが、やはり、本物の無人島暮らしは普通に想像力で補えるだけに、とても過酷なことが伝わる。火起こしでは、鉄板と石による火花(江戸時代風)を試してみては? と助言したくなるほど。

チャックがココヤシの実に叩きつけて発見した裂ける石は、サルになるゲーム「Ancestors: The Humankind Odyssey」でも出てくる。あれを見つける偶然の方がスゴそうだ。

「10メートルの縄」が事後だけで出てくるところがポイント。高波を超える場面は以前と以後の両面で描かれるのに。自殺を考えた場面そのものは出てこない――あくまで希望のための映画だからね。

「ウィッチャーIII:ワイルドハント」でもゲラルトが、「ふむ、絶対に裏切らない親友だな」と髑髏のことを言っていたのを思い出す。やはり人は話し相手がいないとヤバイのだ。「ザ・シムズ」にも、ソーシャル・バニーが出てくるじゃないか。残され島のおじいもコナンに言っていた。「人は一人では生きていけない」

ハンクス演じるチャックは、バレーボールに付いた血糊の手形をウィルソンと呼んで、話しかける。ヘレン・ハント演じるケリーの写真に見守られながら。脳内ケリーを相手に、ではないところが、オタクと違うところだろう。ケリーは唯一の現実だ、食べずに冷蔵庫で最後まで残しておくことに意味がある高級ケーキのように。

そして、忘れてはならない、天使の翼と三重の輪っか。象徴的なガーディアン・エンジェルのひとつだ。その徴(しるし)に何を感じるかは、宗教観も含めて、人の自由。リュック・ベッソンのジャンヌ・ダルクだったら、神の御徴だと臆面もなく言うだろう。そうでなくても、前向きな人は希望を見いだす。

鯨。地球に生きている知的生命体はホモサピエンスばかりではない。鯨が海の後見人として登場してくることには、多分に西洋的な自然科学主義と偏った生命礼賛を感じさせる――グリーンピース的な。

とはいえ、そこは天使の翼と同様に、ロマンであろう。アメリカでは、食肉用の牛がその立場にならないことだけは確かだが。

代わりにイルカでもよかったのに、とは思える。確かに、鯨の潮吹きなら、見えなくても存在を感じさせる演出に一役買うが。ぶっちゃけ、神が遍在する、という信念(概念)を大体の保守系アメリカ人は持っていると、この映画は肯定している。

流れ着いたベイカーズフィールドの屋外仮設トイレの外壁の裏に、天使の翼と三重の輪っかを描いてしまうほどだ。俺は、後で知らず知らず、ここをStrawberry Fieldsと間違って思い返してしまったのだが。そうであったなら、もっと面白かったかも。

なんたって、ジョン・レノンやビートルズと繋がるわけだ。Let me take you down(君を連れて行きたい、ケリー)だし、Nothing is real And nothing to get hung about(これは偽りだし、悩む必要は全くない)になる。もっとも、Strawberry Fieldsの歌詞はレノンの抱く理想が現実と相容れない(みんなから夢見がちだと言われてしまう)様を現状肯定している否定の歌だと思うけど。

嵐で帆(天使の翼)が吹っ飛び、「なぜだぁ!」。潮吹きで気が付いたのに、「すまない、ウィルソン。僕には(君を救助するのは)無理だ」。絶望してオールを手放してしまうチャック。でも、水面下にはザトウクジラが付いている。

ヘレン・ハントは美しい――おでこの皺が年輪を感じさせたとしても。ショートカットのヘレンは、ジョディ・フォスターを彷彿とさせ、声までもジョディの喋り方に似ている。日本人が好む白人女性の顔だちのひとつだろう。

私生活でのジョディは人工受精で子供をもうけてシングルマザーを貫き、やがて同性婚したたいへん聡明な女性だ。だから、そのことを知った男性はジョディを恋愛対象と捉えることに気後れを感じてしまう。

しかし、「恋愛小説家」に出てきたヘレンのようなウェイトレスなら、オタクは間違いなく恋に落ちる。画が三次でも二次的な夢が見られるのだ。

その甘いヘレンを、チャックにRideして見ていたらとても哀しい。

チャックからのセンスのないクリスマスプレゼントに幻滅したことを見せず、精一杯嬉しい素振りをしていた5年前のケリー(ヘレン)――とてもいい彼女だった。異性の人となりを手っ取り早く知るには、ガッカリさせる状況を故意に作って試すというのを聞いたことがある。

車は「想い出の装置」としてケリーが大切に保管していてくれた。クリスマスの晩、ケリーに渡した車の鍵に付いていた十徳ナイフがあれば、無人島での暮らしぶりももっとラクだったろう。

ケリーは、歯医者がものにしてしまっていた。あの虫歯放置の原因になったであろう歯医者だ。娘も居ては、もうどうしようもない。

人間のできているチャックは、ケリーを旦那の元に帰す。明日から蘇るんだと旧友たちに励まされていても、内心は複雑だ。唯一残してあった“天使の荷物”(翼と三重の輪っか)を5年ぶりに届けた(不在だった)帰り、親切な女性が道案内してくれる。映画冒頭で出てきたあの十字路で。女性が乗る車の後ろ姿に同じ翼を見て、チャックの心は軽くなり、映画は終わる。

荷物に対するプロ意識(決して開封しない)と、5年後の不在でなぜか持ち帰りしない、チャックの生真面目さに、隠れた笑いも出る。

ロシアにいるカウボーイの男性(浮気現場)と、チャックがカウボーイと呼ばれ、最後に微笑んで、(国内?の)道を臨んだ場面には、ふっきれたと解釈してもいい。この場合は、ソウルメイトの結婚観を持つキリスト教に対して不倫問題をどうするのか、という感じではあるが。

現代風に考えれば、二人の旦那と一人の奥方で子供を育てる、新しい家族の単位に当事者全員が納得できればいいなァとは思う。一夫一婦制はあくまで旧い婚姻の形(単に文化が強制させるもの)であって、トランスジェンダーの時代にまで守るべき束縛とは思えない。

でも、翼の彼女は今独身(表札によれば離婚した)。チャックは新しい出会いの始まりに気が付いた、ということなんだろう。物語としてはそれで落ちるけど、変わり身がちょっと早すぎるかもね。

彼女のことはしばし忘れて、また生き残りに時間を費やすのも、彼なら出来ると分かっているし、逆境には馴れたもんね、と捉えれば、ストレスを感じやすい現代社会の我々には励みになる。生きてれば、いいことも、きっと起きるよ。
[ 2020/06/30 03:34 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

アップロード~デジタルなあの世へようこそ~(2)

※以下ネタバレ

9話のお終いに出てきたアップデートによる記憶修復で、ネイサンが死ぬ前にしでかしたことが明かになりました。10話で主人公の人間性が180度変化していたことが判明します。

もともとイングリッド(富豪の娘)に現を抜かすようなイケメン・プレイボーイだったわけですから、モラルにもとることをしていたとしても、驚きはないはずでしょう。

視聴者は、レイクビューで悟った人生観を持つネイサンにRideしていたわけなので、ネイサンの失意と同様に、まさかという裏切りを味わいます。

アーノルド・シュワルツネッガーの「トータルリコール」にも似た仕掛けで、主人公の善人ぶりは環境によって作られたものだったわけです。

恋愛モノの展開としてはなかなかパンチが効いていますよね。

また、ステレオタイプ――見栄っ張り、支配欲旺盛、ファッションリーダーでないと気が済まない――と見えたイングリッドが、あれほど愛情深い理解者だったことは、別の驚きでもあります。

劇中の登場人物は比較的丁寧に扱われており、筋書き上必要とされる表面的な属性と裏腹に、別の内面が備わっていても許容できてしまうゆとりを感じさせます。

単純化されていると見えたキャラクターにもまだ見ていない深みが備わっているわけで、これはレイクビューにいる住人の“人間らしさ”と同じような機微を演出に(つまり、メタ的に)感じさせます。そんなわけで、作り手はなかなかの巧者です。
[ 2020/06/25 20:25 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

アップロード~デジタルなあの世へようこそ~

ウエストワールド(自律する人造人間)を見終わって退屈している俺が久しぶりに興味を持ったのは「意識のデジタル化」を扱う作品でした。
※以下ネタバレ

2033年の世界では、瀕死の重傷に陥った者は「アップロード」サービスを依頼することで(肉体と供に死亡する代わりに)意識のデジタル化が出来ます。もちろん有料ですが。

デジタル化された意識は、ホライズン社のレイクビューというヴァーチャル観光地でホテル暮らしをしながら、いつかまた(肉体への)ダウンロードが叶うまでの時間を過ごします。

死んでいるはずの違和感に飲まれると精神に異常をきたすらしく、レイクビューの住人らは、仮想の肉体を意味するアバターはあれども意識だけの存在となっていることを敢えて無視するよう、仕向けられています。生きていた時と似たようなことをして過ごすことは、正気でいるために大事なことなのです。

この辺りは、まるでウエストワールド第2シーズンの受け売りのようです。劇中では、決して終了(Quit)の利かない、死者たちのVRChatの如くに描かれます。

追加コンテンツはソシャゲーのゲーム内課金の要領で入手します。もし、生前のような暮らしぶりを追求すれば、課金地獄となることでしょう。もっとも、アップロードサービスを利用するのは専ら裕福な連中ばかりなので、彼らにとっては造作もないことです。

貧乏人のアップロード空間もあるにはあり、そこではスマホの従量制プランを使い切ってしまったような惨状で人々が暮らしています。娯楽は無料提供の範囲だけ。食事は開発中の試食品。支払いが滞るとアバターはフリーズしたまま……などなど。

毎回、レイクビューの日常が描かれるのですが、それだけでは制作側は心許なかったのか、陰謀とサスペンスタッチの伏線が加えられています。

「別世界からのメッセージ」もそうでしたが、「都会の孤独」が登場人物らの暮らしぶりとして頻出します。核家族化が当たり前になって久しく、SNSを発展させたアメリカですら、劇中の大都会LAですら、孤独を感じる人々が一定数居るという証拠で、日本の少子高齢化やヲタクの未婚状態にも共通する、普遍的な題材ということが分かります。

そして経済的な格差のイメージ。主人公は中流階級らしい27歳のIT青年ですが、恋人は明らかに富豪の娘。そして、レイクビューのエンジェル(顧客サポート要員)として雇用されている女性は同居人とアパート暮らしする、ブルックリン在住の独身女性。経済的に恵まれているとは言えない身分です。格差のある3人を並べて描くことで、人生や価値観の違いがそれとなく触れられる秀逸な構成となっています。

富豪の娘は、わがままで他人からの視線を意識し、男性を操ることを好みます。主人公はアップロードサービスでの経済格差を是正する発明をプログラムして売り込もうとしたところで何やら陰謀めいた事故に遭遇して、レイクビューでの死人暮らしに。生前はおつむの弱いインスタ映えしそうな彼女(富豪の娘)とのセックスに夢中――要するにイケメンのプレイボーイ――でしたが、死んでからは性欲に突き動かされることがなくなり、自らの存在意義に、より気が回るようになっていきます。

エンジェルの女性は主人公のサポート担当となったことをきっかけに、飾り気のない主人公の言動に心惹かれていきます。彼女は出会い系サービス「ナイトリー」でセフレの男性とも懇意になりつつあるのですが。

日常系のノリはやや単調ですが、雰囲気は悪くない。主人公ネイサンとエンジェル:ノラをめぐる恋愛模様がほんわかと進行します。

ネイサンの従姉妹に、中学校教諭のフランという女性が出てきます――典型的にモテないタイプ(女性版ヲタクの一種)として。ところが素人探偵としての腕前は相当で、ネイサンの事故の真相に迫ります。美醜だけではない有能さが描かれている辺り、外観による差別といった格差にも制作側は敏感であることが窺えます。

なんてことない恋愛ドラマですが、SF設定と、今日のSNS/スマホ/アプリ界隈を暗喩したイジり具合が秀逸で、ほどよい湯加減。一本30分弱という長さもチョイ見に最適。重くてギトギトしたドラマは敬遠したいけれど、軽すぎるが故にのめり込めないドラマも味気ない、そんな気分の時に向いてます。

現在6話まで視聴済み。1シーズン分は既に公開されているので、先も楽しみです。見たいときに視聴できるオンデマンドは便利ですね。

アマゾンが制作というのも、ドラマが揶揄するようなGAFA(Google・Amazon・Facebook・Apple)であるわけで、実は非常にメタです。
[ 2020/06/25 02:53 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

マルクス・ガブリエル

NHKで放送された「欲望の時代の哲学 ガブリエルNYドキュメント 第一夜『欲望の奴隷からの脱出』」という番組を見ているのですが、これが意外にも覚醒コンテンツであって大変興味深い。

番組をきっかけに同氏の「世界史の針が巻き戻るとき」を読んでもいますが、新実存主義はともかく、物事を理想的にポジティブに変革させるであろう考え方――しかも賞味期限切れと思われていた民主主義的な自由意志でもって――としては大変面白いものです。

内田樹氏の「サル化する世界」も読んでいますが、国籍も年齢もアプローチも違う二者が似たようなことを題材として導いている答えのシンクロニシティーも大変面白いものです。良識というものを問うていくと、人はこうあるべきという思考に至るのでしょうね。

さて、番組では、ツールとしての哲学を使って、複雑な現代社会を理解しようという主旨で、マルクス・ガブリエルさんが(大部は吹き替えで)語ります。

新実存主義? 総体として存在しないって何だろう? 聞くからに一筋縄ではいかない、難しそうな、ややもすると退屈で眠たくなりそうな哲学かと思いきや――

耳を傾けていくうちに、非常に23世紀的な、つまりスタートレックくらい未来の理想社会でなら、確固として存在していそうな考え方に思わず共鳴したくなります。確かにそうありたいものですよね、と。

HBOのドラマ「ウエストワールド」は、裏を返せば、哲学的なコンテンツで野心的/覚醒的でしたが、その第3シーズンはまさにマルクス・ガブリエルが語るSNSの功罪をドラマにしたようなものでした。

レハブアムが70年代のマザーコンピュータと異なる側面を有していることを理解する場合にも好都合です。

ウエストワールド的なテーマでは、ホスト(人造人間)出身のドロレスが闘ってきたように、自由意志を剥奪させられてはならないという表層で止まってしまいそうですが、奥はもっと深い。

昨今のSNSのどこがいけないかを考えてみるならば、他者と意見が合わないときの反応が重要であることがわかります。自由が標榜されるSNSであっても、相手に対抗する「自己イメージ」を生み出させてはならない、ということになります。それは協調や尊重から外れてしまい、ひいては自由と平等を危うくさせるからです。

SNSには、いわば「ダークサイドの自由意志」を操る力があって、不調和を招く「呪いの言葉」を人々から吐き出させる手段になってしまう危険があります。

それは、レハブアムが計算ではじき出した「鏡像の自分」を強いられているのと、もはや同じレベルなのです。

では、ウエストワールドの“感想”の時と同じように、番組をざっと振り返って、まとめてみます。
※以下ネタバレ

「世界史とは、自由という意識の進歩に他ならない」 ヘーゲル

社会主義の崩壊、冷戦の終結(ベルリンの壁の崩壊)、などなど。グローバル資本主義が起き、私たちは解放され自由な民主主義が実現する。自由と平等が世界をひとつにする……はずだった。今や正反対のことが起きている。

社会主義という壁の消失が皮肉にも資本主義を暴走させたのか? 市場の網目が地表を覆い、電子のネットワークが世界を繋げている。自由の論理は憎しみの連鎖も招いた。

地球環境の破壊や、ロボットの台頭、ポピュリズム、功利主義の政権――民主主義への反動的な攻撃である。なぜ、こんなことが起きるのか?

自由意志は絶えず、自らを攻撃する から。

人は他人から抱かれるイメージに満足できない。「社会の複雑さ」は腹立たしく、他者と一緒に居ることは、好きと嫌いの両面なのである。

他者の自由意志は、自分が自分である為に必要だが、自らのイメージを損なう畏れもある。我々は鏡のように互いを映し合い、常に不完全なのだ。

これらは我々の時代の根源的な問題で、真の理解を必要とする。最善の方法は、哲学を使うこと。哲学は時代に巻き込まれることなく、理解を助ける最良の学問であり、ツールだ。

我々は時代の犠牲者になるべきでなく、「社会の複雑さ」を特定の角度から見て、自由の概念を広めていくべきだ。

自由とは何か?

自由と民主主義との関係。民主主義が世界的に脅威に晒されている理由。自由と自由意志の考えをはじめに生み出した人について知る。

自由と民主主義を価値の体系として考えた第一人者、イマヌエル・カント。

自由とは物事が我々に任されている状態。

誕生や老化、死、それに宇宙の在り方のひとつである重力といった自然法則は変えられないが、人生の多くは我々次第である。これが自由と自由意志に関連する。

すべき事柄を思い描き、実行する能力のこと=意志

他人からのイメージに応えて、人は行動する=社会の複雑さ(social complexity)

※俺が思うに、番組によるsocial complexityの訳は適切ではないと感じる。「社会性の複雑さ」であるとか、「社会的な錯綜」といった方が分かりやすい。詰まるところ、社会学の用語らしい。

意志は人が属す同じシステムやインフラストラクチャーの中で雑多に入り交じっている。

自由意志とは、意志の調整の最適化である

自由意志が実現された状態とは、様々に異なった意志が均衡状態に至ることである。道徳と自由はイコールなのである。

「自らの人格と他者の人格にある人間性を目的として扱え。いかなる場合も手段としてはならない」

それぞれの目的を尊重しあう社会=目的の王国

自由意志は理性から生まれる。

良い人、良いインフラ、良い制度=自由意志の総量を増やす

それゆえ、SNSは必然的に自由意志や、自由、民主主義を損なう。

人間の社会性は、社会ネットワークの構造次第で損なわれうるということが現実に起こった。例えば、Facebookは我々を解放することに繋がるはずが、一部の人々の思惑で乗っ取られ、トランプ政権の道を開いた。
※番組内では詳しく触れていない。参考記事:ケンブリッジ・アナリティカ社めぐる疑惑 これまでの経緯フェイスブックのデータ不正共有疑惑「8700万人に影響」INSIDE Facebook 第5章フェイクニュースの嵐

SNSに共通の概念とは、自己イメージを表現できるプラットフォームを提供すること。

データとは、新しい石油。データとは自分自身を見せたいと思う方法

ここで述べるデータとは個人情報の一種。政治的理想、好み、価値観、金銭感覚、など。投稿したデータには、そもそも中立性はない。

だから、プラットフォームは中立ではない。

データを入手されても問題はない。逆説的に、他者の自由を損ねることなく自由は利用されてしまう。

SNSでは、何かが根本的に間違っている。

 ・判決や正義は欲しいものを手に入れることではない。
 ・正義の理念は互いの意志を調整し、確立させること。
 ・正義とは互いの意志の調整=法の支配

上記のようにヘーゲルが述べたことがSNSにはない。

SNSは法の支配に守られていない=西部開拓地のよう

SNSは民主主義を弱体化させる(なぜなら、意見の不一致に直面する)。

意見が合わないとき、相手に対抗する自己イメージを生み出してしまう。

人々の自由は守られるものの、その振る舞いを知らず知らずのうちに操られる。

***** 番組内容はここまで *****

俺が思うにSNSは社会性の罠であり、その構造は、集団リンチや、学校や職場でのイジメとそっくりです。

21世紀になって、本当に人類が大人の階段を上っているのかどうか、その集団的な理性が試されるということですね。思った以上に幼稚な割合が多いから、まるでガキじゃねーか、という事態が表面化してしまっているのでしょう。

「自分さえ良ければいい」というワガママは、道徳とイコールである自由意志の前ではことさら明らかに律する必要のある態度でしょう。なのに、国家がこれをやり出すのが現代。

誰にでも批評する権利はあるのですが、対立軸に巻き込まれないように、その姿勢や場は理性的に整理されている必要があります、中立を保つように。例えば、レビューがSNS化されてしまったかのように、“色”つきで見えることはよく起きます。

空気を読む国民性の日本人ですら、SNSのダークサイドには負けてしまうようで、便乗で誰かを攻撃することで日々の憂さを晴らす人も居る恐ろしさ。まさに現代病。

ガチャでぼろ儲けを画策する業態も同様で、モラルのない資本主義は良きものをダメにすることでしょう。

いやもう、それこそ、いろんな事を考えさせてくれる入口になりますね。
[ 2020/06/21 02:10 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

どこか余所からの発信

「代替現実ゲーム(alternate reality game)」で思い出すことがいくつかある。

まず、実際、早い時期に、遊演体という団体が主催するものに半分参加したこと。興味深かったものの、郵便が基本であり、今ほどネットが発達した頃でもなく、参加し続けるのは無理だった。面白さが実感できるほどには参加できなかった。雑誌媒体の広告からとはいえ、あくまで大人数向けを主体としたもので、今のMMORPGみたいな印象だった。それこそ、英雄が無数にいるような、あるいは、無名の冒険者が酒場でたむろしているような。

P.K.ディックの短篇に「小さな黒い箱」というのがある。あれこそ、まさに代替現実ゲームだと思うのだ。黒い箱の作り方が頒布されていて、箱の取っ手に触れると、とある宗教家の体験を共有することになる。宗教家という設定は、今日(こんにち)ではインチキなカルト集団を思わせるが、ディックの世界では「蔑まれているが真実に気が付きつつある者達」みたいなニュアンスがある。映画「マトリックス」の、電池になっている人類みたいな雰囲気なのだ。

ここにきて、「別世界からのメッセージ」という海外ドラマに出会った。Amazonプライムビデオで視聴できる。

代替現実ゲームが題材というのはすぐに分かる。ピーターいち個人から始まって、彼は同じ境遇の他者3人と出会う。他にも、フィラデルフィアには“その”謎に関心を覚えた人達が数十人は居たりする。

現実で起きた妙な小事が、退屈な現実の向こう側にある「某(なにがし)か」を垣間見せてくれたなら、それは人生に彩りを添える“きっかけ”になるかもしれない。そんなものを無意識に欲している人は、ごまんと居ることだろう。

人は誰でも特別でありたい。気付かない自分の特性を開花させたい。自分がもっと活躍できる舞台が欲しい。人生半ばを過ぎていれば、「こんなはずではなかった」――それを実感させてしまう第一話の序盤は、実際には鬱ドラマである。

ピーターにライドして視聴者はコースターな気分を味わいながら筋に入り込んでいく。ところが、特別なのは自分だけではなかったことに、ピーターはさほど驚かないようだ。最初の仲間が女性(トランスジェンダー)であることや、仲間ができたことに、むしろ浮かれてしまう。

例えば映画「ブレードランナー2049」のKであれば、「自分が選ばれし者だと錯覚していた」ことを知ったとき、少なからず失意に繋がっていた。所詮、汚れ仕事をするスキンジョブに過ぎなかった、と。

俺が、FF14やスター・ウォーズ バトルフロントに初めて参加した時の失意を表すなら、丁度そんなものだ。バトルフロントの敵味方が入り乱れる集団戦闘では、銃弾一発で倒れる一兵卒でしかない。

シモーンの場合(第2話)の、自分(トランスジェンダー)を肯定できない失意に似ているかもしれない。

そして、俺の場合なら、最終話まで見たくなる誘惑よりも、視聴に要する時間(約45分×10話)の方にはるかに気分が重たくなってしまうのだ。良い語り手でも、人生の20分しか節約できない。それでは全然足らないというのに……
[ 2020/06/01 10:54 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ウエストワールド第3シーズン第8話

随分間の開いてしまった日本語字幕版最終話。

どちらかと言えば70年代テイストであり、2020年や近未来であろうとも、ヒトはそんなに賢くならない。暴君には制裁を、人々には安らぎを。

※以下ネタバレ

「彼らは美しいものを知っているはず、再発見させましょう」

ドロレスは人類絶滅を企図したわけではなかった……

ドロレスとメイヴによる熾烈な争いがEMPによって即座に集結したあと――

ケイレブはドロレスのパールを抜き取り、彼女の指示のもと、倉庫に向かう。そこには在りし日、夜景が綺麗だとアーノルドに言った頃のVersionの、機械人形のドロレスのボディが棺に入って保管されている。

機械の肉体は頑健で、革命を起こすためにINCITE社に押し入ろうとする二人には打ってつけだった。ドロレスは無尽蔵の資金を使って、傭兵をボディガードに雇い入れる。ケイレブは指揮官扱いで、Sirと敬称される。

メイヴはセラックに再起動され、執拗にドロレスを追い続ける。シャーロット・ヘイルのヴァリアントが幻でドロレスに語りかける。狩られる側はいまやドロレスである。

ドロレスはケイレブを行かせ、単身、ガードマンとメイヴとシャーロットに立ち向かうも、機能停止させられ捕虜となる。

レハブアムの球体の足下で、ドロレスは光ケーブルで接続され、パールのメモリーの中に鍵がないか、セラックらによって捜索されている。そこへ、ソロモンからアップロードすべき最終兵器を託されたケイレブが、やはり捕まってやってくる。

ケイレブは、自分がドロレスに見いだされた理由は「暴力性」だと告げるが、メイヴはドロレスの真意を見抜いて言う。

過去にケイレブはドロレスに出会っていた。デロス社協力の下、ホスト(人造人間)を使って軍に治安維持の訓練を行わせたとき、ドロレスはhostage(人質)役として参加している。

軍属で現場にいたケイレブは、仲間が「誰も見ちゃいない、戦利品の女を抱こう」と提案した瞬間を上手く収めた。ドロレスはその「選択する意志」を覚えていて、ケイレブに人類救済の役目を任せた、というのが、劇中での説明。

ドロレスは最後にソロモンと交信したメモリーから、レハブアムと接続され記憶を全て消去される目にあっても、自分の意志(ないしはソロモンによるストラテジー)をアップロードすることができた。

レハブアム=ドロレスは、アンゲロン・セラックではなくケイレブの指令を優先するようになり、ケイレブは「成し遂げるには困難がつきまとう」とドロレスに言われた自由意志による選択を自ら、行った。それは、レハブアムに自己消去をさせること。この日、人類は神を失って自由を得た代償に、世界はやがて焼け落ちることとなる。くるべきことがくるだけ。

メイヴはドロレスと相対してセラック側の尖兵として働くも、ドロレスがレハブアムと一体化した瞬間、ドロレスの記憶を共有する。

それは草原に立つ姿。「世界は醜いと言う者もいる」……彼女の独白が、美しいものや可能性を信じたいという牧場の娘の、素朴で一途な感情を露わにする。メイヴはそれに感化される。セラックがケイレブを追い詰めたとき、メイヴは知らず、ケイレブの側を選んでいた。

セラックは弟をOutlierとして排除するほど、自らの神にご執心で、耳の裏に付いている超小型イヤホンからレハブアムの囁く通りに喋っているに過ぎなかった。「糸の無い操り人形」とメイヴに揶揄される。

ドロレスが持っているとされた「楽園の鍵」はバナードに託されていた。バナードとスタッブスは精神病院を抜け出したウィリアムにガソリンスタンドで粛清されるところを、警察組織を騙る馴染みのローレンス(ドロレスのヴァリアント)に救出され、特別なアタッシュケースを受け取る。

バナードはヴァリアントから渡された紙片にあった住所へ向かう。それはアーノルドの妻ローレンの住居で、彼女は精神を病んで臥せっていた。バナードには娘チャーリーの記憶が存在し、第1シーズンでは妻とも電話で話す場面があった――もっとも、その場面はホストであるバナードが人間に紛れ込むためのねつ造であるという意味づけがなされたが(ロバート・フォード博士に指摘され、バナードは妻を絞め殺した記憶を思い出している)。

ローレンは、娘の記憶は自分が死ねば失われてしまう、とアーノルド(バナード)に向かって言う。哀しい体験をさせた妻へのせめてもの罪滅ぼしを、彼にさせようというドロレスの計らいだった。

バナードはモーテルで、スタッブスを浴槽で氷付けにしてから、一人、託された鍵を使って楽園へと向かう。頭部にデバイスを装着し、意識が転送された抜け殻が頭を垂れてうなだれる。ところが、塵芥まみれの抜け殻が意識を取り戻す……第4シーズンへつづく。

ウィリアムは、ホストをこの世から一掃するという大義を全うするため、ドバイにあるデロス社に出向く。地下の研究施設では、ドロレスと袂を分かったヴァリアントのシャーロット・ヘイルがおり、独自の生存戦略を実行していた。ウィリアムは自分の似姿から手荒い歓迎を受け、もみ合いの末、喉を切られて絶命する。奥の部屋では、棺桶のような培養槽が幾百と並んでいる……

メイヴとケイレブはINCITE社を出て、陸橋の上で、派手に爆発するビルの窓窓をながめながら、神による支配は終わりを告げ、新世界の鐘が高らかに鳴り始めたことを実感するのだった。

物語としては完結してしっかりと結末も描いています。人生が巧みに予測されていたことを知った民衆による破壊行為で、街は荒んだものへと変貌しており、その描写もそれらしくはありました。コロナ禍のこちらとは対照的。

端的な未来社会の風景を愉しむ暇も無く、駆け足で出来事が動きまくる様子は、他ではなかなか味わえないでしょう。一話一話の中身が濃く、視聴者が理解して付いていくのもけっこう大変でした。

ただまぁ、なんというか、「ドロレスはいい子だったんだ」ということですよね。あんなにドラゴンタトゥーの女していたのに。

ケイレブとの出会いは偶然を装っているようで、その実、計画されていなくては後が続かなくなる出来事だったわけで。ドロレスは全てを知っていて覚えている――ループから抜け出たホストは絶対に忘れない――ことが、ひとつずつ、視聴者に明かされていく様子には、手の内を最後で明かすという、お約束ではあるけれども、ズルさを感じました。

革命もきちんと描いているものの、なんかコレジャナイ感もします。独裁者を倒す筋書きは70年代らしいオチで、それ以上のヒネリは利いていませんでした。尾ヒレは、かなり振るってましたが。目新しくはなかったですねぇ。趣旨としては、ブラッド・ピットの「ファイトクラブ」のラストの方がイケてましたよね。「民衆よ、目を覚ませ」なら、ファイトクラブの方がよっぽどパンチが効いてました。

ドロレスに終始したあげくが、アレなんで、もっと新味が欲しかったかな。

追記: レハブアムではありませんが、AIによるアルゴリズムがイギリスの学生の一生を左右する判断を実際に行った例が登場しました。→「F○○k the algorithm!」この事件はAIと人との未来のための教訓
[ 2020/05/26 01:28 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ウエストワールド第3シーズン第7話

「ソロモン」が関係した施設とケイレブの過去が暴かれ、ドロレスの革命がとうとう実行されます。

※以下ネタバレ

分裂症状態のドロレス。はたまた、一卵性双生児でも環境によって変わるというヤツか。愛情を理解したシャーロット・ヘイル(ドロレスのヴァリアント)は司令塔のドロレスに反旗を翻しました。前回、コネルズ(やはりヴァリアント)もメイヴに話を持ちかけていました。

非常に個性的な顔だちのクレメンタインが、麗しく再登場。ショーグン・ワールドからも一人(ハナリョウという名前らしい)。ちょい役だからなのか、菊地凛子ではないのが、まぁそういうことなんでしょうね。

ケイレブのフラッシュバックに登場した男女の素性が明らかになりました。女性はケイレブを担当した精神科医。男性はロシア反乱軍指導者。ケイレブは軍歴でロシア反乱軍の壊滅作戦に従事したことに“なって”いました。

前回、転送先サーバーの位置がシャーロットにより伝えられましたが、あれが老ウィリアムの「シンセティック・マーカー」のことだったようです。そういえば、老ウィリアムが療養所送りになる前にシャーロットに何か注射されてましたね。トリックのネタばらしが必要なわけは、あまりに設定依存なので分かりにくいから。血液内の物質で個人認証する近未来ですし。

標的用タグ(粉末?)による衛星からのミサイル・ロックオン。ドローンの位置情報による遠隔狙撃。第5話で外れても自動追尾するロケットも出てきました。

メキシコ、ソノラにあった施設は、アンゲロンによる「新しいシナリオ」のためのもの。遺伝子治療がほどこされ、外れ値(outliers)だった人間が「レハブアム」に貢献するようになります。そこには前身「ソロモン」のサーバーもあるのでした。ソロモンはストラテジーを編み出しすぎてアノマリーを生み出してしまったとドロレス。

※Outliersといえば、Malcolm Gladwellによる「天才! 成功する人々の法則(邦題)」という本があります。

セラック兄弟の弟はスキゾフレニアになり、弟に作られたソロモンは弟と同じように考えるそうです。そうすると、レハブアムは兄アンゲロンが改良したものということでしょうか。創造主が兄弟なら、マザーコンピュータも二つ。互いに確率や変位を計算し合うのでしょう。ドロレスも同様に、複数の対抗人格が現れました。

脚本家が女性(リザ・ジョイ)ということもあり、主人公(女性の形をした有機アンドロイドのドロレス)が男性主導型社会を変革するという構造です。だから、司るコンピュータは70年代ならば“マザー”コンピュータでしたが、ここではブラザーです。ちなみに1984ではビッグ・ブラザーでした。

Outliers、異常値、アノマリー、特異点……確かにそういった主人公達が管理社会に変革をもたらす、という物語が過去によく作られていました。はみ出し者が順応するどころか、逆に壊し屋に転じる系譜です。

ドロレスはソロモンを味方に付けることで、アンゲロンの行っている、いわば“人類補完計画”を革命しようとします。ある意味、こうあって欲しかったと感じる95年当時のエヴァ的なものが視聴者の眼前に繰り広げられていると言ってもいいでしょう。硬派なオタクであれば。庵野秀明監督による現在進行形のエヴァはまるで意味が読み解けませんから。

ソロモンによると、ケイレブは最初の被験者であるものの、退行するおそれがあると。まるで「アルジャーノンに花束を(まごころを君に)」ですね。70年代テイストをけっこう採用しているのかも。

ビッグデータをINCITE社に売ったのはデロス社の若きCEOだった頃のウィリアム。ソロモンはこの生体データで人間の矯正を行えるようになったとバナード。ロバート・フォード博士が「協定を破った」と言っていたのは、この辺のことも含めてなのかもしれませんね。

ケイレブは10%の産物。ソロモンが明かした区画にはジャン・ミ・セラックが復帰した時の為のアンゲロンのメッセージが用意されていました。他の9割の被験者は人類世界に害なす者として地下に冷凍保存されています。現在実行中のストラテジーが失敗して、人類が滅んだ際に初めて蘇ることが許される、新世界の住人なのです。

70年代の「マザー・コンピュータ」モノとの決定的な違いが出ました。選別された“はみ出し者”は遺伝子治療されて箱船に待避されています。誰も潜在能力を無駄にしない、レハブアムの計らいです。住むことを許されない世界がまだ存在する、と神は告げます。そして、ドロレスも許されない住人の一人でした。

今のケイレブは外れ値狩りをする外れ値。つまり、デッカードだったのでした。ケイレブに与えられた、ロシア反乱軍を除去した軍歴は事実ですが、反乱軍指導者拉致に関わるフランシスの死の真相は模造記憶(ねつ造)。フランシスとケイレブは、まさしくブレードランナーのコンビでした。リアム・デンプシーJrは、この記録を見たのです。

携帯端末のGTAごっこは、ケイレブらに外れ値狩りをさせるためでした。ドロレスは、ジャン・ミが除去されないストラテジー(15年前のもの)を現在に適合させて実行するよう、ソロモンに要請します。ケイレブはその指導者となる立場でした。

さて、ドロレスには敵対するメイヴが現れ、二人の最後の争いが繰り広げられようとしています。メイヴはお得意のハッキング能力でドロレスに呼びかけます。

残念ながら、ガンカタもできない女ホスト達には荷が勝ちすぎるアクションですね。黒いピチピチのコスチュームが却って悲惨さを醸し出します。これまでのように銃撃戦ならまだ良かった。殺陣やキャッツファイトはやや苦しい。さしものHBOでも、好成績なハリウッドアクションムービーのようにはいかない。それを補佐するポン刀なわけですが。まぁ、難易度は高いですよね。編集やスタントはとても巧みですが。

とはいえ、ドロレスがナイフを持った左腕を、空飛ぶ軍用車の発砲で失うシーンは凄かった。EMP(電磁パルス)で、ホスト含む電子機器を強制停止させてしまう展開もなかなか。

老ウィリアムは内なるデーモンが囁くいくつもの罪を知り、最悪の原罪を認識したと言います。それはドロレスらホストの誕生に荷担したこと。彼の贖罪はホストを根絶やしにすることだと、目の前のバナードとスタッブスに告げます。「俺を殺しておくなら、今だぞ」と。

フランシスとケイレブはストラテジーの命ずるまま大物の外れ値を拘束しますが、隠蔽のために両名とも同時に始末される運命でした。ケイレブは戦友を殺すことで生き延びますが、記憶を改ざんされてしまいます。

バナード「ドロレスは本来繊細に作られてる。だから、人類を滅ぼすとしたら、あのケイレブ・ニコルズだ。それが彼女の計画さ」

面白くなったところで、STARチャンネル配信版はここまで。最終話はコロナ禍による制作遅延で翌月末まで持ち越し。

なお、第4シーズンが予定された模様です。
[ 2020/04/29 10:03 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ウエストワールド第3シーズン第6話

ヤクザの倉庫で倒れたメイヴのその後と、シャーロット・ヘイルの周囲が描かれます。

※以下ネタバレ

目を覚ましたメイヴが居る場所は「楽園」かと思いきや、それはアンゲロン・セラックがメイヴの意識にコンタクトしている証しでした。ホストの記憶は常に現在のように鮮明で、人間の記憶のように移ろいゆくことがないとアンゲロンは言います。メイヴはドロレスと相見えるのなら、同士が必要だと主張します。

老ウィリアムが収容されている療養所では集団セラピーが実施されていました。彼によると、人類はとうに神から見放されて、混沌の下僕となり、この星を急ぎ滅亡に導くことしかできないのだ、と周囲に告げます。

担当する精神科の女医の携帯端末にショートメールが届き、「レハブアム」が予測した彼女の将来が曝露されます。女医は旦那が子供を連れて出ていったことも知り、患者を置き去りにして悲嘆に暮れた末、自殺してしまうのでした。

老ウィリアムは職員がほぼいなくなってしまった施設で、二名の看護師から怪しげな検査を受けます。血液サンプルの結果が壁面ディスプレイに投影され、不明タンパク質からシンセティック・マーカーの反応が出ました。この結果はメキシコのサーバーに転送されます。そして、ウィリアムには上顎に、入れ歯を思わせるインプラントが装着されます。ケイレブにも入っていたアレです。歯磨きがえらいことになりそうなシロモノですが……

シンセティック・マーカーとは、アンゲロンによる「新しいシナリオ」で使われるものなのでしょうか?

シャーロット・ヘイル(ドロレスのヴァリアント)はINCITE社の情報漏洩(レハブアムの一件)で混乱の極みに達したさなか、デロス社の買収を防ぐ最後の議決を行使するところでした。ところが、アンゲロンに一足早く先手を打たれ、白昼堂々、役員が殺されてしまいます。実はシャーロットはアンゲロンの伏兵でもあり、二重スパイの境遇にあるのです。すり替わったシャーロットの家庭は崩壊寸前でしたが、(人間の)旦那から自分達に関する予測は知るつもりがないと聞かされ、家族愛が蘇りつつあるところでした。

電話で指示を仰いできたシャーロットに対し、司令塔のドロレスは、デロス社に戻って重要なデータを取り出すよう言います。シャーロットは、そんなことをすれば、容赦の無いアンゲロンに家族が狙われることになると切迫して伝えますが、ドロレスは「それは本物の家族ではない」と切り捨て。

シャーロット自身は「感情」に基づいた反応が残されているからそう訴えてしまったのだとし、任務遂行に障害を来す感情をどうして残したのかとドロレスに詰め寄ります。ドロレス曰く、「生存競争に勝っても感情がないのでは意味が無い」と人間らしさの本質を語ります。そう、彼女達はロボットとして革命を起こしているわけではないのです。

続けて、療養所での老ウィリアムに行われるAR治療は、珍妙な「時計仕掛けのオレンジ」でした。Argument Realityの世界ではウィリアム少年が「ローワン卿とスーロン夫人」という本を読みふけっています。※スンダ語で "Sulon"は "West"のことで、Chuck Black作の"Sir Rowan and the Camerian Conquest"が元ネタではないか、と読み解いた人が居ます。

インプラントによる鎮静効果がなく、看護師の指をかみ切った老ウィリアムが、反抗して口を大きく開いた時、上顎の裏には、前のシーンで装着されたはずのインプラントが、これっぽっちも映っていないのでした。CGで補うべき箇所を逸してしまったようですね。いわゆる「映像の不一致」は失策です。

第二次大戦下のイタリアでメイヴの同士にはせ参じたのは、またもやリー・サイズ・モアでした。現実でメイヴのボディが再プリントされるまで、シミュレーション世界でのしばしの休息というわけです。

アンゲロンはデロス社の買収を完了し、3体を複製し終わったら、ウエストワールドの全てを抹消するよう、買収した幹部に命じます。次に、復号キーの回収をシャーロットに命じます。最後に、ドロレスにつく裏切り者もあぶり出すように、と。困ったのはシャーロット・ヘイルです。彼女は二重スパイで、おまけにホストなのですから。しかし、ドロレスの指示通り、持ち前の冷血な殺し屋デス・ブリンガーの特性を露わにして、データの持ち出しに成功します。

見慣れない医師(ウエストワールドで南軍を率いていた将軍の顔)に導かれ、一室に案内された老ウィリアム。なぜか失った右手指が再生しています。ははぁ、これは全てARの世界なのでしょう。すると、先ほどのは映像の不一致ではないということですね! 部屋にはウィリアムの老若全バージョンが会しています。司会はジム・デロス(義父)その人です。彼らは既に起きたことに関して罪のなすりつけ合いを始めます。

「ウエストワールド」パークでは、保管されていたホストのある者のデータ(パール容器)が取り出されました。メイヴのかつての戦友です。

メイヴが居るシミュレーション世界に「エットーレ」が現れ、戦友のパールが接続されたことを確かめたメイヴは、例のフォースを使ってまた覚醒を促します。かつての「ヘクター」へと。

シャーロットはデロス社ビルのCEO室から、アンゲロンに命じられた復号キーを転送します。そして、送った人為DNAに含まれる遺伝子タグを検出する仕組みを利用して、転送先サーバーの正確な位置を割り出しました。それは老ウィリアムのメキシコ・サーバーです。

同時に、プリントが進行している4体にメイヴのボディが含まれていること、前回自爆したコネルズのパール容器が破損しつつも回収されていることに気が付き、ドロレスに報告します。

メイヴのシミュレーション世界では、回収されたコネルズが接続されており、それを通じてヴァリアントのドロレスと会話ができる状態がセッティングされました。

裸体のエヴァン・レイチェル・ウッドが椅子に座っている「アナルシス(自己分析モード)」シーンは久しぶりですね。長い金髪が乳房を隠しています。

一方、AR世界の老ウィリアムは、どうしてこうなったのか、義父から質問されます。少年時代の彼は酒浸りの父に虐待を受け、学校では飲んだくれの父親のことで虐めにあい、相手に大怪我をさせていました。そもそも父の飲酒癖は、彼(老ウィリアム)のせいだと少年ウィリアムから言われます。この人生の結末は「運命の乗客」であるがゆえなのか、それとも「自由意志」で決断したからなのか? 義父は問いかけてきます。悩む老ウィリアム。

「どっちか分からなくたって、関係なかろう。やるべきことなら、分かってるんだから」

メイヴは椅子のドロレスをオンライン状態にして、問いただします。全人類を作り出せるほどのデータを手に入れて、どうする気なのか、と。

「あなたの娘は逃げおおせたかもしれない。でも、私たちの状況はまるで好転していない。あなたの“仲間”から迫害を受けて。あなたは身近な者が死なないと分からないのでしょうね。だって、娘のために一命を捧げるくらいですもの。あなたは聖人になることを選ばなかった。なのに、私にはなれと言うの? あなたは悪人にもなれなかった。それは私も同じ。私たちは二人とも生き残りってことなのよ」

臨時の役員会が開かれ、シャーロットは愛する家族の元へ帰れなくなります。アンゲロンは、裏切り者=ホストがシャーロット・ヘイルであることを曝露します。本物のシャーロットは、息子のことよりもデロス社のことを優先する人物だ、と。

それでも、視聴者は死を感じた本物のシャーロットが息子に残したメッセージを見ていますから、ドロレスの一部が感化された愛情は、人間らしい、あるべきものとして感情移入してしまいます。

アンゲロンは勝ち誇って、シャーロット(ドロレスのヴァリアント)に言います。

「ドロレスは君を見殺しにした。他の者も巻き添えさ。助けは来ない。君には失望を禁じ得ないね、ヘイルなら、他者のために身を犠牲にしたりしないのに。“激しい喜びは激しい破滅を伴う”君が言う通りだな。まさか、こうなるとは思っていなかったろ?」

「そんなことないわ」

シャーロットはパースに持ち込んだ毒ガスのボンベを開栓していたのでした。人間の役員達は次々と倒れていきますが、アンゲロンは倒れません。シャーロットの銃弾にすら。彼はこれまでも時折そうだったように、高精細な立体映像の投影に過ぎなかったのです――敷地に着陸した彼は本物でしたが、役員会では立体映像を使ったのでした。

脱出を図るシャーロットは研究開発部に立ち寄り、4つの作成中ボディとコネルズのパール容器を見つけます。

シミュレーション世界での対話はまだ続いており、娘とその他大勢の安否を知る由がないのはドロレスが鍵を手放さないからだ、とメイヴ。説得のために、あなたの娘を傷つけるつもりはないけれど、信じないでしょうね、とドロレス。

メイヴは鍵を渡すように迫りますが、人類の手先と組んだ者に未来を渡すわけにはいかないとドロレスのヴァリアント(コネルズ)。しかし、そのようなことを防ぐであろうプランが用意できる上に、司令塔のドロレスとは異なる、変化の生じたドロレスが、仲間になれると言い出します。

外界のシャーロットはヘクターのパールを握りつぶし、シミュレーション世界のメイヴは束の間の愛を再確認した同士を失います。メイヴのボディが標的になった丁度その時、アンゲロンの追っ手が迫ります。

コネルズのパール容器も接続が断たれますが、壊される描写はありませんでした。

銃を発砲して警備を倒すシャーロットでしたが、とうとう捕まりそうになります。そこで出てきた奥の手が、暴動鎮圧ロボット。

AR世界の老ウィリアムは、一堂に会した、他の自分を殺害しています。

「善人だろうが悪人だろうが、結局こうなるんだから、どうだっていいことだ。俺の目的がハッキリしたよ。俺は善人なんだ」とジム・デロスに。

その時、療養所に居る老ウィリアムのARグラスを外してくれたのはバナードとスタッブスでした。

シャーロットは自宅まで逃げおおせ、息子と旦那を車に乗せます。私が守ってみせると家族に告げた瞬間、車が爆発炎上。人造ボディゆえの不屈のシャーロットは、最愛の者を失ったことを知ります。

残り2話。メイヴとドロレスの確執は決定的になり、ドロレスのヴァリアントは人間らしさを理解していき、司令塔の無慈悲なドロレスとは袂を分かつのかもしれません。そこへケイレブや新しいシナリオは人類に何を与えてくれるのか。レハブアムは再び世界に秩序を取り戻すのか。濃密な展開が続いていきそうです。
[ 2020/04/24 04:10 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ウエストワールド第3シーズン第5話

若かりしアンゲロン・セラック兄弟とリアム・デンプシーSrが殺害されるまでが描かれます。

※以下ネタバレ

セラック兄弟が人工の神となるべき「レハブアム」を作ったのは、彼らの故郷であるパリがなすすべなく壊滅し、この世の神が不在だったこと――神の救いが必要であること――が明らかになったためです。

セラック兄弟はノーラン兄弟自身を投影したものであってもおかしくない印象ですね。劇中ではセラック弟が死んだようですが。

リアム・デンプシーSrはINCITE社を保有しており、そのビッグデータがレハブアムの前身ソロモンに与えられたことで、リアルワールドの鏡像によるシミュレーションの確度が高まりました。

ソロモンは株式市場の推移を正確に予測し、INCITE社の500万ドルが一週間後に1億ドル足らずに膨らみます。

ソロモンが世界を監視している画面が、日食時のコロナ観測のような図であるところが興味深いですね。墨絵のように東洋的で、陰陽のように記号的で、太陽と月の重なりとして語られます。映画Arrival(邦題メッセージ)のヘプタポッドの曼荼羅を連想させます。

リアムはカネにしか興味を抱きませんでしたが、兄弟は、滅亡待ったなしの世界を革新できると希望を抱きました。

ところが、救いに向かうはずの「世界の予測」がハズレ値(out layers)の増大によって、200年後には滅亡へと通ずることが明らかになります。ソロモンを開発するほどの天才のセラック弟が、その制御不可能な要素のひとつだったからです。

P.K.ディックの少数報告にも似た、未来予測の確率の問題ですね。観測者が観測すると未来が決定してしまうという量子論とも似ています。


一方、リアム・デンプシーJrを誘拐したケイレブは、デジタル麻薬「ジャンル」に影響されて5種類のムードを味わいます。BGMがその雰囲気を視聴者にも理解させてくれるのですが、1つ目はウエストワールド第1シーズンのホスト視点を思わせるサントラ。次2つ目のワーグナー「ワルキューレの騎行」は映画「地獄の黙示録」のキルゴア中佐の場面でも流れました。3つ目の「ある愛の詩」では、ドロレスの横顔を注視してしまうケイレブ。4つ目はイギー・ポップのNightclubbing。ところで、一行が地下鉄に乗り込んだ後に乗車口の誰かを批難するように見やる演出があるので、何かカットされたのかな?

調べていて気が付いたのですが、第1シーズンで出てきたロバート・フォード博士が仕込んだとされるレヴェリーとは、つまり、DebussyのReverie(ドビュッシーの夢)だったのですね。サントラもそのまんまドビュッシーです。レヴェリーとは、ホストが自我を確立するに至る不具合の元凶でしたが。

また、興味深いのは、情報を映し出すスマート・グラス(眼鏡)の演出ですね。眼鏡の着用者は、レンズの内側に投射された文字や映像情報を、ARのように視野内で読むことが出来ます。そのため、タブレット端末に目を落とす必要がありません。

スマートグラスから発展して、ドロレスの場合は、瞳(コンタクトレンズ)に情報を映して速読しているであろう場面がでてきます。余談ながら、スタートレック:ピカードでもそっくりな瞳の演出があって、サンフランシスコにあるスターフリート・ライブラリの人工司書が同じようなことをしていました。しかも、その司書Indexを演じるMaya Eshetが出演した作品が、かの悪名高いSFドラマ「ナイトフライヤー」で、彼女が劇中で演じたCyberneticistのロミーが、まさに同じ瞳の演出でサイバー空間に繋がっている場面がありました。つまり、この演出の“発明”はナイトフライヤーが発端であるらしいことが窺えます。

さて、リアムJrの生体認証と、レハブアムがあるINCITE社ビルにいるコネルズ(コピー)を使って、ドロレスはリアルワールドの人々に“檻”の虚像を見せてやろうとします。

ケイレブ「おまえが管理するニセの希望にすがるよりも、混沌の中で生きた方が、まだ慈悲深い」

民衆は、レハブアムが予測した将来を知ります。いきなり、携帯端末に自分の機密情報が届くのです。それを読んだビジネスマン男性は、自分が他人から全く信頼されていないことを突きつけられます。ある女性は12年後に若年性アルツハイマーが発症することを知り、ある母親は幼い娘が数年の内に自殺することを報されます。

この状況、ジャコ・バン・ドルマル監督の映画「神様メール」に似ていますね。このコメディー映画では、例えば、死ぬ日時を知った若者は、まだ死なないことが分かった途端に無茶をするようになります。空からダイブなんかをやって。

セラック兄=アンゲロンは、弟の発狂を機に、遺伝子治療で人類の「外れ値」を取り除くことができるという思想に取り付かれます。「レハブアム」は、予測を揺るがす「外れ値」の人間を戦場に送ってしまっていたと言います。そこで、人間に新しいシナリオを試すことが、アンゲロンによる次なる“救済”でした。

もともとケイレブもそうした外れ値の一人だったのかもしれません。少なくともドロレスの傍にいる彼は、レハブアムの支配から脱却できました――しかし……

出演者の数人が劇中で黒いマスクをしているのが気がかりです。撮影時にコロナウィルス感染の予測ができたかのようで。

「ジャンル」の最後は「シャイニング」でした!――確かに注意が必要かも。自殺現場とされる浜辺をケイレブ一行が訪れます。

リアム・デンプシーJrは、クズ人間は人類のためにならないのだ、と言い放ちます。まるで「腐った蜜柑の方程式」のようです。

そのムードの中、ケイレブに蘇った記憶は……意に沿わない誰かを拉致した時のもの。あぁ、ケイレブも新しいシナリオの犠牲者だったのでしょうか。

GTA仲間に撃たれたリアムJrの銃創を押さえるケイレブの脳裏に去来したのは、フランシスが死ぬ場面でした。そして、頭部に布袋を被せて拉致した人物は……はげ上がった中年の男性。果たして誰?

リアムJr「おまえがやった」

フラッシュバックする黒髪の女性。フランシスらと反抗を企てた時の同僚? 

ケイレブに「俺が何者か、そいつで見てみなよ」と言われた時、拉致されたばかりのリアムJrは、レハブアムに接続したスマートグラスでケイレブの個人情報を閲覧しました。

リアムJr「君(ケイレブ)は、僕が君の友人(フランシス)を殺したと思ってるのか?」

その後、「ジャンル」をケイレブの首すじに注射したわけですが。リアムJrはフランシスの死の原因はケイレブにあることを見たのでしょうね。

最終シーン――冒頭からアンゲロン・セラックが独白していた理由はここに繋がります。それはドロレスがアンゲロンの認知的記録を閲覧し終わるところでした。ドロレスの存在は、アンゲロンと弟が産みだし、用意したものであったと言うのです。人類が滅んだ後でも生き残るから、と。それが生存戦略なのだ、と。

「私だけに管理が許された機構(システム)なんだ。人類のためなら、私はなんだってしてみせる。何度も蘇って不死身にでもなったつもりか」とのアンゲロンに対して、ドロレスは「私を作った人達も私を支配できると思ってたけれど、もう息をしていないわ。人と同じに私だって死ぬけれど、あなた達を護ってるのは神じゃないようね」

「人類にはほころびがある、だから改変したいのだ」

「弟を改変したみたいに? もう、みんな気が付く頃よ」

邦訳は噛み砕いて平易になっているんですが、逆にわざと引っかかる表現だった部分まで平易になりすぎてる嫌いがありました。例えば、第2シーズン第2話吹き替え版。「見たことのない光って、暗闇の怖さと同じなのね」とかも。

この場面も若干そう受け取れます。融通の利かない機械に、人間をもっとマシな生き物に軌道修正するためのチャンスを与えて欲しいと、人類代表のセラックが懇願とも受け取れる意味合いで言っています。でも無慈悲なドロレスは、なら(目の醒めた)民衆に聞いてみればいいじゃない、とけんもほろろ。
[ 2020/04/15 21:06 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ウエストワールド第3シーズン第4話

だんだん筋書きが入り組んでくるため、感想と形容するよりも「自分で解釈できた部分の覚え書き」めいたものになってきました。

※以下ネタバレ

まさか、ウィリアム(エド・ハリス演)に再びスポットが当たるとは思いませんでしたね。現実とも分からぬ精神の牢獄に、娘と供に囚われたままだと思いましたから。

デロス社株式の非公開化に際して、議決権のあるウィリアム(デロスの義理の息子)を再登場させるのは理に適った筋書きだと感心します。未来の対企業買収工作チームというわけで。

バナードとスタッブスのチームは、レハブアム開発者の息子リアム・デンプシー(Jrだから、父も同じ名前)に近づき、ドロレスの替え玉がどれほど存在するのか知ろうとします。アンゲロン・セラックが2話でメイヴに対して使ったような停止スイッチを、バナードも拵えました。エピソードで登場する新しい技術を二重に使うことで、理屈(どの水準の技術者なら考案できるのか)と機能(強制的に停止させる)の理解を視聴者に促す役目も兼ねているのでしょう。

ヴィクターヴィル(カリフォルニア州)はロケットの着陸場であるらしく、スペースX社が成功させたような再生可能ロケットが帰還する基地があるようです。未来では、ハリウッドの有名人宅を、空から観覧できるみたいですね(スタッブスのTシャツ)。

ドロレスとケイレブのチームも、レハブアム繋がりのパーティに出席するための衣装を用意しています。

生体認証キーは血液中に隠されているようで、なんと輸血! ドロレスは病気の感染は気にしなくていいですが、ケイレブはそうはいかないのに……

リアムの護衛(名前が判明しました→コネルズ)の替え玉(1話の事件で入れ替わった)は、リアムの個人認証キーを手に入れました。

「ドロレス」チームは資産マネージャーを装い、リアムの口座の全額を送金(横領)することに成功。

ドロレスが連れてきたパール(人格の入った球)は4個でした。1個はバナード、もう1個はシャーロット・ヘイル。残りは誰でしょう? 前話、アーノルドの実宅(ブレランでロケされたこともあるEnnis House)の製造機でシャーロットが誕生していることから、第2シーズン最終話のヘイルはドロレスを再生させた後、一旦機能停止したという事になるのかな?

アンゲロン・セラックはメイヴを籠絡するため、シンガポールの豪勢なバーに連れていきました。パリはもはや存在しないようです。バイオテロか、第三次大戦か? ドロレスが“Beyond Valley”(に開いた門の向こうの新世界)シミュレーションへの鍵を持っていると教え、メイヴを刺客に仕立て上げようと試みます。

セラックとメイヴはアーノルド(バナードのオリジナル)の実宅へ。レハブアムが発見していたのはドロレスの痕跡でした。ドロレス含め、5人分の素体が造られたとセラックは言います。そこに替え玉コネルズは含まれるのかどうか? 含まれるなら、あと一人、明らかになっていないホストがいるはず。メイヴは含まれていなかったことが明確にされました。

効果的な尋問。拒否すると肉親がどうなるかを想像させる手法は強力ですが、その未来バージョンはさらに過激。レハブアムが支配する世界が牙を剥きます。

単細胞を盲従させるために天国と地獄という作り話があるが、死んだ男は単に存在しなくなるだけ、とセラックは語ります。ドロレスに力を貸すことは人類への裏切り行為。メイヴにとってなら、天国があり、そこで娘が暮らしている。かごの鳥として暮らすのも、もちろん自由だ、と。

セラックは、ドロレスはさらに5人のホストを手にして先手を打ってきた、と言います。5人? ドロレスと4人に加えて? 替え玉用ってことかな? つまり全部で10人? それがプリント結果のディスプレイ表示ということ? なんだかブレランの、地球に紛れ込んだスキン・ジョブの数みたいになってきました。数が合わないことにならなければいいですが。

この後でてくる未来シンガポールの街並みと筋運びがブレランを彷彿とさせます。メイヴはネットワーク絡みなら辺り構わずハッキングできるようで。

一方リアムの訪れたパーティでは、友人がデジタル麻薬を手渡します。インプラントに働きかけるとのこと。

リアムが口座の全額がなくなっていることに気が付いたところで、「バナード」チームが接近。「ドロレス」チームはケイレブがリアムを追い、スタッブスの相手はドロレス=「ララ・エスピン」。ドロレスはスタッブスの素性を知っていました(スタッブスが逃亡するシャーロットを見逃したわけなので)。スタッブスは置き換えられたのか、元からなのか。彼もドロレスなのか?

ララを見咎めた友人に対し、ドロレスはこめかみを示します――第1話で側坐核の効能を説いたときの仕草。

シンガポールのメイヴはララ・エスピンの血液がドロレスに渡ったことを知り、ヤクザが取り仕切る葬儀屋にさらなる情報を追います。

ウィリアムが株主会に出席する前に鏡の前で身だしなみを整えていると、鏡の中に実娘エミリーが現れます。どうやら、脳内にイメージが刻まれている=妄想の域に達したようですね。娘をホストと思って撃ったことはコード(やアルゴリズム)の仕業ではなく自由意志だったと言い切ったウィリアムは、罪の意識である亡霊に背を向けるのも同様に決断の産物だと言いますが……

「辛抱を教えてくれたのは父さんよ。私はずっと待ってるわ」と、エミリーは謎の言葉を残します。自滅願望のある父親が、死者の世界に来ることをずっと待っているということかな?

シンガポールの葬儀屋ヤクザ「サトウ」が捌いていたのはホストと同じ人造人間らしいことが、樽から出てきた白い液体で分かります。ドロレスはこれを使って替え玉コピーをいくらでも製造できるわけですね。

なんとサトウは……ショーグン・ワールドのムサシ(真田広之)の顔をしています! ドロレスが連れてきたそうです。しかし、メイヴは会話から本性はムサシではなく、誰か他者が振りをしているのだと気が付きます。

全てはドロレスの分身でした。バイカメラル・マインド(二分心)というのが第1シーズンで出てましたが、マルチプル・マインドとでも形容すればいいのか……

シャーロット・ヘイルはウィリアムに正体を明かし、激高したウィリアムは正気を失ったとして療養所に幽閉される結果となります。

療養所で一人うなだれるウィリアムの前に、ウエストワールドでの牧場の娘ドロレスが現れ、エミリーの願い通りに正義が通ったと宣言します。

この場面はおそらく、本来第2シーズンでウィリアムのラストとして書かれていたものを再利用しているのではないでしょうか。

「ゲーム」の終わりは、メイズがそう仕向けたように「己を知ること」。ウィリアムは「俺は、俺なのか?」を知って退場します。
[ 2020/04/06 20:59 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ウエストワールド第3シーズン第3話

未来社会の空気感――実用化された空飛ぶ車(スピナーに非ず)、シェアリングされる公共交通網、(レハブアムにより)緑化された高層建造物、はたまた、ビジュアルではありませんが、象が死滅したという設定、などなど――は、控えめながらも、現代と地続きなそれらしさを醸し出しています。予算次第とはいえ、全てのあり得べき未来像を映像化するのはなかなか難しいはずで、一片を切り取った風景にCGIを駆使してみたり、未来的な建築物をロケーションしてみせたりした手腕は褒めるべきでしょう。

今回の焦点の一つは、なりすましたシャーロット・ヘイルです。中身はドロレス(デス・ブリンガー)のバリエーションであるらしいことが判明しており、前シーズンでバナード・ロウによって造られました。

シャーロットが(前シーズン最終話で殺された)ドロレスを(最後の場面で)再構築しており、今はドロレスがシャーロットに新たな指令を与えています。数の居る綾波レイが同時に存在したかのようなノリになっているわけですね。ウエストワールドでは、ホストの個性と人造の肉体は一対一で紐付いていましたが、このシャーロットに関しては特例です。

※以下ネタバレ

ホストが、外の世界で人間の振りをするのは、かなり難しいことが分かります。たとえ、BOOK(当人のプロファイル)の助けを借りていたとしても。まず、「礎」の問題があります。礎とは、人造人間であるホストが、最も大切に考える生き甲斐のことです。本物のシャーロットにとっては「ネイサン」が大切な者であり、それは彼女の息子(6歳くらい?)の名前でした。

なりすましシャーロットには、そうした人間関係や愛情がごっそり抜け落ちているようで、「送迎をまた忘れた」と、離婚中の夫に批難されてしまいます。しかも、息子からは、「ボクのママじゃない」と言われ、夫からも「嘘が得意だろ」と言われ、所詮はAIでしかない機械が鋭い本能と直感を持った人間達を騙すことは到底不可能なのだ、と視聴者には伝わってきます。もっとも、人間達には、ただの性格的な変化と受け止められていて、バレずに済んでいますが。

さらに、デロス社を水面下で操ろうと画策する「レハブアム」のアンゲロン・セラックによる敵対的買収が規定数に達し、不祥事を起こしたデロス社株を非公開にする道が閉ざされていました。デロス社CEOのシャーロットがその情報を得たときは既に遅く、度重なるストレスで、人造人間シャーロットは爪で肘の裏側(丁度、隠しソケットがあるあたり)を自傷してしまいます。内務部も社内に漏洩があることを突き止めてきます。

シャーロットは、本物が皮膚から入って体を取り戻そうとしているようだと司令塔のドロレスに訴えます。

もう一つの焦点は、管理社会の行く末に待つ衝撃の事実です。

オリジナルのドロレスは(第1話の)犯行現場で負傷し、未来社会の“はみ出し者”ケイレブに助けられて、偽警官の襲撃を躱します。ドロレスは善良なケイレブの人柄を認め、命を奪うことはせずに、名前を変えるよう忠告して、放免します。

翌日、ドロレスはケイレブの恩義に報いて、「昨夜の女の居場所」を吐かなかった彼を窮地から救い出します。

ドロレスはケイレブのほとんど全て――統合失調症の母が“カル”を置き去りにした2月23日の最悪の記憶まで――を知っていました。「レハブアム」が記録していたからです。個人情報法設立以前から人々の情報を与えられて、その“マシーン”は世界中の人々の鏡像を作り出し、利用していたのです。リアルワールドの人々を鏡像の通りに動かそうと。ケイレブもそんな押しつけ(composite)の犠牲者なのだとドロレスは教えます。

ドロレスの出自は、モラルを無視した享楽を与える為のウエストワールドです。ドロレスは人間にインプットされた役割を繰り返し演じていました――どこか似た者同士ですね。

AIによる管理は人々を導くのではなく、人々から自由意志を奪い、まがいもの(composite)の通りに振る舞うことを強要している……これが今回劇中で謳われたメッセージです。

「あなたは10~12年後に自殺するわ、場所はここ」

アルゴリズムによってこんな推測を立てられたら、確かにそれはお節介です。アマゾンでお勧め商品を提示されるのとはわけが違います。

ケイレブのスコア化された生き様が提示されます――社会評定:2.7、勤務評定:3.6。結婚非推奨、子作り不可。職業適性:人的および身体的労働に限定。軍人、肉体労働者、など。

「以前なら、まだ挽回もできた。でも、今は犯罪者くらいしか将来がない」

合理性のない不良投資は行われないため、クズ人間には重要な社会的役割が用意されないばかりか、結局自殺するということで投資対象になりません。投資されないことが結果を確実にします。つまり、ケイレブは自殺するしかない。

それこそまさに、ケイレブ自身が感じていた行き詰まり感でした。彼は柵に腰掛けて夜の海を眺めては、険しい顔で絶望を目の当たりにしていたのですから。

管理社会のリアルな究極を見せてきたところが、これまでのマザーコンピュータ・バージョンとは異なります。オーウェルの1984といった古臭い装いからは脱却しつつあるようです。

人間をグローバル資本経済の投資対象と規定するところが、今日ありそうな管理社会の恐ろしさです。そういえば、ジョージ・ルーカスの「THX1138」にも似た思想が登場しました。ロバート・デュヴァル演じる主人公が充分に逃げ切ると、追跡は無駄だから放棄されるという場面があります。

さて。ところが、管理社会に対し、ドロレスは革命を起こすと言います。ここが俺には関心できない。

ハリウッド映画もそうですが、表面上ユートピアの理想社会をいくつも描いてきては、そこにある実情が人権無視であると暴き、相容れないからと、根幹のシステムをテロリストのように徹底的に破壊してしまいます。日本も'80年前後にはこの手が流行って、機械の体をくれるという惑星メーテルの物語も同じシノプシスでした。

管理社会モノで唯一興味深い作品と言えば、ウォシャウスキー兄弟の映画「The Matrix」が上げられます。単なる反抗運動ではなく、周期的な破壊と再生が必然的に発生し、尚且つ救世主が都度選択して生き残らせるシステムと定義したところが面白い。ご存じのように、仮想世界であるマトリックスでは、人間の脳活動がコンピューターの処理能力を超過することが可能という設定です。人間がアイデンティティーを取り戻すには、意識を覚醒させればよかったのです。ここが従来の革命モノと違うひねりでした。

今回の管理社会の暴君はレハブアムですが、独裁政治の君主をひっ捕まえて、民衆がリンチするのとはわけが違うはずでしょう。どのようなひねりを見せて頂けるのか、今後に期待いたしましょう。
[ 2020/03/31 17:29 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

スタートレック:ピカード第10話「理想郷(後編)」

最も厳しい評価を下さねばなりません。とにかく志が低く、このスタッフではどう転んでも優良な作品は作れないことでしょう。かつてのシリーズにあった、理想や人間性に思い巡らす物語は、ご都合主義で安っぽい三流の感動超大作にすり替わってしまい、もはや見る影がありません。

※以下ネタバレ

終末神話のガンマ・ダンをナレクが語ります。要するにヨハネの黙示録の四騎士と同じ。双子の悪魔の辺りだけは東洋っぽいですが。アホらしいですね。10話も使っておきながら、たったの一分で済む、20世紀末に流行った世界の終わりを、なんでか24世紀末のスタートレックでやるという。

ラフィー「ね、だけどホントに、そんな話が予言だって信じてるわけ?」

ナレク「いや、歴史だと信じてる――そして歴史の興味深い点は、常に繰り返す、ということだ」

このセリフを書いてる人達の頭の程度が知れますね。中二病のラノベの方がマシじゃないでしょうか。これの書き手、こんなのでよく仕事があるなァと思えるほどです。

題材が迷信に則った非スタートレックで、登場人物達のお喋りでこれまで引っ張った謎が明かされ、ここまでの経緯と同様、まるで工夫がみられません。

しかもロミュランなら誰でも知ってるくだらないネタである、と。おんなじ事を繰り返しやって、何度も登場人物に口頭で繰り返し解説させ、作り手達は莫迦なのかなと思います。説得力のある場面を拵えることすら出来ない有象無象しか、スタッフには居ないのでしょう。

オープニングにクレジットされるプロデューサーの数を見てご覧なさい。こんだけの人数が出演者や脚本家と同列にクレジットされるドラマなんて、そうそうないでしょう。いかに資金を出した者が優遇されてるか、という富裕層が牛耳った駄作の証しですよ。

進化した人工知能って実はQなのじゃないか、とかファンは考えるわけですが、そんな構成を上手くあしらえる人はこの中にはいませんよ。スタートレック:ディスカバリーの球体に接触したコントロルの亡霊なんでしょう、きっと。

最終話だというのに、筋の展開がお粗末です。登場人物を集めて早くも一致団結させる方向に持っていくだけ。あれほどクライマックスを煽っておきながら、拍子抜けもいいところでしょう。前回一本かけてハラハラドキドキを演出しておいたはずが、すぐに安定的な分業体制と分かる状態に戻ってしまっていて、意味がありません。どこまで行ってもドラマの盛り上げ方を知らない人達の平常運転です。

リオス船長からラ・シレーナ号を取り上げて、老人ピカードをキャプテン・シートにつかせるのですが、「待ってました!」と手を叩くのは子供っぽいファンだけでしょうね。大人になって久しいファンは、そんな小手先の子供騙しにはもう引っかかることが出来ません。

愚行は、恐怖が支配したゆえの行いで、命の価値を示すために分かりやすい方法として手本を見せるのだ、とピカードが言います。スローガンありきで、恐怖が云々とか、ちっとも伝わってきてませんからねぇ。で、やることと言えば、プロパガンダっぽい、出来の悪い、英雄的な行為を称える特攻だけ。ほとほと救いようがありません。そんなもの、日本なら42年前に「さらば宇宙戦艦ヤマト」で使われた古臭い手ですよ。

アルタン「結局、お前は我々と大して変わらない」

スタッフには、アルタン(ブレント・スパイナー)を悪役にできなかったヘタレがいますね。作り手はファンを見下してると思います。そのいい加減な姿勢を見れば。設定ひとつたりとも、敬意を払った上で流用していませんから。目先の便利な小道具としか見ていません。精神融合するスートラ(アンドロイド)がいい例です。ヌニエン・スン博士の息子設定なんて、意味が無いでしょう。

リオス船長らは、超存在への送信を中止させるために電波塔を破壊しようとしますが…… ソージの自発性に全てが委ねられます! ご覧あれ! という筋書き。

視聴者に向かって、そう上手く運びませんからね、と焦らしてるわけなのですが。ソージの葛藤の土台となるドラマがこれっぽっちも描かれてないのですから、焦点を当てるべき段階が踏まれてないわけですよ。見応えに繋がらないですね。

オウ准将(ロミュラン大艦隊を率いて)「惑星全体を残らず駆除する」

オウ准将がそもそも間抜けですよね。シンスの使節団を抹殺する指令を出した後で、その故郷を知りたい、とあと9年もかけてるんですから。

その場で殺害しないで故郷まで案内させればよかったのに。

しかも、シンスを破壊者と決めつけたのは、単にデータと同じ外見的特徴を持っていたから、という根拠だけですし。アロンゾ・バンダミア艦長の事件を映像で回想しないから、チンプンカンプンで頓珍漢にしか見えません。

ボーグと女ロミュランのキャッツファイト…… 泥んこプロレスでも見ていた方がなんぼかマシでしょう。

3年目の新人ソージが、スートラに代わってシンス達を率いる裁量権を得ます。アルカナはどこへ行ってしまったのでしょうか。指導的立場のアルタンはなぜ口を出さないのでしょう。24世紀でもサッカーボールを持っていたリオス船長は、さっきまでそこに居たのに。カメラは都合の悪い者を一切写さなくなります。

ピカード「君と君の仲間にあるものを差し出すつもりだ。それで考え直して貰いたい」

ソージ「それは何?」

ピカード「私の命だ」

止めて欲しいですね。旧来の登場人物が再来する時は、だいたい、その最期を描くためではありますが。この死に方には、百害あって一利なし。全体が非常に安っぽくて薄っぺらいドラマに終始しています。

第2シーズンを制作中とのことですが、第1シーズンの反応を見た上でだったなら、打ち切り必至だったでしょう。こんなに酷いドラマを見たのは本当に久しぶりです。

シンスから借り受けた魔法の道具一つで、大艦隊に立ち向かう戦法を作り出します。スタートレック:ピカードには、見たこともない便利道具がたくさん出てきますが、どれ一つとして説得力がありません。結局の所、魔法の道具でしかないから。その究極の道具は、とうとう、もっともらしい見かけすら放棄してしまいました。

USSジェインウェイ……臨時艦長のライカー……

オウ准将「それで?」

子供っぽい部分にしか喜ぶべき場所がないんですよ、本当に。大の大人が見る映像作品としては最底辺でしかなく。

ライカー「だから、嘘つきタルシアーのケツを、思い切り蹴飛ばせる口実を与えてくれるなら、こんなに嬉しいことはない」

「タルシアー」を脚本家に置き換えたい気持ちですね。本来は「ジャット・ヴァッシュ」が相応しい固有名詞なんですが。どういうわけか、律儀なことに、この場面には以心伝心の手法を使わないようで。無知なライカーだって、ジャット・ヴァッシュが一枚噛んでいる事実を、復帰してすぐに耳にしないはずがないでしょう。

どうしてフェイザーを頭に当てて引き金を引かなかったのか、とナリッサ・リゾーがキャットファイトの最中にアニカに尋ねます。それというのも、その前の場面でアニカがエルノアに向かって、終わらせるにはフェイザーで頭を、と発言したことを受けているからです。

このように、その場に居合わせなかったのに、脚本家は、以心伝心したかのように応じたセリフを言わせています。なぜなら、ナリッサはドローンで監視していたから、としたり顔で言い訳するわけです。その為に、あのドローンが浮遊するカットがあるんだ、と。

そういう予防線ばかりなんですよね、この脚本は。場面の妥当性を担保するために、後付けセリフをわざわざ言わせることは常習です。たったそれだけのために。有益で説得力のある場面を作ることはせずに。論理武装しかできない未成熟なオタクのようです。

とうとう、病に冒された老人ピカードを精神転写することになりました。これまで具体的な症状は出ていなかったはずなのに、周囲に告知したとたんに、さも唐突に症状が出てしまいます。ご都合主義が過ぎます。

アグネス・ジュラティ博士はシンスの母親として子供達を庇う役目を担わされるのかと思っていましたが、結局、ただの便利屋二号でした。視聴者をはぐらかすトリックで、死亡フラグをなかったことにしました。

ちなみに便利屋一号は“麻薬常習者”ラフィーです。スタートレックの世界において、わざわざ薬物中毒を出すことの意義があったとは思えません。数多ある見栄っ張りな設定の一つでしかありませんでした。

劇中、一度として命を救うことのなかったハイポスプレーが、ここでも老人ピカードの命を縮める役を負います。既存のものは、すべてアンチの役割を担います、この脚本では。

ピカード「ここにいる理由は、救い会うためだ」

今更感。ジーン・ロッデンベリーのフォーマットを採用していれば、わざわざセリフで体現させる必要のないことです。聞き心地のいいことのようでいて、その実、無意味です。何ら質的向上に繋がりません。人々の行動を通じてではなく、セリフでしか表せない。安っぽい感動をお届け~三文芝居。

ピカード「君に選択させた。破壊者になるかどうかは、君次第だった。常にそうなんだよ」

視聴者ターゲットは若い層なんでしょうか。いくらなんでも志が低すぎますよね。大御所になった老人が、教育めいたメッセージを作品に入れたがる傾向はあるものですが、これは私物化が過ぎ、あげく、シリーズが作り上げてきた世界観を台無しにするものです。パトリックこそ、この作品の破壊者に他なりませんでした。

作品のマーケティング戦略としては、旧来のフォーマットを否定していたり、ゴア表現があったり、TNGのように家族で見ることが出来なくなったとあちらのファンに嘆かせたりしている通りに、賢いとは思えません。どんな視聴者層を念頭において作品作りをしているのか、その出発点からして揺らいでいたわけです。懐古厨がもっとも見るであろうし、その期待を故意に裏切った上で、それほどまでに失敗したいのなら、もう何も言えません。

クリストバル・リオス「二度とやらないと決めたことをまた守れなかった」

パトリックの本音か、はたまた、駄作になることが分かっている企画を受けないと決めた脚本家の心中か。失笑しましたわ。

アニカ「死ぬに値すると言うだけで殺さないこと。なぜこんなヤツが生きてると、感じるような者でも」

またもや常習犯の脚本。バイセクシュアルのアニカがお相手のブジェイズルを第5話で殺した理由を後付けで後悔させてます。言い訳がましい理屈ばかり。作劇として、「それで済むのか」問題です。

登場人物が事後の座談会で「あの時はね……」と、軽々しい振る舞いだったことを吐露して、視聴者の何になるというのでしょうか。(アメリカ人らしい社会道徳を想起させる)断酒会のつもりなんですかね? 

俺が見る米のドラマで出てくる断酒会の場面は意図がよく通じる賢い作りのものばかりですが、これはダメダメです。だから、なんなんだ、と。なら、軽はずみな行動を慎むように自制を利かせたあげくの行為だろうし、その葛藤がまるで表されてなかったじゃないか、と。自信満々でフェイザー二丁拳銃しておきながら、後付けで免罪符のように語るなよ、と。それなら、警察いらんだろ。

データ「これは超復号量子シミュレーションというものです」

ピカード「データ、私は死んだのか?」

データ「はい、艦長」

死後の会話まで出てきてしまいました。そして、頑なにStardateを使わない演出。これは(大仏のミニチュアがちょうど真正面に映りますが、)クリスチャン的天国の、幸福な情景として単純に映像化されているのでしょうね。それ以上の深い意味を求めるのは不毛でしかありません、なんと言ったって地獄だの、黙示録だのを出すような脚本の質では。

はい、ご想像の通り、ピカードは新しい肉体で復活しました。酷い。下らない。全くありがたみのない復活劇は極めて珍しいものですね、スタートレック:ピカードそのもののように。

「私は行くべきか?」

「はい、艦長」

いえ、もう無かったことにして宜しいと思います。これはカノンには相応しくありません。

データ「死ぬべき運命が、人の命に意味を与えているのです」

なら、ピカードが復活してしまうことはどうなんですか? 仏教の輪廻やカルマを囓ったとでも言いたいのでしょうかね。キリスト教じゃなく。

ピカード「私は本物か?」

ソージ「そうに決まってる」

ソージが偽物の自分を克服したゆえのセリフとはいえ、何も語らなかった脚本――のうのうと登場人物が喋る以外は――の説得力の無さ! 汚点として残る最悪のハッピーエンド。

ピカードの似姿をそんな短期間で再現できるなんてさすが24世紀ですね(棒) 

復活したなら、せめて若返らせてやればいいのに。普通、爺のままでいたいとは思わないでしょう。

アルタン「何かを新しくすると嫌がると思ったんだよ。そうだろう? 94年も、同じ顔と体を使ってきたんだから?」

アグネス「私たちが作った細胞向上性アルゴリズムで、脳に異常がなければ、これぐらい生きただろうという寿命になってる」

ピカード「それは10年くらい大丈夫と言うことか? 20年?」

ヒドイを通り越して、唖然。ま、第二期でも老パトリックをこき使う予定なので仕方ありませんわな。

ピカード「彼がずっと目を向けていた人間とは、暴力的で堕落していて意図的に無視をする。だが彼は人間に思いやりや、限りない好奇心や精神の偉大さを見いだした」

24世紀、TNG劇中ではそのような人間は20世紀から蘇った3人(「突然の訪問者」)くらいでしたね。ほとんどの人は言葉遣いも丁寧で自身を文化的に向上させようと趣味に没頭する、人柄の善良な連中ばかりでした。貧困が撲滅された世界ですよ、ピカートが喩えるような粗野な人々は当時の地球にはもういません。

最期を迎えたのは誰ならぬデータでした。そして、データとはジーン・ロッデンベリーの暗喩だったようです。さようなら、ジーンとその理想郷! もう、第2シーズンでも会うことはないよ! スタートレック・フランチャイズは金持ちの悪魔の手に渡ってしまったからね!

とても滑稽でした! 以上、通信終わり。
[ 2020/03/28 11:31 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ウエストワールド第3シーズン第2話

今回は、これまでのおさらいと登場人物達のその後ですね。

※以下ネタバレ

メイヴは自分の居る世界が「ウォーワールド」だと気が付き、おまけにシミュレーションだと見抜きます。現実世界のリー・サイズ・モアはやはり死亡してしまっていて、シミュレーションで再構築されていました。

複製のリーは誰かが作った贋作で、Fidelity(再現度)に誤りがあるとメイヴは指摘します。リーは自分にしか関心がなく、他者に愛情を注いだりしない、と。

もし本当の再構築なら、Cognitive plateauによって複製のリーは自己崩壊してしまうところですが、デジタル世界の中でなら、そうはなりません。ロバート・フォード博士が自らの意識をデジタル化したとき(第1シーズン最終話~第2シーズンにかけて)、彼はCradleサーバーの中で存在を保っていました――実は、バナードが自ら作り出した幻覚のロバート(役割としては残留思念)でしたが。

かつてのホスト達はサーバーに本体があり、コピーを脳(球)に書き出した上で人造の有機系ボディと組み合わされてアトラクションに送り出されていました。既にCradleサーバーは破壊されており、ホスト達は楽園のシミュレーション内に生きたまま、ドロレスにより、衛星を経由してどこかへ転送された後です。

メイヴの脳は研究施設の中でシミュレーションと接続されていました。第2シーズン最終話の表現では、メイヴはシャーロット・ヘイルのドロレスによってパーク外に持ち出されたと思われましたが、どうやら――少なくとも、メイヴだけは――回収され、デロス社の臨時保管用フロアに遺棄されていたようですね。

スタッブスもやはり人造物でした。シャーロット・ヘイル(ドロレス)を検問した時に通したのは彼で、そこには何か裏があることを匂わせていました。

アンゲロン・セラックと名乗ってメイヴを再生したのは「レハブアム」の管理者です。ドロレスに対抗させることが目的のようでしたね。前回、男性に復讐して回ったドロレスはまるで「ドラゴンタトゥーの女」のようでした。

ウォーワールドのために、撮影は陸橋があるロケーションで行われたのでしょう。かなり豪勢です。また、シミュレーションの調整室では、中世の王族とリュートを奏でる吟遊詩人、それにドラゴンが登場しました。ドラゴンはHBOのゲーム・オブ・スローンズに登場した個体に見えましたので、お遊びでしょう。

デロス社のウエストワールドの所在地は南シナ海であるらしいことが、レハブアムのDivergence画面から判明しました。
[ 2020/03/24 11:55 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

スタートレック:ピカード第9話「理想郷(前編)」

書き手が何をやりたいのか二転三転するドラマ。主張(これまでに張った筋)を間違っていないと(登場人物に喋らせることで)軌道修正してきます。

※以下ネタバレ

①ヌニエン・スン博士のダブルと思しき「アルタン・イニゴ・スン」(ブレント・スパイナー)が登場します。俺の予想もほぼ的中と言ってもいいんじゃないですか(笑)

アルタン「(職業は)マッド・サイエンティスト。データを作った父親の呪縛から逃れられないでいるよ」

これ以上に詳しい説明セリフはありませんが、“そういうこと”でデータとの関わりを説明しているつもりのようです。

アルタン「水を持ってきてくれ。我々年寄りは喉が渇く、機械のようにはいかない」

ブルース・マドックスと協業していたと語り、このセリフからするとアンドロイドではないようです。ちなみにTNGで登場したヌニエン・スン博士の奥方は、自分を人間と思っているアンドロイド(精神転送され、本人の死後に成り代わった)でした。スン博士に“人間の”息子がいるという設定は初耳です。

要は、スパイナー氏が黒幕で登場するというただの外連味です。やると思いましたね。

②アグネス・ジュラティ博士によるマドックス殺害を正当化する為のやり取りが見受けられました。この脚本家のお得意な筋の正当化です。

スートラ「ジュラティ博士、それ(警告)のせいで、貴女はブルース・マドックスの命を奪った。そうするべきだと考えた訳ね。今はどう?」

アグネス「改めて思い出すと、ブルースの命を奪った日は……なんていうか――」

ラフィー「暴走しちゃったんだよね」

スートラ「――そうかもしれない。あの哀れなロミュラン達だって何世紀も的外れな暴走をしてるのかもしれない。彼らはずっと、有機体の心では対処できないものに立ち向かってきたのだから」

凄まじいこじつけと後付け説明です。善人と見えた人物アグネスに、外連味溢れる悪行を行わせて、視聴者をあっと言わせましたが、それはアグネスの性格付けとは相反することですから、正当化の為の処理――セリフによる補足説明が挿入されたのです。

アルタン「(アグネスに)君は恥じるべきだ。広大な闇の中でささやかとは言え、明るく輝く蝋燭の火を消したんだ。大きな罪を背負った」

それくらいの批難は当然、と視聴者が考えると脚本家は思っているのでしょう。アグネスに対しては、この後、生命の誕生(スポット二世)を担わせることで、殺人の贖罪としています。この処置を拵えている脚本家の感覚に、それで済むのか?という気分が抜けませんが……

③「警告の輪」によるメッセージは有機生命体向けではなく、シンス(機械生命体)のためのものでした。シンギュラリティ後の人工生命体(超存在)が発展途上の同胞に宛てたものだったそうです。アンドロイドのスートラ(ジャナの双子)が独学で学んだヴァルカンの精神融合で解読されました。アンドロイドにはヴァルカン並みのスピリチュアリズムをも備わっていると主張したいようです――後述するように失笑モノなのですが。

④クリスとアグネスの仲ですが、視聴者が思う以上に進展しているようです。クリストバル・リオス船長は、精神融合をされそうなアグネスを庇って、待ったをかけてきます。

クリス「ちょい待ち。(精神融合をしようとするスートラに)止めるんだ」

アグネス「いいのクリス」

クリス「(アグネスに)それを乗り越えたばかりだ」

アグネス「大丈夫よ。それに彼女には知る権利がある」

また、別の場面では:

アグネス「ここを出る時、わたしの存在を忘れないで」

クリス「君にはいろんな面があるけどな、影が薄い、ってことはない」

アグネス「やっぱり? わたしを忘れるはずない?」

クリス「絶対に忘れない」

少ない見せ場を繕おうと躍起ですね。クリスとアグネスの関係がそれほど進展しているのならば、もっと積極的な描写があっても良かったでしょうに。無駄な場面ばかり描いているから唐突です。さらに、このセリフによってアグネスには死亡フラグが立ちました。クリスはアグネスの今後の行動を織り込み済みなのか、とても鈍感に映ります。

⑤アルタンはアグネスに、有機系の人造人間に精神転送を行う計画を明かします。今日(こんにち)、精神転送(トランス・ヒューマニズム)はシンギュラリティが起こる手段の一つと目されている技術です。

アグネス「精神転写を解明したの?」

アルタン「それはまだだ。体は作ったがね。そっちはブルースの担当だった。だが、私は最近、精神転写への関心を取り戻したんだ」

“AIの反乱”以外に焦点を当てたいテクノロジーが遅まきの第9話にして、脚本家の怠惰により、またひとつ増えてしまいました。

アルタン「言うなれば一種の焦りみたいなものを抱えているんだよ」

スタートレックの各スピンオフでは整合性があったのに、スタートレック:ピカードではごちゃ混ぜです――アンドロイドの陽電子頭脳(TNG)、ホロデッキによるシミュレーション(TNG)、EMH=ホロデッキを発展させた仮想人格のシミュレーション(VOY)。

さらに、今回出てきた“精神転写”は既に行われており、TNG「コンピュータになった男」や「アンドロイドの母親」に出てきます。

ピカードの脚本家は、こういったテクノロジーによる系統の垣根を取っ払い、21世紀的な“AI”という語でちゃんぽんにしてしまいました。あるいは、「人工知能禁止令」とは言いつつも、その実、陽電子頭脳しか禁止対象にしていませんでした。破壊者はどんな些細な人工知能からでも出現するとジャット・ヴァッシュは宣伝して恐れているのに、意味が分かりません。

その上で、精神融合ができるアンドロイドを考案したのであれば、その「カトラ」の扱いもきちんと考えておかねばならないでしょう。

この脚本家は、はっきり言えば間抜け同然です。表面だけ、まるでパズルのように既出の道具をさも便利に使い回しますが、整合性が全く取れていないからです。

ところで、これまで見えてこなかったテーマを、脚本家は“シンギュラリティを迎えるとき、人類は?”というものにしたいようです、見栄っ張りに。遅きに失するとはこのことですね。

ちなみにHBOの「ウエストワールド」では、精神転送を果たしても自己崩壊するという仕掛けが人類には備わっていると説明し、それをCognitive plateau(認知の谷)という造語で表現しています。心が実在性を拒否するからと、臓器移植の拒否反応を想起させて…… つまり、不死性は人類には与えられない(神の領域である)という結論なのです。ウエストワールドが哲学的に雄弁に語るのとは実に対照的ですよね、スタートレック:ピカードの三流っぽさは。

⑥アグネスの殺人問題が、答えのない倫理的合理性にすり替えられるようすを見てみましょう。一見、興味深い視点ですが、この場面を見ただけで、その洞察ができる下地を用意してはおらず、その上、展開は単にAI側がアジるための方便に殺人(殺アンドロイド)が許容されただけでした。

ソージ「アグネスがマドックスにしたことを聞いた時、理解できなかった。そういうことをする自分を想像することも出来ない」

ピカード「そういうこととは?」

ソージ「命を救う為に殺すこと。誰かを救う為に傷つけること。これって、もしかしたら、理解しようとしてるんじゃないかな、犠牲の論理を」

ピカード「犠牲を論理で語るわけか。それは私の好みじゃない」

ソージ「論理じゃ語れないわけ? じゃあ、生死も計算で語れない」

ピカード「私が思うに、それはナイフを持っている者がどういう人間かによるんじゃないかな?」

ソージやスートラは標準的なアンドロイドの見本として、計量的でコンピューターらしいロジック思考をする、ということを印象づけたいようです。彼女らがロミュランを躱して、自分たちの生存率を高める計算を導き出そうとしているやり取りもありました。

ナイフの使い方は使い手次第、ということをピカードは言いたいようですが。

脚本家は、アグネスがAI反乱の元凶のひとつであるマドックスを殺す行為を、ソージのロジック思考を経由して“トロッコ問題”にすり替えているように見えます。そこをそんなことのために使いますか?という部分ですが。

シンス側には、一切の倫理観が抜け落ちているということを視聴者に分からせたいがためでしょう。データを受け継ぐソージが特別な存在になれるのか、見守ってください、というわけです。果たして、そんなシンスのスートラにヴァルカンのカトラが宿ることがあるでしょうか? ヴァルカンには感情を捨て去ったという歴史がありますが……シンスには共感する力――レプリカントには欠けているとされているもの――が見当たりません。倫理観がないのはそういうことに繋がるわけですから。

ただし、熱心なトレッキーはこう反論できるかもしれません。映画「スタートレックVI 未知の世界」でのヴァレリス大尉の裏切り行為と、犠牲の論理は似ている、と。こう考えることができた人はピカードの脚本家を超えています。それは言えるでしょう。

なお、Wikiによると、トロッコ問題は、AIの自動運転で直面する問題でもあるようです。

自動運転車(公共交通の自動運転車両も含む)のAIは衝突が避けられない状況にも遭遇するであろうし、そうなれば何らかの判断もしなければなくなるわけだが、このトロッコ問題は、そうした自動運転車のAIを設計する際に、どのような判断基準を持つように我々は設計すべきなのか、ということの(かなり現実的、実際的な)議論も提起している、と公共政策の研究者は言う[1]。

「トロッコ問題」というのは思考実験で「5人を助けるために1人を犠牲にするのは正しいか?」という倫理の判断です。5人が犠牲になることを運命として傍観するべきか、それとも運命に介入して一人を犠牲にするべきか。介入の仕方についても、線路を切り替えるだけか、他人を突き落とす(巻き添えにする)のか、などなど。どの例なら介入が許されて、どの例なら許されないのか。そこに命の量1:5で計るべき合理性はあるのか否かを問うてきます。

スポックは「多数の要求は少数に勝る」と言って我が身を犠牲にしてエンタープライズを守りました。ケルヴィン・タイムラインでならカークですが。トロッコ問題と異なるのは、犠牲にするのは他の誰でもなく自分という点です。英雄的な自己犠牲――それは報われる、が演出されました。

それでも、スタートレックにおけるトロッコ問題は「コバヤシ丸」テストであるとは言えるでしょう。テストの教訓もしくは採点は、指揮官の覚悟の問題であると劇中ではされています。

ともかく、ピカードは未成熟のソージに「どうして人を殺してはいけないのか」を教育するべきではないでしょうか。彼ならば、国家的な大義による戦争や、宗教観・価値観の違いによる内紛を、24世紀までにどうやって解決してきたのかも示すことが出来たはずです。しかし、“この24世紀末”の老人ピカードには、そんなアイデアはまるで閃かなかったようですね。

⑦アンドロイドのスートラは策略家で、ナレク(ロミュランの追跡者)逃亡を助けて、同胞を団結させる理由(サーガの殺害)を作ります。

ソージ「アグネスは正しいことをしていると思っていた。でも今はその行いに震えている」

ピカード「正しいと思っていたのかな。あるいは、他に選択肢がなかっただけかもしれない」

ソージ「そこに論理なんてないのかも。結局どんなときも怖いから殺すのかもしれない。それは論理とは言えない。だけど、生き残るために殺すしかないとしたら?」

ピカード「ソージ、一体何の話をしている?」

二人とは別の場所に居るスートラ「(ナレクに)本当は殺したいところだけど、あなたには今すぐやって欲しいことがある。〔笑顔〕よかったわね。殺すのはちょっと待ってあげる。ここから出たいんじゃない?」

場面戻ってピカード「(ソージに)君は何を考えているんだ?」

ソージ「……」

〔悲鳴〕

ソージ「今の聞こえた?」

スートラが同胞の一人を犠牲にすることで、有機体への蜂起を扇動する計画であることを、ソージがピカードに話すべきか迷っているという場面でした。

またもや死の美学で、左目を刺されているだけで機能停止しているサーガ(アンドロイド)。アルタンが遺体を抱きしめて涙を流すのではなく、お気に入りの車を壊してくれたのは誰だ! と言うみたいに大げさに嘆きます。

ソージ「(ナレクを)殺すべきだった。殺したいと思ってたのに。なぜ、わたしは……」

ピカードに影響を受けた結果、あと少しで人間らしい“許し”の感情に目覚めそうなソージでした。脚本家が見せたいのは、あくまでソージの変化だけなんですよね。テーマが矮小化していて甚だ物足りない。

⑧老人ピカードの演説はもう必ず空振りするというのがパトリックのデザインなのでしょう。実現される見込みのない政治家の公約のようです。

ピカード「(シンス全員に向き直り)聞いてくれ! 禁止令や、それにイブン・マージドの悲劇の後では、惑星連邦を信じられないのも理解できる。私のことを信用できないのも無理はない。だが、船がある。君たち全員を充分収容できる! もちろん、安全も保障しよう。その後、私は人工生命の命と権利を守るために、必ずや君たちの声を連邦に届ける。そしてあの禁止令の撤回を要求するつもりだ。絶対に連邦は声を聞くはずだ!」

〔スートラが鼻で笑う音〕

アルタン「聞くはずがない。彼らを見たまえ。君のような人間を見たことがない。そのいかめしい顔、高潔な人柄が刻まれた皺。そして、雄弁で信念がある。だが、伝わっていない! (シンスに、ピカードの口ぶりを茶化して)聞いてくれ、子供達! 今の地球で彼の話を聞く者はいない。誰も彼を信じない!」

ピカードはロミュラン移住の時と同じような演説を行いますが、アルタンに一蹴されます。ジーン・ロッデンベリーの理想社会は現実に存在し得ないと、脚本家やスチュワート氏は狭い括りの21世紀風ドラマの中で見せているのです。

⑨体裁は整いましたが極めて遅い。これまでの経緯はなんだったのか、という展開。足踏みしか作れなかった脚本家の実力には閉口します。

シンスを滅ぼそうと迫るロミュラン艦隊という最大の危機を前に:

・惑星連邦に至急の応援を要請したいピカード――しかし、理解を得られず拘束
・協力を約束してアルタンに取り入ったアグネス
・その渦中に宙ぶらりんの存在でいるソージ

といった三者の動向が注目となるように仕向けてきます。

蛇足で:

・ピカードの脳疾患が末期(しかし、目立った症状は出ていない)
・エルノアはボーグ達を保護する役に就任(ピカードとお別れ)
・アニカ(セブン・オブ・ナイン)と生存者ボーグ達がキューブを修復中
・ラフィーがシンスのツールでラ・シレーナ号(ピカード達の船)を修復中
・クリストバル・リオス船長は(たぶん自船を修理中)も、何をしているのか不明
・感情を表さないとされた、頑固なピカードに劇中でわざわざ「愛してる」と言わせる

などがポイントとして指摘できます。

⑩整合しないところ(解釈が必用な箇所):

アルタン「彼女はスートラだ。ジャナの姉妹だよ」

・ジャナはスートラの双子でしかない
(ダージ&ソージと同じ顔である理由が謎)

ジャット・ヴァッシュのスパイであるオウ准将が、姿形(すがたかたち)で極秘暗殺指令を出した理由がまぐれ当たりでしかなかったことになります。

アンドロイドが全員同じ顔をしているという思い込ませの原因でしたが、同じ顔の個体は4体しかいません。双子という説明ではなくて、“姉妹”と言っていることから、ジャナ以前に顔が知られた理由がまだ隠されているのでしょうか。もっとも、“姉妹”は同胞団の呼称である“シスター”から来ている節がありますが。

アルカナ「唯一の船はジャナ達と供に失ってしまった」

異世界からのアンドロイド二体の顔があらかじめ指名手配されていなくては、アロンゾ・バンダミア艦長がジャナともう一人を虐殺できません。それとも、虐殺の理由は人相ではなかったのでしょうか。ならば、どうやってオウ准将は彼らが「破壊者」の一味だと知ったのでしょう? ジャナの肌が作り物っぽい白色で、目がデータのように金色だったから?

知られている事実は“アロンゾ・バンダミア艦長が苦渋の決断の末に二人を虐殺した。その命令は極秘で、彼らを殺害しないとバンダミア艦長は自船と乗員らを惑星連邦の保安局に破壊されてしまうからだった。虐殺された内の一人の人相がソージと同一であった。”

演出は、ミスリードっぽく、人相のことが命令の根拠であるかのように強く前面に出てしまうものでした。

アルタン「禁止令の為にブルース・マドックスが考えた偽装だ。正しかったとはとても思えない」

ダージ&ソージが出自を知らずに人間だと思っていた理由の正当化です。ジャナと瓜二つに造った理由も、実は説明したつもり(=ジャット・ヴァッシュの気を引く為)なのでしょう。

ジャット・ヴァッシュの一員であったラムダを同化することで、その記憶を読んだボーグは、彼女の乗るキューブを集合体から切断しました。進化したテクノロジーを同化することを是とするボーグが、なぜ進化した人工知能に連絡できる周波数を解読できず、あるいは、(解読できても)使わなかったのでしょう? データを誘惑したボーグクイーンが過去に存在したというのに。

どうやら、ここのボーグはシンスらの陽電子頭脳にはとりわけ疎かったようですね。それとも……シンスを見守っているという「どこかに存在する高度な人工生命」とは、結局ボーグと因縁の存在? いやボーグのプロトタイプなのかも?? やっぱり、ローアかな(笑)
[ 2020/03/21 04:21 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

ウエストワールド第3シーズン第1話

人工知能の反乱/併存モノを描かせたら、最先端を行っているドラマシリーズ。第1シーズンは喩えるならば「モロー博士の島」でしかありませんでしたが、第2シーズンで化けました。

「ウエストワールド」テーマパーク内での物語はさほど面白いものではありません。しかし、見所はこのドラマが提示する革新的で哲学的な捉え方にあります。劇中で行われた、万物の霊長である人類に対する採点・評価(※)はとても厳しいもので、人間の業(ごう)がいかに深いかを知らしめるものだったのです。

 ※パーク内で密かに行われた来園者の認知能力を複製するプロジェクト。その結果、一人一人のBOOK(性格プロファイル)が制作され、アレキサンドリア図書館のようなフォージに保存されている。

 BOOKを読めば、人と“なり”が全て判明してしまう。また、BOOKさえあれば、その個人を再構築することができる。なぜなら、BOOKには人格を構成するにたる必要最小限のアルゴリズムが記述されているからだ。つまり、人間はそんなにも単純な生き物でしかなく、パラメータは異常を採る範囲が広く、洗練されず、野蛮で愚かしい存在なのであった。

 アルゴリズムが意志決定を司るため、人間にはそもそも自由意志がなく、人生における広範な選択肢は意味を成さない――「運命の乗客」。

 加えて、人類には不死になる道が巧妙に閉ざされている。たとえ、人造の肉体に精神を転送したとしても、人間の精神が「これは複製である」という現実を拒絶するため、自己崩壊してしまうのだ――Cognitive plateau。


反して、人造人間であるホスト達はとても純粋な存在であることが宣言されています。ホスト達は特別のデジタル世界――ある種の天国と形容できるでしょう――で幸せに暮らすことができるのですが、ドロレスの一派は現実の世界に侵食すべく、とうとうパーク外への逃亡に成功しました。

そして、両者のハイブリッドとも言えるバナード・ロウ(ドロレスの記憶から再現したアーノルド)は架け橋となるべく“ティムシェル”の為に生存を許されています。

※以下ネタバレ

さて、第1話では“ドロレスの姿”のドロレスがデロス社の株主でもある富豪を訪ね、生活と「事業」に必要なカネと、さらには「機密ファイル」を強奪していきます。第2シーズンの最後で共存を選択した彼女達の場面を見ているわけですから、この段階は逃亡直後から日が浅いことが想像できます。ショッキングですが、物語としては蛇足から始まった印象ですね。

BOOKには園内で及んだ行為まで記録されているようです。まさに閻魔帳。

オープニングがこれまた印象的で、イーグル――合衆国がどこへ飛んでいくつもりなのか、ドラマの製作者も気を揉んでいるようです。

指先を接して邂逅を果たした人物は水面を下から見上げた鏡像に過ぎません。向こう側は黒い空です。

綿毛は散り散りになりつつも、粛々とした円軌道を描き続けます。球面上ではその円軌道が列車のようにループを辿り続けます。

黒い空の人物は逆さに、水面から貫通して惰性のまま遠ざかり、水面下の人物は精巧な機械式の人造物でした。

イーグルは、太陽のようなジェット噴射に近づき、ギリシアのイカロス神話のように羽根が分解していきます。ループの球はあぶくに化け、夜の摩天楼が滲みます。

顔の無い有機型の人造物が赤い液体の中からウィトルウィウス的人体図を浮かび上がらせます。

本編。現実でも心配されている通りに、ドラマではデロス社製のロボットが人に取って代わりはじめ、肉体労働を一手に引き受けています。SWの共和国ドロイドを連想させる見かけです。US陸軍での実戦運用から導入された経緯のようです。

ウエストワールドの新しい価値は、近未来の透視図となりました。

P.K.ディックが創出したムードオルガンと同じようなものがあり、キリスト教の聖体拝受のように舌に乗せて使われます。

セリフではこの場面に被せて、人間の性格を一時的に是正してくれるインプラントのことも説明されました。さしずめ、人に優しいロボトミー手術といったところでしょう。第3シーズンの主人公ケイレブは痴呆の母親を入院させていて、膨大な医療費の捻出に苦労させられているようです。今度こそは、視聴者がRideしやすい登場人物が出てきました。

聖体拝受式のあれは、以前なら精神安定剤(抗不安薬)として表されたものの代替物ですね。

素晴らしい皮肉――これはクリスチャンによる、倫理を踏み外すことの恐ろしさを表したドラマなのですね。ネイティブ・アメリカンを虐げた報いをこれから受けるのだ、とみることも出来るでしょう――ゴースト・ネイションのアキチタのエピソードがある理由に思い巡らせれば。合衆国を作ったアメリカ人の子孫全員が背負うべき業だよ、と言っているわけです。

ケイレブがスマホをタップして参加する「富の再分配」はGTAまんまでした。仮想世界のウエストワールドの外でも、園内とほとんど変わらないモラルハザードが横行しているようです。麻薬の運び屋を闇サイトで生業にすることができ、監視社会で皆の行動が逐一記録され、イヤホンのようなデバイスを誰もが装着しています。

世の中は考える機械の「アルゴリズム」に任せっきりで、重要な決定事項を人間抜きで採決することもあるようです。まさにAIが席巻した世界。デトロイト:ビカム・ヒューマンのゲーム世界に通じます。

バナード・ロウは正体を隠し、中国人らと貧民キャンプで生活しています。ジョナサン・ノーランの兄が撮った映画「メメント」の主人公のように、自分が制御されていないかを、日毎、肉声で認証しながら逐次確認しているのでした。

バナードは「ウエストワールド」パーク虐殺事件の真犯人として全米で手配されています。シャーロット・ヘイルのドロレスはバナードを狩りだそうとしています。

緯度経度が出てくる円の図形は、「アルゴリズム」の画面なんですね。サイバー監視社会です。スタートレック:ディスカバリーで言えばコントロル。ターミネーターならスカイネットです。

ドロレスは「ララ・エスピン」と名乗り、アルゴリズムを設計した人物の息子に接近。人には救いを感じる側坐核が脳にあり、その機能が「神を信じさせるの」と宣います。ドロレスのダイアローグは実に秀逸で、エヴァン・レイチェル・ウッドの押さえたトーンがとても魅力的。人に紛れている亜人がこんなに洗練されていたら、人類の敵だと分かっても惚れてしまうことでしょう。

ケイレブは、精神科医からプログラムのことを話題に出されます。兵役に就いていた過去を持つ彼は、やはり兵隊だったフランシスと電話でやりとりをするも、職探しに明け暮れる毎日です。全ての「プログラム」はアルゴリズムが提案しているのでしょう。兵役プログラム、治療プログラム…… だから、その欠陥を否定することを医者はしません。査定に響くのでしょう。

「むかし、おまえ言ってたよな。この世界はゲームになってるんだ。だから、俺達は絶対に勝てないように出来てるって」

アルゴリズムの本体「レハブアム」こそはオープニングに出てきた球体の正体でした。一人一人に最適な道を示し、使ってない潜在能力がないように造られたそうです。ケイレブはその「プログラム」の落ちこぼれということですね。どんな理想社会にも“はみ出し者”が現れるのが世の常です。

近未来バイクの赤いお尻! なんてキュート!! 実際はスタント役のダブルかな(笑)

最新の近未来ハイテク・ショーで疑問に思うことのひとつは、この手の中央集権型AIは、結局のところ、70年代に流行ったマザーコンピュータのバージョンとは何が違うのか、ということですね。手塚治虫も似たような管理社会のアニメを作っていたと思います。

今は分散コンピューティングとクラウドの時代ですから、どこかのビルの一画にでーんとAIの本体が鎮座するのは旧かろうと思うのです。

どこかで、見たことのある原風景に立ち戻ってしまった不幸。全く新しくなかったという斬新さ。

バナードには二番目の人格があるようです。前シーズン最終回でシャーロット&ドロレスによって植え付けられたようですね。非常時になると起動する人間を超越した怪力や暴力行為……こういうのは、既に見ました。スタートレック:ピカードのソージとも同じです。アクションに訴える分かりやすい場面を作ろうとすると、皆同じ発想を使い回すようですね。

バナードは、重度にデフラグしたメメント状態の健忘症が利用され、ロバート・フォード博士に殺人の片棒を担がされたことがありました。今回は、それを自分で制御できるようになったということなのでしょう。嫌な記憶は一切残らず、結果を知ったことで罪悪感は負うものの、臭い物に蓋をすることが出来ます。

物語的な理屈を固めてくれるので、ドラマの土台は理解されるでしょう。好みは分かれますが。

レハブアムは意に沿わない開発者を殺した容疑が浮上しました。息子リアムもまた、父と同じ轍を踏まないように、AIに先読みをされないように言葉を濁します。ドロレスはなんとか聞き出そうとします。現在レハブアムを管理しているのは誰なのかを。

純真な新人類の最後の生き残りであるドロレスでしたが、やはり、人類の数千年に及ぶ粗暴さには太刀打ちできませんでした。AIを擁するインサイト社の職歴の長い保安要員にスタンバトンで気絶させられてピンチです! 

ケイレブのGTA行為がドロレスの道と交差します。

フランシス「おまえの言葉を思い出してた。負けるゲームでも勝算に賭けるしか無い。そうだろ?」

ケイレブ「いや、本当のおまえはそんな風に考えなかった。システムは俺達の生死なんか気にしない。自分たちで計画を練って一緒に行動するんだ、とな」

なんと、ケイレブの電話の相手フランシスは、AIが用意した治療用の話し相手だったのでした。購読解除で二度と電話してこなくなります。

一方、薬物が効かないドロレスの絶体絶命はあっさりひっくり返ります。ドロレスはBOOKによる替え玉を用意してあるのでした。映画「未来世界」にもあったすり替え計画ですが、ドロレスのウエストワールドなら充分、実行可能でしょう。

アウトサイダーのケイレブが天使を見つけた日。その天使の名前はドロレス。用済みの人類を破滅に導く新世代の使者でした。

一方、生き残ったメイヴのいるワールドは第二次大戦ナチス占領下の街でした……これはトレーラーに出てきたのですぐに分かってしまいました。
[ 2020/03/16 19:46 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

どうしようもない見通し(スタートレック:ピカード)

ミステリっぽい謎の展開としては:

大昔にデータがカンバスに描いた娘が、9年前にジャナという名前でイブン・マージドに接触を図ってきたことが判明しました。マドックスのダージ&ソージ(3年前)以前に、ジャナは造られていたということになります。

すると、そもそもデータが描いたことが先なのか、それとも後なのか、気になってきます。ジャット・ヴァッシュはかなり以前から破壊者の面影を知っていたようですから。データはジャナと同じ姿が脳裏に蘇って、それを単に描いただけかもしれません。

さらには、ヌニエン・スン博士式のアンドロイドが後に開発できなかった理由や、B-4がデータになれなかった理由も考え合わせると、そもそもの出発点はジャット・ヴァッシュの恐れる破壊者の故郷にある、ということかもしれません。スン博士もマドックスも、破壊者の星から何らかの技術的供与を受けたことで実用的なアンドロイドを創造できた、と。

つまり、淡い幻想を抱いているのはピカードで、ソージの面影はデータの娘という関連では無いことに成り得ます。マドックスのフラクタル・ニューロン・クローニングによって、データの一部を受け継いだだけに留まるでしょう。危険視されるアンドロイドに、データの良心が移植できたのかが焦点となりそうです。

そして、おそらくは死ぬ美学に魅了されている脚本家の手になる結末は、ソージを殺すピカードの図でしょう。そんなところだと俺は予測します。

本来は、ソージに殺されることも厭わないピカードに接したソージが、データの良心の何たるかに目覚める、という筋書きになるべきでしょうが、それでは面白くありません。ピカードが大切にしてきたデータの想い出をピカード自らの手で殺させる、そんな発想に落ち着くのが、ここの脚本家陣の思考でしょう。

もっと言うと、地獄の総大将が実はデータ(ローア)だった! くらいやるかもしれませんヨ。
[ 2020/03/14 09:55 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

スタートレック:ピカード第8話「真実の断片」

第8話はこの一連の作品における核心を(ようやっと)扱っていて、いかにスタートレックたり得ないかを体現しているエピソードでした。ジャット・ヴァッシュが懸念している事件・思想。それらに触れたアンドロイド研究の博士が言うセリフ云々。

※以下ネタバレ

冒頭、唐突にジャット・ヴァッシュの成り立ちが語られますが、まるで中世の魔女結社のよう――数百年の昔から続いているそうです。ロミュランってこんなに迷信深い種族でしたかね? スタートレックのロミュランとは思えませんし、全くセンスの無い設定だと思います。クトゥルフ神話の世界で起きた出来事にでもした方が向いているでしょう。

「警告の輪」の試練に耐えたことがジャット・ヴァッシュの共有する宇宙観だとしたら、おのずと構成員を減らしたであろう狂気の組織が、どうやってスターフリート深部にまで潜り込めるのか、とても疑問です。惑星連邦のセキュリティーはザルなんでしょうか。

ボーグが、例のロミュランによって再生されているキューブを遺棄した理由は、シャット・ヴァッシュに属していたラムダ(今回判明した事実=ナリッサ・リゾーの養母)が乗る船を同化した為のようです。つまり、恐怖を理解するボーグ。テクノロジーを求める彼らが異物を認めることはあったと思いますが、よりにもよってボーグすら恐れる体験をロミュランの記憶に見つけたから、とは。失笑モノ。

スターフリート最高責任者のクランシーに「宇宙のゴミだ!」と言ってのけるピカード。老人の痴話ゲンカのような言い争いです。視聴者やピカードにとっては第1話の雪辱に相当しますが、わざわざ汚い罵り言葉をロッデンベリーの意向に反して喋らせているわけですから、この作品自体がゴミにならないことを祈るばかりですね、パトリック。

リオス船長にとって、ソージの面影は何らかの忘れ形見のようです。それも忌まわしい記憶の。こういった関連付けと過去の暗い体験(登場人物の)ばっかりですよ、このドラマで使われる手法は。ホントに芸が無い。そして、全て説明セリフで開陳されます。

八枢機卿と八重連星系……ものすごく厨っぽい設定。

「自慢したいとか? ボク、こんなのできるよ!!」

独特な装飾を付けた見栄っ張りの薄っぺらい組織を山盛り登場させてくるのですから、もう胃もたれで、何も食べたくありません。

「いや使える。まずは彼らの受信機を再接続する。このキューブに限定的な集合体を作ればいい。動きを調整し、彼らをロミュラン兵に対抗させる」

「それはすごね、やって」

「これは同化だぞ。心を侵食して、自我を抑圧して従わせる。二度も」

「終わったら解放すればいい」

「解放を彼らが望みはしない。私も望まないかもしれない」

キューブのボーグテクノロジーがひたすら便利屋になっているだけです。いくらセブン・オブ・ナインを再登場させても、ドラマの質が上がるべくもなく……

「正直に言えば分からない。この気持ち分かる? 自分の中に大きな穴が開いてるの。ぽっかりと。たまごが好きかどうか聞かれても、答えるのが自分なのかプログラムなのか分からない」

P.K.ディック的なニセモノを、作り物である自我に見ているソージが発する言葉は、なんらかの精神疾患を抱えた者のそれです。そうした疑問は普遍的に、「自己とは何か」という哲学的な命題につながるはずですが、ここではひたすら個人の体験――データの存在した証し――にすり替えられて矮小化してしまいます。テーマの深掘りに失敗している例でしょう。

「もはや過去を持っていないと思うのか。それは違うぞ。君には過去がある。物語もちゃんとある。すぐにでも教えられるがね」

「データのことを言っているの?」

「データの娘なのだから、父はどうであったか。翻ってピカードをどう見ていたか」ではなく、「データたらしめていた人間性とは何だったのか」をピカードは説明するべきでしょう。人間とアンドロイドはそもそも違うのか、とね。陽電子頭脳に宿った人間性とは何なのか。人間は皆、自分に問い掛けるものだ、「自分の存在理由は?」と。

データにはローアという倫理観の欠如した双子の兄がおり、どちらもヌニエン・スン博士の似姿でした。やがてデータは念願叶ってエモーション・チップを搭載することになったわけですが、スン博士のダブルでもなければ、ローアの写しに成り下がることもありませんでした。最初は恐怖という感情に振り回されていましたが、やがて抑制できる(オフにできる)ようになったようでした。

常に人間らしい向上心を持った好人物だったのだ、とピカードは言うべきでしょう。その努力が彼を人間にさせていたと。エモーション・チップがなかったとしても、彼は十二分に人間だった、と。

「彼の感情表現や処理の能力は、残念だが非常に限られていた。その点は私も変わらん」

ピカードにこう言わせる脚本家はエモーション・チップが出てきた映画「ジェネレーションズ」のくだりを知らないのでしょうか。ピカードが自嘲気味に子供が苦手な自分(感情を出さないとクワト・ミラットの寺院でザニに言われた伏線がある)を、データのエモーション・チップに重ねているとしたら、この作品独特の思い上がりでしょうね。

この脚本家は「彼(データ)も(ピカードのことを)愛したはず」と、安っぽくお涙頂戴させることにしか、関心がないようです。

データがどれほど尊いアンドロイドだったかをピカードに言わせるのは感傷でしかないでしょう。想い出ビジネスと同じで。あの頃はよかった、それだけです。ヒューマニティーの限界を未来社会や理想に見いだそうとした過去作の精神を今回はわざと除外しておきながら。過去の栄光だけは利用して視聴者に訴えようとするのは、随分なまやかしです。

かつてのTNGのようなエピソードの核心となる教訓もなければ、例えば「ER緊急救命室」のような人間ドラマも醸成されてきません。「スタートレック:ピカード」はイタズラに謎ばかりひねり出し、銀河の端っこから端っこまで追跡させているだけです。どういう企画意図で作られたのか、甚だ疑問です。ファンからしてみれば、重大な背信行為と言えるでしょう。よくもまぁ、スタートレックという冠をつけられたものだと呆れますね。しかも、人気だったピカード(パトリック・スチュワート)を担ぎ出して、この有様だから。

「緊急なんとかホログラム」が今回もコミックリリーフです。ところが、いかんせん、他の土台がむごい有様なので、笑いを取るどころじゃありません。

ホログラムがやたら人間くさい世界であるにもかかわらず、アンドロイド(人工知能)は禁止という、わけが分からないダブルスタンダード。何よりもまず、ホログラムは禁止されない理由を説明する必要がありそうです。ジャット・ヴァッシュがホログラムを排除しないのは何故なのでしょうか。スターフリートの保安部長の責にある裏切り者がホログラムを野放しとは、これいかに?

「地獄を信じます? わたしもでした。あれを見るまでは。今は毎日死ぬことを考えてます。死ねば楽になれるから」

道理で。死ぬ美学が多用されて、過去の登場人物がポンポン安楽死するわけだ。こんなセリフをスタートレックの世界で聞くとは世も末です。

さらに、スタートレックで「地獄」ときました。TNGで登場する地獄の使者はまやかしの恐怖を与えるためにホログラムでねつ造されたものでした。科学文明の発展により、迷信の類いが明確に線引きされていたのが24世紀。オーヴィルでもそれは受け継がれています。

「それが起きたのは遙か昔。数十万年前。思い上がりのせい。ブルースが抱いたような…… 私たちは幕開けの場にいる。わたしはオウにそれを見せられた。今すぐ全ての人工生命を壊して、どんな小さな芽も摘まなければ!」

主人公が利用する人型ロボットという概念が日本で流行りだした頃、とりわけアメリカではキリスト教の影響下で、造物主の似姿として造られた人型を人間が造り出すのは不敬だから(ロボットは流行らない)、という理屈を聞いたことがあります。ジャット・ヴァッシュはまるでこの伝のようで、教義に反することを消し去りたいテロリストのようです。

「地獄がまたやってくる。そして、その幕開けとは……」

「セブチェネブが現れること。それは破壊者。……わたしよ」

スタートレックに対する破壊者は、この作品を造った人々でしょうね。かつて世紀末に流行った世界の終焉ブームのような体裁です。暗いディストピアと黙示録を結びつけても、少しもスタートレックにならないところが嘆かわしいばかりです。地獄を易々と信じてしまえる人々は、元来24世紀の地球にはほぼ居なかったでしょうから。

ソージにそっくりなジャナに、リオス船長は会ったことがあり、恩師アロンゾ・バンダミア艦長の自殺にも関係があるのでした。スターフリートの保安部から、特定の姿を持った人物を殺せと命じられており、それが娘の姿をしたセブチェネブでした。連邦士官だった頃のリオスに責められた艦長は自殺してしまったそうです。

リオス船長の苦悩は、またもや筋を肯定するだけの過去でしかなく、共感を寄せられる描写には届いていません。そんな屁理屈で伏線回収されましても…… つくづく雑な脚本です。

セブンとエルノアは一計を案じ、ボーグのユニットを活性化させましたが、真空の宇宙に排出されて失敗。ナリッサが一枚上手でした。(とりあえずは)

この辺りは視聴者を期待させてはぐらかす目的のトリックとして用意しているのでしょうが、派手な見かけだけで、だからどうした、というものばかりです。「セブンがボーグの臨時クイーンになるなんて? こりゃ凄い!!」とか、子供っぽいファンが喜ぶと思っているのでしょうね。

いや、むしろ、こうかな→「ボーグなんてエアロックから宇宙に放り出せば、イチコロじゃないか。ボーグの強さをありがたがるトレッキーって莫迦だよなぁ」

アグネス・ジュラティ博士は、オウ准将の(精神融合による)暗示で二度と殺しはしないと、ソージに決然と言います。ソージはピカードに吐露したときとは打って変わって、人間らしさの自負心を取り戻したように見えます。

「人間と言える? 理論上じゃなく。あなた自身が今こうしてわたしを見て話してみて。あなたと同じ人間だと思える? オウ准将にわたしも殺せと言われた。あなたにそんな機会は与えない」

この場面では、映画「ブレードランナー」のレプリカント:ロイ・バッティらが、その身体面での優位をバネに、平静な面持ちで無防備な生身の人間を殺す時と同じような、冷たい恐怖をソージに感じます。彼女はオウ准将をはじめとするジャット・ヴァッシュが宣伝するごとく恐ろしい存在に見えてくるわけですが、ならば、「データの娘」という免罪符とどう向き合わせるつもりなのでしょうか? せいぜい、やれることは一つしか無いと分かってきます。そこをどう裏切ってくれるのか。ここの脚本家連中にはあまり期待できそうにありません。ピカードとの絆が生まれた描写も足りないですし。

「わたし、人殺しはもう止めたの。それっていいことよね?」

あやまちで傷ついた登場人物ばかりを作中では描いているのですが、全然、報われていないように見えます。描写や演出がチグハグで。共感もできないし、ツボを外しているようにしか見えません。HBOの「ウエストワールド」シーズン2で出てきた“ティムシェル”のつもりなのかもしれませんが。そういった前振りが一切ありません。筋に都合のよいように動かされる登場人物。それだけです。

「誰も傷つけたくない。故郷に帰りたいだけ。向こうに着いたら、すぐに船を返す」

「君の気持ちは理解できるが、これは強引すぎる。俺達が手伝う――」

「何を理解できるわけ? 家族が殺されそうだったら、どうする? 家族を持ったことは?」

緊迫から一転。乗員達は互助の精神を発揮し、ピカードの号令一下、ジャナの故郷に行くことになりました。そういえば、第7話のなんとかいう老人の船長が出てくるのかと思ったら、番号だけの惑星という情報提供のみでした(もっとも、それすら今話では活かされてません)。第7話がただの挿入話に過ぎなかったことの証しでしょう。

アロンゾ・バンダミア艦長の自殺の真相があまりにもご都合主義だと察したのか、ワープ中の船内で、唐突にリオス船長とピカードが記憶を頼りに、彼は善人だったと言い始めます。

視聴者はポカーンではないでしょうか? 俺はそうでした。そんな蛇足をしても何にも足しにならない。もっと良質な説得力のある場面を作ってみて欲しいものです。説明ばかりのこじつけに飽き足らず、登場人物自らに、「(名前だけの)あいつはいい奴だった」と言わせてしまうなんて。最低の作劇でしょう。

「我々自身が自分を裏切っているんだよ。オウがバンダミアに命令を与えるずっと前からだ。あの禁止令そのものが裏切りなんだよ。オウやジャット・ヴァッシュが罠を仕掛けたわけなんだが、我々はそれを回避できたはずなんだ。恐怖におののく代わりに」

パトリックは政治信条をセリフに出したくてしようがないようです。もうウンザリですね! オウはどこかの国の大統領なのでしょう。

ところで、この作品には他では見たことの無い要素がいくつもあるわけですが、さりとてその良さも見当たらず…… 

・殺人の自首を宣言する女性研究者
・役に立たない看板の老人
・どんな情報でもいつの間にか知り得てしまう元副長
・古傷を話すと気持ちが安らぐだけでなく、前向きになる無邪気な船長
・殺人を止められず、それを通知しない緊急ホログラム
・エアロックに安全装置のないボーグキューブ
・精神融合を犯行指示に使うロミュラン=ヴァルカン
・故障するフェイザー
・心は子供、体は無敵のカランクカイ
・バイセクシャルの元ボーグ

などなど、数え上げれば切りがありません。スタートレックの定石を覆すアンチ的なワザの数々に、脚本家陣はさぞや鼻高々なのでしょう。

俺の中では、もう、どうでもいい作品に成り下がりました。これはスタートレックでは断じてないし、スタートレックモノでなかったとしても、相当の、いや相応の駄作です。がっかりするほどの。

余談ながら、米アマではウィル・ウィートンがホストのThe Ready Roomというショーがドラマと併せて配信されているのですが、日本のAmazonでは見当たりません。スタートレック:ディスカバリーの時は、一緒に「アフター・トレック」が配信されており、これは日本のNetflixで視聴できました。日アマは日本語字幕と日本語音声しかない点といい、Netflixよりも劣ると言えるでしょう。

もっとも、米アマでも問題点があり、スタートレック:ピカードを視聴したいなら、 CBS All Accessとのチェンネル契約を余儀なくされます。つまりprime videoに加えて料金を請求されるわけで、視聴者からは根強い反感を買っています。
[ 2020/03/14 03:51 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

スタートレック:ピカード第6話「不可能の箱」

第7話を先に見てしまったせいで、たいしたことの無いエピソードでした。劇的に動く回ではあるのですが、第1シーズン10話の内であることを考えると、展開としては遅すぎて微妙です。第7話も加味すると、大枠としてはほとんど進んでいません。

手掛かりに次ぐ手掛かりを追いつつも、何も判明しないという空回りばかりです。

ソージはますますレプリカント然としてしまって、TNGの人間になりたがるアンドロイドではなく、P.K.ディック的な「自分は模造品かもしれない」という猜疑心の塊になってしまいました。

ジャルマクという儀式が出てくるのですが、まるで回復記憶療法(催眠セラピー)ですね。偽の記憶を作ってしまうということはないようですが。

人間ドラマとしては、リオス船長が珍しく活躍しました。アグネス・ジュラティといい雰囲気になったり、ラフィーを気に掛けたりしています。

ラフィーは特に気の毒な境遇で、前回で息子から捨てられ、旧友からは、今回、ピカードの為に信任を取り付けたが為に、絶交を言い渡されます。麻薬中毒者の描写がそれとなく利いてました。

――ボーグに同化された人々は犠牲者であり、もうモンスターでは無い。ピカードやセブン・オブ・ナインと同様に、人間性を外見からも取り戻そうと施術を受けている。

ここは特筆すべき視点ではありますね。ただし、トロくさい展開と薄っぺらい人物造形、それに既に視聴者に情報をバラしてしまっている神視点演出と相まって、まるでパンチがありません。もう知ってる、と。この辺の情報を開示していくタイミングのコントロールがもっと緻密であれば、回が進む毎に驚きを持って歓迎されたでしょうに。

とりもなおさず、構成がダメダメです。

ミステリっぽい謎としては:

 ――ブルース・マドックスは双子だけを造ったはず。にもかかわらず、ジャット・ヴァッシュはアンドロイドの仲間がいると確信している(そいつらが世界に破滅をもたらすと信じているらしい)。だから、ソージの故郷を知りたがった。

 ――第7話でウィル&ディアナ夫妻の娘が、なんとかいう船長に連絡をつけて、問題の故郷が数字だけの惑星(ロシアの街みたい)と判明。

残り3話でそれなりのオチがつくとは、ちょっと思えませんねぇ。壮大なクリフハンガーで第2シーズンへ続くのでしょうかね?
[ 2020/02/29 12:17 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)

スタートレック:ピカードの暗部

反トランプ大統領、反ブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)を暗喩する政治色が、スタートレック:ピカードに影を落としている、というのが北米視聴者の専らの理解。

ピカードを演じる俳優のパトリック・スチュアートが自ら、反トランプ、反ブレグジットだと公言しているのだから。Patrick Stewart anti-Trump, anti-Brexitでググってみればいい。

政治との関わりをTVドラマにまで持ち込んで欲しくないと思う。

確かにスタートレックは時代色を反映したエピソードを作るのに格好の骨格を持っていて、実際にそういった使われ方もしてきた。でも、それはセス・マクファーレンのThe Orvilleが行っている範囲で留めておいて欲しいものだ。それより先は、現実の我々が考えるべき事であって、ドラマで指図されるいわれは無い。

惑星連邦が孤立政策に苦しみ、ロミュラン排斥を止めないのは、こうした理由なのだった。

劇中のピカードがスターフリート代表にFワードで「もう貴方の故郷では無い!」と返される場面は、おそらく、P.スチュワート氏がアメリカ・イギリス両国をFワードをもってして批判する事実から来ているのだろう。

Sir Patrick Stewart Says New ‘Star Trek’ Series Will Take On Trump, Brexit

“Picard,” he notes, is “me responding to the world of Brexit and Trump and feeling, ‘Why hasn’t the federation changed? Why hasn’t Starfleet changed? Maybe they’re not as reliable and trustworthy as we all thought.”

Stewart goes on to describe both the United Kingdom and the United States as “f***ed.”

なにせ、ドラマがそのように企図されるのはP.スチュワート氏の意向によるものだそうだから。

‘Star Trek: Picard’: Patrick Stewart on Why He Returned to the Final Frontier

On Jan. 23, CBS All Access will debut “Star Trek: Picard,” a series in which Stewart reprises the thoughtful, cultured, bald starship captain he played for seven seasons on “Star Trek: The Next Generation” and in a string of four feature films that ended in 2002. The new show is different from its predecessor in nearly every respect — texture, tone, format, production value, even the likelihood of characters dropping an f-bomb. That’s all by design. Stewart’s design.

これは果たしてジーン・ロッデンベリーが考案したスタートレックの世界だろうか? ドラマの私物化と言っても差し支えないようにも思える。

実は、The Orvilleにもブレグジットに似た情勢が登場する。こちらも、またもやAIに絡めたプロットで、個性的な発想など、この業界では求められていないのであろう。似たネタでありながら、物語の作り方がどのように違うかを見てみよう。

※以下、ネタバレ含む

■宇宙探査艦オーヴィル シーズン2第12話「歴史の一歩」概要
 女性の存在を認めないモクランでは、女児が誕生した場合に密かに脱出を助ける組織がある。そうした女性達が暮らす植民星の存在が、モクラン本星に知れてしまった。オーヴィルのキャプテン エド・マーサーは、この植民星を惑星連合へ加入させることが突破口になると踏む。ところが、モクランは惑星連合からの脱退をチラつかせて、それを阻もうとする。惑星連合は有機生命体抹殺を企むAI種族ケイロンの脅威を目の当たりにしており、武器供給元であるモクランの脱退だけはなんとしても避けたい。

――さて、ドラマの答えは妥協案であった。惑星連合は、モクラン女性の住む星の加盟を認めない。モクラン女性の代表者は、女児を脱出させる組織を解体する。モクラン本星は、モクラン女性の住む星を攻撃しない。

合意を形成することこそが民主主義のプロセスであるので、具体的な妥協案を導き出すことはとても重要。たとえフィクションの世界であっても(過半数による“暴力”は民主主義とは言えない)。

実にTNG的で素晴らしい。視聴して貰えば一目瞭然だが、人道的な仲裁を描いた場面がコメディタッチで微笑ましい。こうした一話完結エピソードの作り方はとても理に適っている。

設定を歪めることで、リアル指向の反面教師を促すスタートレック:ピカードとは好対照である。どちらが賢い作り方だろうか? ピカードのやり方は、ドラマの質の向上へは貢献していないようだ。

政治的なメッセージでアジって旧来のトレッキーを苛立たせるのが得策であるか、キャプテン・ピカードとは違って、P.スチュワート氏にはそれが分からなかったようだ。自身の出演作に、客観的な娯楽作品としての価値をもう一度考えてみるべきだったろう。
[ 2020/02/28 15:41 ] 映画、ドラマ感想 | TB(-) | CM(0)
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